「個人主義者の恋」
〜すれ違う二人で5つのお題〜

1.それぞれの道を歩んでる




会った途端に惹かれたくせに、どうしてもその人と友達になれ無い、
仲良く出来ないって、そういう人に会った事って誰にでもあると思う。
その人に反目しているくせに興味は一向になくならなくて、
その人に関係する事全てを、知ろうとしてしまう。
その人の仕草、
その人の言葉、
その人の表情、
その人の視線の先・・・・・。
どうしてなんだろう?
どうしてこんなにも気になるんだろう?
もう気になって、気になって、気になって仕方が無い。
私には1人だけ、そんなクラスメイトがいる。



通っている高校はクラスを成績順で分けている。
1年生は入試の成績で。
2年生は1年生の年間トータル成績で。
そういう風に分けていると、そんなにメンバーの入れ替えは無い。
ほとんどクラス替えの無い状態に近い。
だから私とアイツは3年生のクラスも一緒だ。
また1年間、この鬱々とした気持ちに悩まされなくてはならないらしい。
まして、推薦されて出た3年前期の生徒会執行部選挙に、
事もあろうにアイツは立候補で出た。
同じクラスから2人の会長候補。
前代未聞の選挙になったのは言うまでも無い。
クラス推薦で私が出ると決まるまでは、
関心すら寄せていないように見えたのに。
どうして?
と、首をひねらずにはいられない。
頭はいいし、痩身で長身、顔だって綺麗なとまでは行かなくても
クールで細く切れ長な瞳は格好いい部類だ。
だけど、いつも小難しそうな本を読んでいて、
クラスのことにも女の子の事にも関心がなさそうだったのに。



アイツと私が歩んでいる道は、絶対に交差などしないと思っていた。
クラスメイトになって3年目の春。
私は生徒会室でアイツと初めて言葉を交わした。
だって、会長に当選したアイツが、私を副会長に指名したからだ。
他の執行部はそれぞれの学年で選出された生徒が務めることになるが、
副会長だけは会長が指名できる。
たいていの場合は、落選した会長候補の中から選ばれる事が多い。
だから、私でも別に不思議は無いけれど、他に人がいないわけじゃない。
アイツと親友のようにしている男子生徒もいたし、
昨年の学内ミスコンで優勝した当校一番の女の子だっていた。
選挙も一種のお祭りみたいになっているから、人気がある人は揃って出るんだけれど、
それでも私が出た選挙は稀に見る大混戦だった。



そんな票が割れるような選挙で、アイツは断トツで1位を獲得したのだ。
そして、副会長に私を選んだ。
何たる悲劇。
そう思わずにはいられない。
アイツが何を基準に私を選んだのか知らないが、上手く行きっこない。
私はため息をつきつつ、あいつの顔を睨んだ。
「私を指名するってどういうこと?
私たち仲も良くなかったじゃない。
って言うか、それ以前に話もしたこと無いと思うけど。
選挙の時だって、立候補するなら最初からそうすればよかったのよ。
それを、クラスで私を推薦する事が決まってから、
立候補を表明するなんて。
嫌がらせもいいとこだし、凄い恥さらしだわ。
何を考えてんの?
私に嫌がらせをするつもりなら、もう十分に成功しているから、
これ以上やらなくてもいいじゃない。
副会長は誰か他の人を選んで頂戴。
私はやる気なんて無いですからね。」
言い逃げは好きじゃないけれど、もうそこに居たくなかった。
生徒会室を出ると、誰もいない放課後の階段を駆け下りようとした。



「待って。」
後から腕をつかまれて、私は階段を下りる前にあいつに捕まった。
「話を聞いて。」
「そんな必要なんて無いっ。
貴方がしたことで私がどれだけ傷ついたか分かる?
みんなに推薦してもらいながら、当選しなかったのよ。
その上にお情けのように副会長になれって・・・・・あんまりよ。放してっ。」
つかまれた腕を振って、あいつの手を振り解こうとした。
「だって、こうでもしないと俺のことなんて見てくれないだろ。
いつも思ってたんだ。
どうやって話かけようか。
何か切欠は無いのか。
共通の話題は無いのかって。
運がいい事にクラスはずっと一緒だった。
だから、きっとそのうちにチャンスがあるって思ってた。
でも、何処にもそんなチャンスはやって来なかった。
遠足も文化祭も体育祭も修学旅行も。
俺の希望を踏みにじるように、何もおこらない。
どうすればいいのか考えたんだ。
嫌でも何か話が出来るようにしたかった。
副会長の事はともかくとして、もうちょっと付き合って。」
つかまれている腕が熱を持つ。
アイツの熱が伝わっている。



「分かったから、放して。」
一つ大きく息を吐き出して、アイツの顔を見るとそう返事をした。
「ありがと。」
ほっとした様な表情を浮かべて、腕を放してくれた。
「戻って話そう。
此処じゃ落ち着かないだろ。」
私がついて来るか後ろを気にしながら生徒会室に戻る。
その後をとりあえず大人しく着いて行った。
私の頭の中は小さい嵐が荒れ狂っていた。
考えがまとまらない。
アイツが何が目的なのかが分からないから・・・。
もしもの時の事を考えて、カバンの中から携帯を出して、スカートのポケットに忍ばせた。
いざとなったら、短縮で誰かに連絡を取ろうと思った。





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2005.11.09up