贈菓贈酒 1
桃源郷で 三蔵法師といえば かなりな高僧であることは 間違いがない。
小さい街では 三蔵の法衣に 僧であることを 判別されることはあっても
双肩に掛けられた 経文を見て、三蔵法師だとわかる人は まずいない。
ところが 大きい街へ行けば 知識階級のものも結構いたりして、
その邸宅や寺院に招かれることもある。
随行としての八戒、悟浄と悟空の3人は 何処で 泊まろうと気にしないのだが、
仮にも 僧である三蔵は 女人禁制であるために、
招待を受けて どこかに 泊まるとなるととは 必ず 別室にされる。
三蔵にとって 招待で泊まることになると 不機嫌になる原因は
それに我慢できないからだった。
この街に来た時も 街の城門に入ってまもなくして 三蔵法師であることが 解ると、
役人に 足止めを食わされてしまった。
この街は その国の首都だったので、大寺院でもなく 有力者の所でもなく
王宮に招待されてしまった三蔵一行なのであった。
ありがたい事に 王宮では 説法は所望されず、三蔵は 胸をなでおろしたのだが
すぐに 旅立とうと思っていたのにもかかわらず、ジープの具合が どうも悪い
しかも 長引きそうだと言うので、元通りに治るまで 逗留する事に なったのだった。
逗留一日目にして その事件は 起こった。
宮殿の廊下を歩いていた悟浄に 俗に言う棒付きぺろぺろ飴が
投げつけられたのである。
悟浄は飛び道具による 攻撃だと思い その身をかわして 手じかの柱に隠れたが、
ふと見た廊下に 飴が落ちているのを見ると、
襲撃ではないとその飴を拾い 部屋に帰った来た。
「おい 俺 廊下で こんなものを 投げつけられたぞ。」そう言って 手に持っていた
棒付きぺろぺろ飴を 皆に見せた。
皆も 狐につままれたような顔で、悟浄と飴を見た。
「わっ、いいな〜。悟浄 俺にその飴ちょうだい。」悟空は 悟浄に ねだった。
「ほい いいぞ、俺は そんなのを舐めるほど お子様じゃねぇからな。」
そう言いながら悟浄は 悟空に飴を渡してやった。
「しかし なんで 飴なんかを 投げつけてきたんでしょうかね?
お菓子の攻撃なんて 聴いた事もありませんよ。
悟空になら わかる気もしますが、相手は 悟浄なのですから・・・・。」
ジープの背を撫でながら、八戒は思案顔で そう言った。
「近くに子供がいたわけでもないし、俺を狙って投げてきたとしか思えないんだよな。」
八戒の問いに答えて 悟浄も不思議そうに 答える。
「宮殿の中だとは言え 気を抜くなよ。」三蔵は 新聞を読みながら言った。
以外の3人は それを 三蔵がに向けて 言ったのだと思った。
自分たちのことなんかは 守る必要さえ感じてはいないだろうが、
強いとはわかっていても三蔵は を守りたいと
願わずにはいられないだろうと・・・・。
同じ日 今度は 悟空が 廊下で 攻撃を受けた。
しかも 飴のほかに 蒸しパンでの攻撃もあったと言う。
その戦利品を うれしそうに抱えて悟空は 部屋に帰ってきた。
「なんなんだ この宮殿の奴らは、甘い菓子を 人に投げつけるなんて
頭が おかしいんじゃねぇか?」
悟空が 食べるのを 横目で見ながら、三蔵は 苦々しく言った。
もうすぐ夕食だが 三蔵は 悟空のお腹の具合を心配して言っているのではない。
そこには 何か理由があるだろうと、そちらが気になっていた。
しばらくして 夕餉の膳を 女御たち何人かが 運んできた。
その中で 最も年配の者に向かって 八戒は、
「夕ご飯をありがとうございます。あの 実はですね、
同行のものが 廊下で菓子を投げられたようなんですが、
何か 訳でもあるんでしょうか?
