甘えていいのに 4




両手をかけた腰の細さに罪悪感が芽生える。
無理やりしているわけではない。
の了解協力の下、こうして睦み事をしているんだ。
そう自分に確認を下さなければならないほど、は俺にとって長い間不可侵の女の子だった。
長年夢見てきた。
と男と女として交わることを。
この一瞬のために、俺は今まで我慢してきたんだと思う。
まさに至福の瞬間。
そっと自身の先が彼女の窪みに触れる。
その何とも言えないざわめきが背筋を駆け上がる。
の眉間にしわが刻まれる。
「痛いのか?」
心配になって問う。
「ううん、ちょっと違和感があるだけでまだ痛くないよ。お兄ちゃん・・・、じゃなくって、駿。ゆっくりだと余計に怖くなるから、早く・・・来てね。」
儚い笑みでそんな言葉を俺に告げる。
分かっているのか、いいや、絶対に分かってないだろうな。
今のは、AVでもよく使われる殺し文句だということなんて。



本人の許可も出たことだからと、グッと腰をすすめた。
に近づいたから、キスが出来るようになって、ぎゅっとまぶたを閉じている彼女の唇に自分のを重ねる。
「大きく息を吸って、身体から力を抜いてご覧。」
一度深呼吸させたら、の中が少し柔らかくなった。
「いい子だね。そんないい子には、ご褒美だよ。」
出来るだけ甘くと思いながらキスをする。
何度もついばんで、の唇が開くのをうながす。
開いたところに、舌を忍び込ませての味を味わう。
キスに集中してきたのか、すっかり身体の緊張が取れてきた。
これを逃す手はない。
止まっていた腰を最後まで突き進める。
「ぅ、・・・・・・。」
声にならない悲鳴がの口からこぼれた。
、痛いだろ、ごめんな。少し治まるまでこのままで居るから、痛みが遠のいてきたら言って。」
黙って頷く事しかできない彼女。
彼女の身体を抱きしめて、髪の毛を何度も撫でる。
痛みを逃す為だろう。
大きく呼吸をしている。
その度に、柔らかい胸が俺の胸に当たってくる。
ただでさえじっとしているのも辛いのに、甘い責め苦は何度も繰り返された。



「駿・・・もういいよ。」
小さい声での許可が出た。
だからと言っていきなり大きい動きは出来ない。
入るところまで入っている身体を、少しだけ引いてみる。
途端にの表情がゆがむ。
どうして女にはこんな痛みと言うものがつきまとうのだろうと、わけもなくそんな事が浮かんだ。
毎月のモノでも大なり小なり痛みがあるというし、初めてのセックスでも、出産でも、痛みは常に女性側だ。
イブが犯した罪がアダムよりも深かったからだとしても、にはその罪はない。
本当にかわいそうとしか思えない。
男はただ気持ちいいだけなんだよなぁ。
もっと、が行為に慣れてくれば、きっと気持ちいいはずで、とりあえずそれまでは痛くないように気をつけようと思った。
少しづつ動きを大きくしていく。
ぎゅっと目を閉じて、痛みに耐えているような表情のを見ると、気持ちいいのに罪悪感ばかりが湧いてしまう。
「ごめんな、。出来るだけ早く終わらせるから、ちょっとの間辛抱してくれな。」
キスの間にの目を見てそう伝える。
2回ほど頷いたは、ぎこちない笑顔で笑ってくれて俺を見てくれた。
うっすらと開いた瞳に涙がすぐにあふれて来た。
親指の先で流れた涙をぬぐってやる。
こんなに痛がるのなら・・・と、後悔の念も抱かないわけじゃない。
けれども、お互い何時までもこのままではいられないことを承知していた。
幼馴染という関係からひとつ階段を上って、本当の恋人になるために。
とにかく、ここは早く終わらせようと、我慢していた動きを開放した。
ただでさえ、とひとつになれた喜びで、すぐにでも終わりそうだったのを、動かずに耐えていたのだから、動き出せば話は早い。
余計な事を考えず、その行為と感覚に身を任せた。
本当に男なんて厄介な生き物だ。
痛い思いをさせると分かっていても、欲情に目がくらんでしまう。
きっと痛いだけに違いない。
それでも、進んで俺を受け入れてくれたことに、から想われているんだと感じる事ができる。



