NO.45 年中無休





約束した新発売のお茶の感想が聞きたいのに、
彼女が店に現れない。
昨日まで毎日のように来店してくれたというのに、どうしたんだろう。
風邪や病気で来れないのだろうか?
会社を休んでいるのだろうか?
彼女が来店してくれなければ、何も知る事が出来ない。
だから今の関係をもっと進めたものにしたいと思ったのだ。


お茶のことは彼女と話す口実に過ぎないが・・・・。
こんな時は年中無休というのは少し辛い。
嫌でも毎日彼女が来店してくれるのを待つことになる。
嫌われてしまっているかもしれない・・・そう考えてしまう。
もしかしたら、自分が休みの日に来てくれるかもしれないと、
声をかけてから休みを取ってはいない。
あの話をするまでは日が空いた事など無いというのに。
「失敗だったでしょうか?」
友人たちが聞いたら耳を疑うような弱気な言葉が口から漏れた。
自分でも可笑しくなって口元が緩む。
「らしくありませんね。」と、息を吐いた。


時計を見ればもうすぐ彼女がいつも来店する時間。
今日こそはと願うような気持ちでレジに入る。
ここは、女子校に最寄のコンビニなので、朝と午後が一番忙しい。
普通のコンビニが混雑するお昼時は、それほどでもないのだ。
住宅街の中にあるこの店にOLが来るという事は、
彼女は学校関係者なのかもしれない。
それも事務職。
それには確信を持っている。
どう見ても教師という感じはしなかった。
だが、大きく目立つほどでは無いが会社が無いわけではない。
そこのOLだという線も捨てられない。
つまり彼女の勤め先を特定するだけの材料が手に入らなかったのだ。
だからこそ、思い切って声をかけた。
お昼の買出しに来店する客の相手をしながら、彼女が現れるのを待つ。


あきらめかけた頃、店のドアを開けて彼女が現れた。
「いらっしゃいませ。」
出来るだけ普段どおりに来店の挨拶をする。
「こんにちは。」と、初めて返事が返って来た。
今まで会釈を返された事はあっても こんな事は初めてだ。
少なくとも嫌われているという訳ではなさそうだ。
そのことに安堵して、詰めていた息を吐き出した。
来れなかった理由など他にいくらでもあるのだ。
自分の考えすぎだったと片付けた。


彼女はいつものようにおにぎりとお茶を籠に入れてレジに来た。
「これお願いします。」と持っていた籠を差し出す。
後や周りに他の客が居ないことをざっと確認すると、
「あのこれ・・・・お約束のお茶の感想なんですが・・・・。」と、
ポケットから1枚の紙片を取り出して渡してくれた。
「口頭では難しいと思って、聞き茶してメモしてみました。
飲み比べてみた感想を書いてみたんですが、どうでしょう?」
受け取った紙を覗き込む僕に話してくれた。
ただのきっかけにしか過ぎなかった話題なのに、
彼女はこんなにも真剣に受け止めていてくれたかと思うと、
なんだか申し訳ない気持ちになる。


それでも 思いもよらず彼女の手書きのその紙には、
流麗な文字でお茶の名前やらその味覚について細かく記載されていて
自分にはとても価値のあるモノに見えた。
「ありがとうございます。
これと売り上げを参考に陳列や発注をさせてもらいます。」
そう言って彼女を見れば、笑顔を浮かべた可愛い顔。
こんな表情は会話しなければ見られないだろう。
そう思うととても貴重なものを見たような気になった。
「あまり参考にならないかもしれないんですが、
そう言って頂けると甲斐があります。」
彼女から代金を受け取りながら、「本当に助かります。」と再度礼を重ねる。
「どう致しまして。」
そう答えてくれると、「それじゃ。」と店から出て行った。


今度は何時来てくれるだろう。
いつ来てくれてもいい。
「僕は毎日待っていますからね。」と、遠ざかる背中につぶやいた。






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拍手頁用小説「コンビニ小説 八戒編 3、4話」分