怒っているのではないので、誤解しないで下さいね。
ただ 訳も解らずに 頂いたお菓子を連れが食べているので、
心配になりまして・・・・・。」と尋ねた。
尋ねられた 年配の女御は にこにこ笑いながら、
「ご心配要りませんよ。この地方には好きな殿方に
菓子を当てる風習が ございまして、お客様たちが あまりに 素敵な殿方たちなので
見初めた者達が 想いを伝えるために、投げたのでございましょう。
今日おいでになったばかりだと言うのに、もうそのような者が現れましたか・・・・。」と
楽しそうに 説明をしてくれた。
「それで その・・・・・何か 注意する点などは 無いのでしょうか、
誤解を招くことがないように するためには、どうしたらいいのですか?」
八戒は 重ねて聞いた。
「はい 菓子をその場で食べなければ、大丈夫でございますよ。
すぐその場で 食べると、自分も想っているという 意思表示になりますので、
そこだけご注意ください。
投げられた菓子は 捨て置かれても拾われてもどちらでもかまいません。」
そう答えて女御は 下がっていった。
その途端 みんなの視線が 悟空に集中した。
「悟空 さっきお菓子を投げられた時、その場で食べなかったでしょうね?」は
みんなの気持ちを代弁する形で 悟空に尋ねた。
「ん? 食べてないよ。三蔵に拾い食いすると 怒られるから、
ここまで 持って来て食べた。何か いけなかったのか?」と
言ったその頭に 三蔵のハリセンが 降ったのは言うまでもない。
怒ったまま何も言わない三蔵に代わって、
「悟空 これから お菓子を投げられたら、必ず
お部屋まで持ってきて食べてね。
その場で食べるのは 行儀が悪いし、三蔵や私が
ここの人達に 恥ずかしい思いをするから・・・ね、絶対すぐに食べちゃダメよ。
約束してくれるわね、悟空。」とは優しく 諭した。
そして 約束のための 指切りを2人でするのだった。
「との約束は 悟空に一番効果的ですね。
彼女に頼まれれば 悟空は 絶対に守るでしょうから、とりあえずは 安心です。」
八戒は 微笑ましい2人を見ながら そう言った。
「むしろ 問題なのは 誰かさんのほうですよね? 悟浄。」八戒は 振り返りながら、
後ろに立っていた 悟浄に 視線を向けた。
「あ? 俺は 大丈夫だって!お菓子なんて食べないし、
いい女の場合だけにしておくからさ心配するなよ。
それに 三蔵の銃弾さえ避ける俺が、女の投げた菓子に 当たるはずがねぇだろ。
それよりさ 俺に菓子を投げて見てくんねぇ?
なら その場で食べて見せるし?」の肩に手を 置きながら 悟浄は そう言った。
「いい度胸だな、悟浄。」三蔵は 銃をすでに 悟浄にあわせながら 立ち上がった。
「ま それは 遠慮しておくとして、三蔵だって 八戒だって 同じじゃねぇか。
きっと お菓子の襲撃があるぜ。」悟浄は 後ずさりながら から離れた。
しかし 悟浄は 次のお菓子の襲撃において 事故にあってしまうのである。
4人の反応が あまりにも淡白なために 焦れた1人の女御が
もっと当たりのいいものをと言うので、りんご飴を 悟浄に投げつけたのだ。
あれほどに 飛んでくる何かに敏感な悟浄でも
殺気のない襲撃と幾度となく繰り返される行為に、
油断したのか りんご飴は 悟浄の後頭部にヒットし、
その痛さによろめいた悟浄は前方の柱に 頭を打ち付けて
大きなこぶを作ってしまった。
これには 笑うことの少ない三蔵でさえ 新聞の影で 笑ってしまった。
「あんな硬いものを投げるなんて、何処が 求愛なんだよ。何処が!」と
自分の油断を棚に上げた悟浄の発言は 余計に笑いを誘うのであった。
「どうして お菓子を男性に投げるのかしら?
どう考えたって 女性の方が 甘いものが好きでしょう?
男性って 甘いものは そんなに食べないんじゃないの?」
の問いに答えたのは、やはり八戒だった。
「たぶん こういうことじゃないでしょうか。
自分は 甘い菓子のように貴方に めろめろなのだと、
この甘い自分を 食べて欲しいということなのでは?
あまり甘いものを食べない 僕たちだからこそ
特別に 自分が投げたそれを 食べてくれることが
重要なのではないでしょうかね。」
八戒の筋道が通った説明に、みんなが 納得して頷いた。
その説明を 聞いているようで 何も聞いていない 悟空に向かって、
「悟空 さっきの約束 絶対守らなくちゃダメよ。
お菓子を その場で食べたら、わたし 悟空と口をきかないからね。」と
は もう一度念を押した。
みんなのお菓子を貰って食べていた 悟空は
「ウ・・うん、わかった。」と 口を一杯にしながらも
の勢いと口をきいてもらえないと言う 恐ろしい罰に必死で頷いていたのだった。
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