ブランコが記念品?  2




学生用のアパートまで送ってもらって、そこで倉田君と別れた。
軽くご飯を食べて、お風呂に入って、つけているだけのTVを見て、ベッドに入って電気を消した。
天井を見て、今日倉田君の言ったことを思い出して、考えてみた。
『気軽に考えて付き合ってくれればいいよ。
最初はお試し感覚で・・・・さ。』
彼はそう言ってくれたけれど、気軽でいいものだろうか。
だって、倉田君とならどうしても私が付き合いたいって言う女の子も居るはずだ。
いい加減な気持ちで付き合ったりしたら、本気な子に悪いと思う。
彼だってそんなのはいやだろうし。
私だっていやだ。
好感を持っていたことは間違いない。
あんな彼氏が欲しいと思ったことだってある。
せっかくのチャンスであることは確かなのだから、この際利用させてもらって、倉田君の人となりを見せてもらおう。
それから、正式な返事をさせてもらおう。
外灯に映し出された天井を見ながら、どうにか自分の考えをまとめた。



翌日のお昼休み。
いつものようにゼミの友人3人とランチを学食で取る。
日替わりを食べきって、食後のお茶を飲んでいた。
テーブルの上の話題は、今夜のドラマの行く末だったりする。
それを黙って聞いている振りをしながら、私は昨日から暇が出来ると彼の事を考えている。
少しも実感がわかないから、現実味を帯びてはこない。
もしかしたら、夢か空想の出来事のような気さえする。
本当だったんだろうか?
自分に都合のいい夢でも見たんじゃないか・・・そんな風に感じ始めていた。
私自身がそんなだから、誰にも話してはいない。
誰も本気にしないと思うし。
そんな私をよそに、いい男に言い寄られる女という話題で、話は盛り上がっているようだ。
「本人は気づいていないけれど、ここにも言い寄られている女がいるよね。」
「あぁ、ホントだ。
居る居る。」
と、そこでその場のほとんどの人間が私を見た。
数人しか居ないけれど。
「えっ?」
昨日の話しは誰も知らないはずだ。
なのになぜ、みんなが私を見るんだろう?



「あぁ、やっぱりね。
真由ったら本当に自覚がないんだから。
あんたはね、自分で思っているよりももててるんだよ。
直接言ってくる男は今の所居ないし、まあ、実は私たちが雑魚を追い払っちゃってるからね。
軽い気持ちの男なんか来ないだろうと思うけれど。
それでも、熱い視線を送ってくる人が居るんだよね。
まあ、私たちも彼なら・・・・って思ってるんだけど。」
仲間の中で一番仲のよい佐保が、その場のみんなに目配せする。
うんうんと、みんながそれに同意して頷く。
「真由はね、軽い気持ちで寄って来る男なんかに渡せないよ。
彼女が居るのに合コンに顔出すようなやつとかさ、二股かけるようなやつとかさ。
真由一筋って言う男じゃないと、私が認めない。」
そう言って彼女は私をかき抱いた。
やさしく甘い香りに心も温かくなる。
佐保の気持ちはうれしいけれど、私にはそんな価値無いと思う。
それでも友達からそんな言葉をもらえば、とてもうれしい。
佐保の胸に抱かれたまま、少しその幸せに浸る。



「確かにさ、佐保が言うとおり真由って目立つ美人じゃないよ。
けどさ、とってもいい子だってことは、みんな知ってるから。
その小動物的な可愛さが、たまらないんだよね。
それを分かって大事にしてくれる人じゃないと・・・ね。」
佐保の話に頷いていた隣の子も同意して、そんなうれしい言葉を聞かせてくれる。
照れながらうれし涙が出そうになる。
素敵な彼氏なんかいなくても、同性の仲間だけでもいいと思えるくらい。
「ま、真由を喜ばせるのはこれくらいにして、昨日の話しを聞かせてもらいましょうか。」
「昨日の話し?」
「そう。
昨日、倉田君と一緒に歩いていたでしょ?
彼が女の子と2人っきりでって言うのも珍しいけれど、それが私の真由という事になれば、何をしていたか気になって当然でしょ?
それとも、何?
この佐保様には話せないようなことなの?」
佐保の質問にみんなが「それ本当?」と興味を示す。
「あの倉田君だよ〜。
彼ってさ、女の子と2人になるのは避けている節があるじゃない。
それでなくても真由との接点が少ない彼が、2人でしなければならない話があるってことは無いでしょう。
真由が望んだとも思えないし・・・・・。
と言うことは、倉田君が真由を誘ったとしか思えないわけ。
だとすれば、話を聞かずにはいられないでしょ?」
その場の3人の視線と耳が私に集まった。