後処理をしようと、下を見る。
破瓜の時の出血があった。
枕許のティシュを数枚抜き取って自分の始末をする。
下着だけはいておこうか。
見れば太ももにも飛沫が飛んでいる。
シャワーを浴びた方がいいだろうが、先ずはだ。
、生理の用意してる?」
「う、うん、一応。」
「じゃ、それをもってシャワー浴びてきな。結構出血してるから、ティシュじゃ嫌だろ?」
俺の話した内容にがぎょっとした表情になる。
幸い、用心に大判のバスタオルを敷いておいた。
それには少しだけ赤い部分がある。
普通の水洗濯で落ちる程度。
が身体を動かした時に、身体を隠すのに巻いてやる。
「このまま行きな。で、洗濯機に放り込んどけ。俺の分と合わせて後から洗うから。」
「うん。」とだけ返事があったが、はこっちを見ない。
、こっちを見て。」
手にポーチや用意してきたらしい着替えを持ったが、渋々と言った感じでこちらを向いた。
「後悔してないか?」
「駿は?」
「おれ?俺はもちろんしてないよ。とひとつになれて幸せだと思ってる。」
「ほんと?」
「ん、心から。」
「私も。」
そう言って彼女が飛び込んできた。



「痛くしてごめんな。」
抱きしめて耳元で囁く。
「いいの、駿とこうなれて、嬉しかったから。」
「ん、ありがとな。さあ、行っておいで。」
腕の中でコクリと頷いた彼女は、少しぎこちない動きで浴室へと消えた。
ベッドを簡単に直して、自分の下着とTシャツスエットパンツを出す。
それから・・・っと、タンスの引き出しのハンカチなんかを入れているところから、細長い箱をひとつ出す。
そこへちょうど、シャワーからあがったが出てきた。
、こっちへおいで。」
ポーチだけを手にした彼女は、素直に歩いてくる。
「痛みは?」
「うん、大丈夫。」
「そっか、よかった。これ、今日の記念に。いつも着けてくれてると嬉しい。じゃ、俺も浴びてくるか。」
彼女の手のひらにさっきの箱を落としてやると、立ち上がった。
恥ずかしくっての顔なんか見てられない。
あれの中身は見なくても分かっている。
ベビー・ブルーの箱のブランドの可愛いハートのペンダントだ。
でも、俺がこだわったのは空洞のハートじゃなくて、優しいハートが2つの方だ。
俺とと言う意味。
分かってくれるだろうか?



シャワーから出ると、着替えた胸元に手を添えて彼女は鏡の前に立っていた。
「これ、私に?」
「他に誰に贈れって言うんだ?俺にはしか居ないだろ?気に入ってくれたか?」
「うん、すっごく。うれしい、ありがとう。」
幼い頃、俺によく懐いてくれていたは、機嫌が悪い時でも俺にだけは笑顔を見せてくれていた。
の親父さんには、その事で随分恨まれたっけ・・・。
あの頃とおんなじ笑顔。
ネックレスは彼女の白い肌に良く似合うと思う。
「俺の気持ちとの気持ちが、ひとつになった記念な。いつも一緒にって・・・。」
「うん。」
彼女の後ろに立ち、鏡の中のに向かって話しかける。
目があってお互いに微笑みあう。
愛しい身体を腕の中に抱き込んで、頭のてっぺんにキスを落とした。



その日は、簡単な夕飯を作って食べて眠った。
も俺も疲れていたのかDVDは、観ずじまい。
翌日、まだ軽く痛みがあると言うの身体をいたわってゆっくりと朝寝し、ブランチを食べたら家を出る時間になっていた。
来た時と同じように駅まで送る。
泣きそうなのを我慢しているぎこちない笑顔に、俺の方も切なくなる。
売店の影で掠めるだけのキスを落とす。
「来週は、俺が行くから。」
「うん、待ってる。」
そう言って俯いてしまう
それ以上何も言えなかった。

テールランプを見送るのは結構辛いってはじめて知った。




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2006.11.10up