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 甘えていいのに 2
 
 
 
 
 必死に腕を回してしがみついて来る。
 「?」
 「駿、お風呂沸かしてくれる?」
 見上げてきた瞳は潤んでいた。
 「いや、無理はさせたくないんだ。ごめん、今のは聴かなかったことにしてくれな。俺は待つよ。これから、とはずっと一緒だからね。」
 離していた両腕を彼女の腰に回して、上を向いている額に自分のそれを押し当てた。
 「無理なんてしてない。大丈夫。あっちに居たら、私達何時までも幼馴染のお兄ちゃんと妹で居なくちゃならないでしょ?だから、こっちに来たんだもん。駿と本当の恋人になりたくて・・・。私もそうなりたいって思ってるから・・・。」
 嬉しくてちょっと泣けてきて、思わず目を閉じてやり過ごす。
 「ん、分かった。でも、そうならそれでちゃんと食べたりして、風呂も入って準備しよ。余裕を持ってゆっくりした方がいいだろ?」
 額をつけたままだから、は少しだけ頷いた。
 「じゃ、とりあえずはすぐそこにあるファミレスで軽く食べて、スーパー寄って買い物してこよう。この後、外出しなくてもいいようにしておかないと・・・な。」
 身体を離して手を繋ぐと、そのまま玄関を出た。
 
 
 
 ランチを食べて、スーパーで買い物をした。
 はやっぱり女の子だ。
 俺は簡単に食べれるものと言ったら、レトルトカレーかカップラーメン位しか
 思い浮かばなかい。
 簡単に食べれる物と言っても、が手にするものは料理としての簡単なものだった。
 例えば、スパゲティとかだ。
 おばさんがどれくらいに料理をさせてたかなんて知らないけれど、ここは彼女に花をもたせて、俺は荷物持ちに徹した。
 ミネラル・ウォーターやスポーツドリンクまで揃えて帰った。
 ついでに、レンタルショップで見たい映画を5本借りた。
 まあ、5本で1000円とお得パックだったからだ。
 本当に帰るまで外出しない気らしい。
 それはそれで嬉しいけれど、普通のデートもしてみたいなぁと思う。
 がこっちに来るのは今回限りということでもないだろうから、次の機会には話題のスポットにでも連れて行ってやろう。
 
 
 
 部屋に帰ると、買ってきたものを冷蔵庫に片付けた。
 それから、夕飯の下ごしらえだと言ってはキッチンで何かを作り、それも冷蔵庫に入れたみたいだ。
 俺はその間にシャワーを浴びた。
 約束だから風呂を準備してやる。
 もちろん、のために。
 「ゆっくり入って来いよ。」
 昔、何かに落ち込んでいたを慰めるのに、よく頭を撫でてやった。それと同じ感覚で、優しく促してやる。
 俺は一緒でも構わないけれど、が首を縦に振るはずが無い。
 もう少し慣れるまでは、何事も紳士な態度で。お兄ちゃんから恋人への脱却もなかなか大変だったりする。
 まあ、そんな愚痴はには内緒だけれど・・・。
 男と女を意識するには、身体を重ねるのが一番早い。
 俺たちの場合は特に必要だと思う。
 これまでの俺との思い出を否定するわけじゃない。
 けれども、これからの俺たちの関係を築いていく為には、ここでハードルを飛び越える事が必要だ。
 俺以外の人間がこの部屋にいるのは久しぶりだ。
 お袋が尋ねて以来かな。
 同じ水音でもこうも違って聞こえるものかと、不思議に思ったりする。
 ようやく静かになって浴室のドアの開閉音がした。
 ドライヤーも出しておいたから大丈夫だろうと耳を澄ませると、すぐに送風音が聞こえ始める。
 そういえば、小さい頃に一緒に入ったお風呂のあとは、俺が髪を乾かしてやってたと思い出す。
 小さい頭部にびっくりしたっけ、髪も肌も柔らかくって子供の匂いがしたなぁ。
 そんな事を思い出していたら、いつの間にか目の前にが来ていた。
 出しておいてやったバスローブは俺のものだから当然ダブダブだ。
 それがとっても可愛い。
 
 
 