白状しなければ許されないだろうと思う。
覚悟はした。
けれども、ここは大学の食堂で、どこから話が漏れるか分からない。
「うん、話すよ。
でも、さすがにここじゃちょっと・・・・。」
「あぁ、確かにね。」
私の意図するところを察して、佐保が「分かった。」と返事をくれた。
「じゃ、今夜は飲みに出かけよう。」
それに全員が笑顔になる。
ここまでまとまりがいいのは、ひとえに佐保の人徳だろうか?
それとも人の恋話を聞かずにはいられない為だろうか?
とにかくその場は何とかしたものの、私はその晩、同じ大学の人が使わない居酒屋の個室で、
倉田君とのやり取りを洗いざらい話をさせられてしまった。
全てを話し終わった私をニコニコ顔で見つめた佐保は、「つまり、あれだ。
倉田氏は私の真由ちゃんに惚れている、と。
そういうことだね。」
そう言って、手にしたチューハイのグラスを一口あおった。



「で、なんて返事するつもり?」
テーブルの向かいからそう尋ねられて、思わずうつむいてしまう。
「何?断るつもりじゃないでしょ?」
「う〜ん、迷ってる。」
「まあ、あの倉田氏じゃね。
真由が気後れするのも分からないではないけれど、でも今日学食で話した真由に熱い視線を送ってくる人がいるって話。
あれ、倉田氏なんだよね。」
他の2人も同意して頷いている。
「そうなの?」
「うん、実はそうなんだ。
他にもいることはいるけれど、彼が一番熱心に真由を見てる。
もてるのに女の子との浮ついた噂も無いし、合コンにも顔を出さないし、そういう点では合格だね。
迷ってる位なら、少しだけでも付き合ってみたら?」
佐保の勧めにあいまいに頷いておいた。
話題は他の2人の彼氏との馴れ初めや惚気へと移って行ったから、私はそのまま話を聞きながら、倉田君のことを考えていた。
佐保が言うとおりに倉田君が普段から私を気にかけていてくれるのなら、私の人となりも多少は見てくれているはずだ。
だったら、彼が申し込んでくれた気持ちは、本物かもしれない。
彼の気持ちに応えてみようか。
中高とエスカレーター式の女子校にいたせいか、私には男性への免疫があまり無い。
怖いとか嫌いだとかではなく、苦手なのだ。
その苦手意識から、つい男性との接触を避けようとしてしまう。
それがガードが固いととられて、いつも『可愛くない女』と札を張られてしまう。
ゼミでもサークルでも、周りにいるのは女友達ばかり。
そろそろそんなのも嫌だとは思う。
私だって彼氏がほしいと思っているし、彼氏いない歴に終止符も打ちたい。
だけど、どう返事をすればいいのだろう。
それさえ分からないと知ったら、倉田君はどう思うだろうか?
こんな女に声をかけて失敗だと思うだろうか。



佐保とは帰る方向が一緒だ。
「ねえ、さっきの倉田君のことだけれど、なんていって返事をすればいいのかな?
私、お付き合いするのって初めてで、どうしていいのか分からないよ。」
人気の無い道で、ポツリと本音を覗かせてみた。
「ん〜、そうだねぇ。
倉田君はなんて言って、真由に申し込んだの?」
「えっと、『僕と付き合って欲しいんだ。』だったかな。」
「『こちらこそ、よろしくお願いします。』とかさ。
『まずはお友達からでいいですか。』とか言うといいんじゃない。
真由が倉田君のことを好きなら、『私も好きです。』って直球もありかな。
どう、参考になった?」
「うん、ありがと。」
佐保の言ってくれた言葉は、口にしやすそうに思えた。
あまりはっきりと言わなくてもいいのかもしれない。
そう考えたら、ちょっと気が楽になった。






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2006.07.10up