贈菓贈酒 3
誰かが1人でも へ酒を贈ったということが 引き金になったのか、
次の日は これでもかと言うほどの 酒がの元に来るようになった。
としては 酒なんかいらないのだし、持っても行けないので 困るばかりである。
それに 若干一名 ものすごく 機嫌の悪い男がいるために、
みんなの気が張り詰めたままで、
部屋の中は 氷点下のごとき寒さに なってしまっていた。
「三蔵 そんなに 不機嫌そうにしているのは、止めて下さいませんか。
心配しなくても お酒を頂いた人達に、心変わりするようなことは ありませんから。」と
自身が とりなすのだが、三蔵の機嫌は 治らなかった。
あまりの機嫌の悪さに 4人は 八戒の部屋に非難する事にした。
「厄介ですね 三蔵の機嫌が あれほどに 悪くなったのは、見たことありませんよ。
何とかしなければ 白竜は 後2〜3日大事にしてやりたいですし、
がとりなしたくらいではダメだった所を見ると
何か作戦が必要なようです。」八戒は
三蔵の機嫌を何とかしたい旨を、みんなの顔を見て言った。
「でもよ〜、自分が菓子を投げられていた時は、
がどう思おうが心配なんかしていなかったのに
三蔵様も 勝手なんじゃねぇの。」悟浄は
三蔵のとばっちりを 一番受けているせいか、
不満で仕方がないといった感じである。
「確かにそうかもしれませんが、僕が菓子を拾っていた時に見た限りでは、
三蔵は 飛んでくる菓子を避けて歩いていただけで、
それが自分に来たというような素振りはありませんでしたよ。
だから もし が三蔵にその事を 言ったとしても
自分には関係無いと言ったでしょうね。」八戒は そう分析していた。
「やっぱり 私がどうにかしないと いけないと思うわ。
お酒の事にしても三蔵の機嫌をとるにしても、私の態度如何だと思うけど どう思う?」
以外の3人は 同意の意味を込めて 頷いた。
「どうすれば いいかしらね。
三蔵の機嫌も良くなって ついでに お酒が来なくなる方法は無いものかしら、
八戒は 案外秘策を持っているのではなくて?」は 八戒に尋ねた。
「あるには ありますが、三蔵が乗ってくるかが問題です。」
八戒は 左手を顎に当てて考えている。
「何とかなんじゃねぇの、とにかく 何時 弾が飛んで来てもおかしくねぇんだからよ、
俺 命が 縮む思いで過ごすのは いやだぜ。」悟浄にしては、弱気な発言に
八戒は 苦笑せざるをえなかった。
「では やってみましょうか。僕が考えた作戦は こうです。
他の人たちと一緒に三蔵にも にお酒を
贈って貰い みんなの前で に三蔵だけを お酒に誘ってもらうんです。
そうすれば 三蔵の機嫌も復活して ついでに お酒も来なくなるという 一石二鳥を狙った
作戦なんですけどね。」八戒はそう説明した。
「でも それだと 三蔵にある程度は 説明しなければならないのと違うの?」
は 心配そうに 尋ねた。
「そうなんです だから これは 、貴女が三蔵を口説いてもらうしかありませんね。」
八戒の黒いオーラを背負った笑顔には、さすがのも逆らえず頷くしかなかった。
「三蔵の機嫌を直すためとかは 黙っていてくださいよ。
は お酒に困っているから、三蔵に 助けて欲しいと頼んでください。」
八戒の説明を聞きながら は お酒に誘った後の三蔵も怖いと思った。
「ねえ 八戒、三蔵をお酒に誘って 機嫌を直すのはいいとしましょう。
お酒が来なくなるというのも たぶん成功すると思うわ。
でも 三蔵と一緒に お酒を飲むのは 私1人じゃないよね。」
それには みんなの視線が 一斉に逸らされた。
「もしかして 私1人で 三蔵と一緒に飲まなくっちゃいけないの?」は 八戒に確認した。
「 僕たちが 一緒に飲んだら 三蔵の機嫌は、
また 悪くなるとは思いませんか?