 「何か飲むか?」
 「うん、お願い。」
 すぐにでもベッドへ連れて行きたいところだけれど、それはあまりにも恥しいので、やめておく。
 とりあえずは、喉を潤しておいてもらおうと、冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出した。
 グラスと一緒に差し出せば、すぐに注いで口をつける。
 そのさらされた喉元に一筋の雫が流れるのを見て、胸がドクンと脈打った。
 あぁ、もう限界かもしれない。
 グラスをコトンとテーブルに置くと、は俺を見上げてきた。
 「おいで。」
 それ以上は何を言えばいいのかわからない。
 差し出した手にの華奢な手が触れてきた。
 痛くないようにつかんで、隣の寝室へと連れて行く。
 バスタオルを手にしたままは黙って後ろを歩いて来た。
 ずっと、ずっと、夢見ていた瞬間。
 
 
 
 小さい頃から知っているから、子供としての成長も少女としての成長も、そしてこれからは女としての成長も見ていくに違いない。
 それは、幼馴染として、男として、本当に幸せなことだと思う。
 けれども、ここまでの事を知っているから、せっかくつぼみをゆっくりと開こうとしている可憐な花を、摘んでしまうのはいかがなものだろうかと思ってしまう。
 このまま何時までも穢れを知らないで、清らかなままで居て欲しいと思う反面、誰にも渡せないと言う独占欲で、自分の女にしたいという思い。
 振り子のように左右にふれる。
 けれど、の全てを見たい。
 の全てを欲しいという気持ちは、その戸惑いをりょうがするものだ。
 誰も踏み込んだ事のない、彼女の核心部分に迫りたい。
 誰よりも一番近くに感じて欲しい。そのためには、どうしてもこの行為しかない。
 だから・・・。
 
 
 
 がどう思っているか分からないけれど、大人しくベッドに腰をかけてくれた。
 隣に座ってゆっくりと押し倒しながら横たえてやる。
 「怖いか?」
 「少し・・・ね。でも、駿だから心配してないよ。」
 ぎこちなく笑ってくれたことで、こちらも安堵した。
 「実は俺はすごく怖いんだ。」
 「どうして?」
 「を傷つけるんじゃないか、とか、怖がらせてしまうんじゃないか、とか、嫌われてしまうんじゃないか、とか、あまりにもが欲しくて歯止めが利かなくなりそうで・・・色々ね。」
 今更格好つけたってしょうがない。
 俺がの事を見てきたのと同じように、だって俺の事を見てきたはずだから、ここは素直に直球勝負の方がいいだろうと思った。
 「そんな事にはならないよ。だって、駿だもん。誰よりも信用してる、だから、私の全てを預けるんだよ。」
 そう好きな女の子に微笑まれて、嬉しくない男なんか居ないだろう。
 「じゃ、がんばんなきゃな。大事な大事な可愛い俺のちゃんの言うことだから・・・。」
 化粧なんてしていないはずなのに綺麗なピンク色をした唇。
 それにそっと触れるだけのキスを落とす。
 もどかしいほどのキスが全ての行為の始まりを告げる。
 数えるのもばかばかしいほど何度も繰り返す。
 表情を見るために少しだけ顔を離す。
 「好きだよ。」
 「私も・・・。」
 焦点がやっと合うほど近い場所だからこそ、小さい声で囁きあう。
 まるで秘密を教えるように、気持ちを言葉にして。
 
 
 
 ゆっくりと目の前で閉じられるまぶたは、俺を誘っている合図だ。
 の全てを感じる為に、俺はもう一度唇にキスを落とした。
 手探りでローブの紐を解く。
 ぎゅっとしがみついてきたを抱き返してやる。
 それに安心したのか彼女の身体から力が抜けた。
 キスを唇から首筋へ移動してやる。
 「あっ、あのっ・・・やっぱり・・・」
 彼女がためらいを口にしたのを聞いて、鎖骨へと届きそうになっていた顔を今一度見合わせてやる。
 「、どうしても嫌なら今そう言って。俺はすぐに駅前のビジネスホテルへ行かなきゃならないから。」
 「どうして?」
 「今日、この部屋でこれ以上の事をしないまま、と2人ではいられない。」
 ローブの下へと伸びようとしていた手を、背中に回して力任せに抱きしめた。
 
 
 
 
 
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 2006.10.20up
 
 
    
 
 
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