4.例えば海と空のように
浜辺の砂浜に立って、目の前に広がる海と空を見ると、
はるか彼方の水平線で、2つは溶けて交わる。
先の見えない未来でコイツとそうなるかもしれないと考えていた1年生や
2年生の頃は、いつかは・・・と思っていた。
卒業までには話が出来るくらいには、親しくなれるんじゃないかと。
本当はそう見えるだけで、何処までもこの2つが一緒になる事は無い。
私とコイツもずっとそうだと思い始めていた。
この急展開を受け入れたら、私とコイツはどうなるんだろう。
先ずは副会長を引き受けて、こいつと話をする仲になって、
顔と名前だけのクラスメイトから脱皮する。
そして、お互いをもっと良く知って。
それから・・・・?
あぁ、その前に私が抱いているこの気持ちをどうするかだ。
今日まで、そうさっきまでは、この不可解な気持ちや
コイツに抱いている興味はなんなのかはっきりとはしなかった。
でも、内なる嵐とコイツの言葉のおかげで、見えなかったものが見えてしまった。
私はコイツのことを好きなんだと。
何重にも覆い隠されていたものが、波に洗われ、風に飛ばされて
はっきりとしてしまった。
そして、この気持ちが成就するかもしれない今、
相手が手の届かない空でも何とかしたいと思う。
「どう?
俺の副会長やってくれる?」
「貴方の?」
「ん、そう。
おれはそう思ってる。
他の会計や庶務は、各学年から選ばれた生徒だろ?
まあ、多分成績も良くて真面目な奴ばかりだと思う。
だから、仕事だってちゃんとやるだろう。
でも、副会長だけは会長が選んでいいというのには訳があると思うんだ。」
そう言ったヤツは、唇をキュッと閉じて言おうかどうしようか
悩んでいるようだった。
「勿体ぶらずに言ってよ。
気になっちゃうし。」
ちゃんと話に興味があることと、聞いているんだという意味を込めて、
話の先をせかした。
「つまり、ほかの執行部員は顔も知らないやつが来るかもしれない。
だから、慣れるまでは信用もできないし、話も噛み合わないかもしれない。
会長としての行動や発言は、俺ばかりじゃなくて在校生全体の発言とされることもある。
そんな大事な自分の言葉や権限を、軽率に誰かに託したり、
代行させるわけには行かないだろう。
そうなると、会長として絶対的に信用できる誰かが必要になってくるというわけさ。」
そう言ってコイツは私を見た。
「つまり、それが副会長ってこと?」
「ん、そういうこと。」
その責任の重さに、私では引き受けられないと思い思わず俯いた。
自分が会長になろうと選挙に出たというのに、
会長の代行をするかもしれない副会長になることを、
どうしてためらうのだろう。
我ながらおかしな話だと思った。
けれど、自分が会長になることと、
私がその人の代行や意思を伝えるとなると話は違ってくる。
私だけの責任や罪では済まされないから。
どんなにその色が似ていると言っても、海は空の代わりはできない。
命を育んでいるこの綺麗な星を、その優しく透明な大気で包み守ることはできない。
海は空の下でただ静かに見上げているしかできない。
同じ空になろうとした愚かな私。
同じになんてなれるはずがないのに。
だからこそ、こんなにもコイツに憧れ想いを募らせたのだろうか?
自分じゃ結構がんばっていたつもりでも、もとの大きさが違った。
例え、私が会長に当選したとしても、
きっとコイツを副会長になんて指名しなかっただろう。
なんだか自分の器の小ささに嫌気が来る。
やっぱり断ろう。
「私の能力を高く買ってくれたのは本当にうれしい。
ありがと。
でも、私には無理だと思う。
私たちの関係がどうこう言う前に、私は副会長の器なんかじゃないよ。
もっと相応しい人を選んだほうがいいよ。」
「でも、会長になろうと選挙に出たくらいなんだから、
やる気がないわけじゃないんだろ?」
その真摯な問いに私は首を横に振った。
「私じゃ駄目だよ・・・きっと。」
「そんなことないって、ちゃんと俺もサポートするし。
これ以上、きみに恥をかかすようなことはしない。
何か言う奴がいたら俺が許さないし、言わせない。
君の事は俺が守るから。」
必死の形相で言ってくれるのはもちろんうれしいし、悪い気分じゃない。
でも、それにどちらで答えたらいいのかわかんない。
「ちょっとさっきからの話を整理させてね。
私と話すきっかけに会長になったり、副会長として指名してくれたのは分かった。
私は今、副会長になって欲しいって言われてるんだよね?
でも、さっきから話の中心になっているのは、副会長になるのはついでか
口実のように聞こえてて、なんだか付き合ってくれって
言われているような気がするんだけど。
私はどう答えたらいいのか・・・・。
副会長の返事だけすればいいんだよね?」
私の混乱は、コイツが原因だからはっきりさせなければならないのは、
コイツの態度や言葉の方だ。
「御免、さっきから俺の気持ちをごちゃ混ぜにして話しているから紛らわしいな。
じゃ分けて聞くから。」
居住まいを正すと私の両肩に手をかけて私の体を横に向けた。
肩に触れていたアイツの手が離れてゆく。
少しだけ伝わった熱が冷えていった。
(C)Copyright toko. All rights reserved.
2005.11.12up
|