贈菓贈酒 2
三蔵は 悟空の事ばかりを 心配するを 微笑ましく見ていたが、
自分は 菓子を投げられても それを避けて
拾おうともせずに 済ませていた。
三蔵が 菓子を拾わないだろうということは予想の範疇だったのか
八戒の提案で悟空が 三蔵の後ろから歩き 自分の分と三蔵の分を
袋に拾っては集めていた。
といえば 女御達が 菓子を投げやすいようにと
4人とは一緒に歩かない事にしていた。
女性の自分が あの4人を独り占めしていると
みんなに悪いような気がしていたので、
せめて この宮殿に逗留している間だけでも 距離を置こうとしていた。
それに 菓子を当てられて 悟浄のような目に合うのも 避けたい。
一番大きい部屋に通されていた 三蔵の部屋が みんなの溜まり場になっていた。
そこに集まって 夜のひとときをくつろいでいた時の事、
「しかし ここの女性は 中々にすごいですね。
求愛行動が 段々加熱していきそうでちょっと 怖いです。
なんたって りんご飴ですから・・・、男の矜持を 折ってしまいかねませんよ。
男性からの求愛というのは 無いのでしょうか?」八戒は こ
こ2日間の菓子投下事件を 振り返りながら、
のんびりとお茶をすすりながら 言った。
「そう言えば そうだよな。ここに こんなに 麗しい女がいるのに、
男の1人も寄ってこないなんて事は普通考えられないよな。
それに 俺たちに菓子が投げられるようになってから、
は俺たちと一緒に歩かないか、
別の廊下を使って 目的地に向かうようになったんだし、
言い寄ろうと思ったら 結構チャンスはあると思うんだけどねぇ。」悟浄は
くわえ煙草で八戒の意見に 口を挟んだ。
「お国柄 私はいい女の部類には 入らないのかもしれなくてよ。
価値観が違うと そういうことは よくあることだから、気にしてはいません。
でも 視線は感じているの。
それは みんなを慕う女御の視線なのかどうかは わからないけれど、
今のところ 殺気が含まれていないようだから、大丈夫だとは 思うけどね、」
のその話に 新聞を読んでいた三蔵は その影で、厳しい顔になった。
を巻き添えにしたくないと あえて自分からは離していた三蔵だったが、
そんなことも言ってはいられないと の事を心配するのだった。
八戒を見ると こちらを見て頷いている、
用心は怠らないようにしなければ ならない。
当のは 大丈夫そうだと言ったが、
先の事件のこともある 三蔵は そう考えていた。
悟空は次の朝 八戒に「悟空 出来るだけ の側を
離れないように していてください。
昨夜の話からすると を見ている者がいるようです。
今のところ 殺気を感じてはいないようですが、
もしもということもあると思いますので
さりげなく 付いていてあげてください。いいですか?」と言われた。
悟空は 「ん、解った。のまわりに 気をつけておく。」と了解した。
常に一緒にいて に不信感を与えないとなると、悟空しかいない。
は 結構散歩に出たり 買い物に出たりと 行動的だ。
悟空以外の3人が 一緒に行動したことは
今までにもあまり例がないことなので、が 構えてしまうかもしれないが、
それでは 敵をおびき寄せることが出来ない。
ここは 自身が 一番自然に行動できる 悟空が 適任という事になった。
三蔵は 自分がと一緒にいたいと 思ったが、
2人でいると お互いの意識が 双方へ向き合ってしまい、
まわりへの意識が薄くなることは わかっていた。
ここは 危険に敏感な動物の感に頼った方がいいのかもしれないと 考えた。
その2人を 自分たち3人で 見守った方が、が安全だと 判断した。
それだけ 自分がという女に 捕われいるということなのだろうと 思うと、
何ものにも執着しなかった今までの己が、おかしくさえ思うのだった。
「俺も焼きがまわったかな。」煙草を 燻らせながら、自嘲気味につぶやく。
悟空が 自分の後ろに付かなくなったせいで、三蔵が避けたお菓子を 拾う役は 八戒が
受け持つこととなった。
自分に投げられるお菓子を避けつつ
三蔵の避けた物を 拾うというのは 中々大変な仕事だ。
「悟空は よくやってましたね。」苦笑しながら そう言う八戒に、