貴女と2人きりで飲むからこそ 三蔵の機嫌が良くなるんです。
都合よく 三蔵の隣の部屋は の部屋で、
僕たちの部屋には 声が聞こえてきませんから心配する必要もないですよ。
ここは には気の毒ですが、生贄となってもらいましょう。」
八戒は 笑顔でに答えた。
「 ごめんな、でも じゃないと 三蔵の機嫌は、良くならないと思うんだ。」
悟空は よほど三蔵の機嫌の悪いのが こたえているのか
必死の形相で に 説明した。
「 声を我慢しながらだと 三蔵も今ひとつ 楽しめないだろうしさ、
俺たちには 聞こえねぇんだ 艶っぽい声で 三蔵を喜ばしてやんなよ、な」
悟浄は ウィンクをしながら、に笑って話す。
3人の男に そうまで言われて の頬は 朱がのぼっていた。
「ひどいわ みんなで そんなこと言うなんて!!」と は怒ってみた。
「でも この宮殿に来てからというもの 三蔵には と離されているんですから、
そろそろ 我慢も限界でしょうし ここで 触れ合っておくのもいいじゃないですか。」
八戒は 三蔵の機嫌の悪さが の贈られてくるお酒のせいばかりではなく、
2人きりの甘い時間を 持つことが出来ないせいだと言いたかったらしい。
言われてみれば 夜は別々の部屋 昼間は たいてい誰かと一緒なのである。
最高僧のわりには 独占欲の強い 三蔵には 厳しかったかもしれないが、
そのせいで がこんな目に合うのは なんだか 割に合わないような気がした。
その夜 は 三蔵に お酒を断る口実に 三蔵から お酒を贈って欲しいと、
相談を持ちかけてみた。
だが 八戒の予想を裏切る形で 三蔵は にお酒を贈る事に NOと言った。
これには 八戒どころか も困ってしまった。
確かに 人前で愛情を示すことに ものすごい抵抗がある人だということは、
理解しているつもりだった。
自分の胸のうちを 悟られたり 思いやられることに慣れていない人だと思っていた。
でも 基本的に優しい思いやりがある人だと 信じていたのに、
この話の裏に 自分の機嫌の悪さを 解消するためと言う 作戦を読んでいたとしても、
自分の頼みを 断られるとは 思っていなかったである。
その夜から の元気がなくなり 三蔵とは口も利かなければ、
視線すら合わせないと言う状態になった。
3人とも 必要以外には 話さないし、笑顔も見せてくれない。
は 寂しそうに 微笑むだけになってしまった。
まずい事になったと 残りの3人は思ったのは言うまでも無い。
三蔵だけなら なんとでもしようがあるし、無視したっていいことだ。
だが がそうなったことは今まで無かったし、ことが三蔵との事だけに 自分たちには
解決の仕様が無い。
とりあえずは まず を説得しようという事になった。
次の日の午後
「 三蔵のことで 貴女が元気が無いのは、理解しているつもりですが
三蔵には 逆効果となることもあるんじゃないですか?」
八戒は が 仲直りしたいと思っている事を 前提として 話を始めた。
「八戒 私もくだらない事で 拗ねていることは 自覚しているつもりです。
三蔵にしてみれば 私が お酒を贈られることなど 取るに足りないことなのでしょうね。
たとえ私が手を差し伸べても自分が解決に必要とは 思わないということなのでしょう。
女とは 欲深い生き物です。
相手の想いを信じていても 理解していても 常に求めてしまうのです。
八戒たちにまで 心配をかけてしまって、ごめんなさい。」
いつもの元気が無い に八戒は 胸が痛んだ。
「仕方がありませんね、では 三蔵からのお酒が望めないのであれば、
僕が 用意しておきます。
は 甘口の優しい味が 好きでしたね。」
八戒は そう言うと の部屋を出て行った。
悟空と悟浄の待つ部屋に戻った 八戒は、
「とりあえず のほうは 心配ないでしょう。
それで 作戦を変更して、2人のことは
しばらく様子を見るという事にしておいた方がいいでしょう。
は ずいぶん落ち着いていましたし、
僕たちが混ぜると 仲直りしにくいでしょうからね。」
八戒の話に 2人は同意するしかなく 早く元通りの2人になって欲しいと
祈るような気持ちだった。
その夜は 王の宴に招かれて 5人は人前に揃っていた。
は 女御たちの心尽くしの晴れ着を着せられて
化粧もされてしまい、美しい佳人となっていた。
しかし その顔は 曇りがちで寂しげだった、
八戒たちの褒め言葉にも わずかに微笑むだけである。
それはそれで、妖艶さがあるのだが 心配する3人には見ていられないものがあった。
宴席についても 男性から酒を勧められるは、
何時に無く きっぱりと 断っていた。
今夜は 誰の酒も受け取るつもりが無いらしい。
酌さえも断って 黙っているを三蔵は 目の端に見ているのだったが、
何も言おうとはしなかった。
宴も中盤に差し掛かった頃 逗留のお礼にと は舞を一指し舞った。
それは本当に優美で 宴にいた者は しばし時を忘れて見惚れていた。
そして は そのまま 宴席には戻らなかった。
舞ったために酒がまわって 失礼して部屋に下がると 女御が言付けてきた。
それを聞いた 三蔵は 黙ってゆっくりと立ち上がると 退席して行ったのだった。
その後姿を見た 3人は 安堵のため息を吐いた。
「やれやれ やっと行ったかよ、俺達の気も知らないで 難儀な恋人達だぜ!」
悟浄は 杯を空けながら 八戒のほうを見てつぶやく。
「本当です 三蔵ものあんな顔は こたえた筈ですから、今夜は 仲直りするでしょう。
もし 明日の朝 が立ち直っていなかったら、僕が をいただきますよ。」
((八戒、こわぃ〜!))と悟空と悟浄は 思った。
廊下を歩きながら 三蔵は 愁いに沈んだの顔を 思い出して、
胸に苦々しいものが 溢れてきていた。
昨夜 酒を贈って欲しいと頼まれた時は、あまり考えもせずに 断ってしまったが
は 本当に 困っていたようだったし、
珍しく 差し伸べられたの手を 払ってしまった事に
後から 気が付いたのだったが、その時には は
もう沈んでしまっていた為に、みんなの前で 言葉を掛けられずにいた 三蔵だった。
今日一日 は 誰の前でも寂しげで 終始俯いて過ごしていた。
三蔵は それが自分のせいだと思うと いたたまれない思いに駆られて、
今夜は あの瞳に 笑みを戻そうと思っていた。
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