3.素直になれないから




「そんなにしてまで、私と仲良くなりたいの?」
こんな切り返しをしたら可愛く無い女と思われる。
そう分かっているのに、生来の意地っ張りな性格が災いして、
私に本音じゃない言葉を語らせた。
今までに受けてきた告白とは明らかに違う自分の内側の反応。
体育館の裏に呼び出されても、
人気の無い視聴覚室で受けた告白にも、
こっそり入れられたロッカーの手紙にも、
こんなに心をときめかせた事は無い。
それだけコイツが気になっていると言う証拠なのに、
なんで、ここで、素直になれないかな。
意地っ張りも時と場所を選ばないといけないのに・・・。



高校3年生にもなれば、ちゃんと自分をコントロール出きるようになったと思ってた。
小さい頃のように、意地を張ったばかりに後で後悔する様な事をしないようになったと。
何でコイツの前だと上手く行かないんだろう。
先ほどの心の中でおこった小さな嵐は、
怒りとは別のエネルギーを与えられて巨大になってしまっている。
この胸の鼓動は、ひょっとしたら目の前のコイツにも
聞こえてしまっているかもしれない。
私の耳はその音だけに支配されているように、それだけが聞こえている。
脈打つ心臓と流れる血液の音。
振り回されてしまっている。
コイツの言葉に。
「ん、どうやらそうなんだよね。」
その耳鳴りにも似た鼓動を打ち破って、声が聞こえてきた。
今までは、外からの音なんて聞き取れそうにもなかったのに、
こいつの声はすんなりとその障害を乗り越えて聞こえてきた。
その辺もなぜか負けたように思えて、ちょっと悔しい。



「俺も驚いてるんだ。
まさか、この俺が女の事で此処まで熱くなるなんて、思いも寄らなかったし。
何度も何度も否定してきたんだ。
君が気になって仕方が無いと思う度に。
『女なんてくだらない。
勉強や将来の邪魔になるだけだ。』ってさ。」
自嘲めいた台詞に顔を見ると、少し寂しそうに微笑んでこちらを見ていた。
「入学してからずっとそうだったんだ。
もう、負けたよ。
潔く負けを認めたんだ。
湧き上がってくる気持ちにふたをして目を閉じても無駄だって。
ここまで、否定したのに全然その効果がない。
むしろそれに逆らうように、日増しにそれは強く大きくなるんだ。
そしたらさ、今度は今の状態じゃ満足できない自分がいてさ。
おかしい位にどうにかできないかと考えてるんだよね。
この俺がだよ。
おかしいだろ?」
そんな事は無いと、首を横に振って見せた。
まだ自分の気持ちに素直になれなくて、声には出来なかった。



「それに、君に嫌われていると言う自覚もあったし。
だから必要最低限の言葉も交わしてもらえなかったんだろ?
でも具体的に、どうすれば良いのかって言うのも分からないし。
あれだけ頻繁に告白されているのを見るとさ、
普通に『好きです、付き合ってください。』なんて言っても
駄目だろうというのは分かっていたんだ。
強引に俺に注目してもらえるチャンスは無いかと、ずっと狙ってた。
まあ今回のは、俺的にもかなり危ない橋だったけどさ。」
そこで、一つ大きく息をして、顔をあげると私を真っ直ぐに見つめて来た。
逃げられない視線につかまって、私も見つめ返す。
「だけど、何とか当選したからさ。
これは神様が『がんばれ』って言ってくれているものと、
そうポジティブに解釈する事にしたんだ。
それで、会長候補の落選者から副会長を指名できるって事で、君を指名したわけ。」
真っ直ぐに向かってくる視線と気持ち。
素直になれなくて、いつもなら誤魔化してしまう所だけれど、
そういうのは許されないと思った。



私もちゃんと応えなければならない。
いつだって、告白してくる人には出来るだけ真摯に答えてきた。
簡単なことだった。
だって、その人のことなんとも思ってなかったから。
そのまま伝えればよかった。
気持ちを受け取ってあげられなくて申し訳ないとは思うけれど、
中途半端やいい加減な言葉や態度はかえってその人を傷つけることなる。
そう思って丁寧に断ってきたつもりだ。
でも今回は違う。
私はコイツを何とも思ってなんかいない。
だから、こんなにも・・・・。
コイツがここまで正直に真正面からぶつかって来てくれているんだから、
私も意地を張って嘘の気持ちを言ったり、逃げちゃ駄目なんだ。
そう思った。



でも こんな時にはどうしたらいいのかがわからない。
断ったことはあっても、受け入れたことがない。
今、コイツが私に受けてほしいのは、恋人になることではなくて、
副会長になって欲しいという事だ。
なんだか、その両方の告白を一度にされているような気もする。
話を最初からさらってみた、副会長になることを口説かれているはずだ。
勘違いしてはいけないと、自分を戒めた。
本当に勘違いしそうになる。
『好きです、付き合ってください。』と言ってみたかったかもしれないけれど、
今も同じ気持ちだとは言っていない。
紛らわしい・・・・どっちなの?
どっちに答えたらいいの?



それをきっちりとさせなければ、副会長の話も恋人の話も返事の仕様がないじゃない。





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2005.11.11up