「あいつは 自分に来た分はよけねぇで、受け取って袋に入れてたぞ。
なんと言っても 大事なおやつだからな。」
「ああ なるほど・・・。」と言いつつ 八戒は飛んできた菓子を
避けずに掴んで 袋に入れた。
「この方が 確かに楽ですね。」と のん気そうに笑った。
「しかし 三蔵、を狙っているのは どういった者たちでしょうか?」
八戒は 三蔵に尋ねた。
「この宮殿にいる男達だろうな、妖怪の類なら も容赦しねぇだろうが
相手が人間で、しかも世話になっている所のもんだと
抵抗するにも力が使えねぇ。
それも 人数で押されたら 女の身には 逆らうことは無理だろうな。」
三蔵は苦々しく答えた。
八戒は 悟空を に張り付かせた自分の選択は 間違っていなかったと思った。
悟空なら 如意棒で 打ちのめす位のことで 終わるだろうし、
側にが居れば それ以上に
ひどくする事を 止めるだろう。
しかし 三蔵は 嫉妬も手伝って 相手を殺してしまいかねないからだ。
三蔵が どれほど を大切に思っているかは、傍目にもありありと解るだけに
八戒は 悟空をつけることで 何もおこらないように 牽制したのだが、
それが 成功するように 祈るばかりだった。
しかし その日 が悟空と 庭園を散歩して 静かな木陰で 休んでいると、
1人の官吏が近寄ってきた。
「様 これは私からの 贈り物でございます。」そう言い
薄桃色をした果実酒を に差し出した。
「ありがとうございます。」単なる 贈り物と思ったは 笑顔で受け取った。
「綺麗な色のお酒だな、後でみんなで飲もうぜ。」側にいた悟空は
その男が去ってからビンを 覗き込みながら 楽しそうに話していた。
は 今まで 男性から色々な贈り物を貰ってきたが、
お酒というのは初めてだった。
この土地には 変わった風習がある ひょっとして
男性から女性への贈り物は お酒かもしれない。
だとすると その場で どう答えるかが 問題になるはずだ。
夕食の時でも あの女御に聞いておかなければ
すごい失敗をしてからでは 遅い。
それに 三蔵の短気を考えると、相手の男性の命までが
危ない事になってしまう。
今の対応が 相愛とされる態度で無い事を祈る だった。
その日の夕食時 例の女御に はさっそくに 尋ねた。
「お教え願いたいのですが、女性からの求愛の時には
お菓子を相手に投げて、その場にて食すると相愛の合図と言うことでしたが、
男性からの求愛というものは 無いのでしょうか?」
心配そうに尋ねるに、その年配の女御は「はい ございますとも。
男性からの求愛は お酒を相手に贈る事です。
様のことです もうすでに 贈られた事と思っておりましたが、
いまだに 現れませんか?」女御は 笑顔で説明してくれた。
「あの それで 相愛の合図は どのように返すのですか?」
肝心の事を聞こうと、の気持ちは 急いていた。
「お相手の事を お好きなら、『このお酒を 一緒に飲みませんか。』と
誘えばよろしいのですよ。
相手は 『いつ飲みますか?』と尋ねますから、
日時を指定して お誘いするのです。」
女御は 楽しそうに 若いってよろしいですね 等と言いながら、下がっていった。
2人の話を 聞き耳を立てて聞いていた 4人の男達だったが、
に 笑顔で尋ねたのは 八戒だった。
「 まさか お酒をくれた人を 誘わなかったでしょうね?」
八戒には 珍しく 強い声音がする。
悟浄と悟空は 八戒の後ろに、黒いオーラを見たような気がした。
三蔵は の答えを 息を詰めて待っている。
は 4人の視線に耐えねばならなかったが、
「大丈夫、御礼だけにしておいたから・・・。
心配しなくても 誘ってなんかいないよ、ねえ 悟空も聞いていたものね。」と話して、
悟空に応援を求めた。
「う、うん。八戒 大丈夫だったよ。
は ありがとうって 言っただけだった。」と
援護してくれたおかげで 八戒は 普段の笑顔に戻ったし、
三蔵は 煙草の煙を吐く振りをして 安堵のため息を漏らした。
(絶対に気をつけないと 相手の命よりも私の身の安全が保証されないかも・・・)と、
返答には 気を付けようと心に誓う だった。
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