神女来訊   4





静かになった部屋には、と三蔵の2人。

「おい、かけろ。」自分も椅子に座りながら、テーブルを挟んで置いてある椅子を、

顎でしゃくって座るように 指図する。

「はい、では 失礼いたします。」椅子の横に立つと、は 軽く会釈をして座り、

話があるといった 煙草に火をつけた 三蔵を見た。

「ババアの命令だ、この旅への同行は許す。ただ 危険な旅だ。

自分の身は自分で守れ!足手まといにはなるなよ。」紫水晶の瞳が 

挑むように向けられ、心の内まで見透かされるような 錯覚にとらわれる。

「はい、ご許可を ありがとうございます。

出来うる限りの努力でご命令に従いたいと思います。」

も真摯な眼差しで、答えた。

「1つ聞きたいんだが、・・・・・・お前は俺が名付けた河仙女の『』なのか?

どうなんだ、答えろ。」すごむような 鋭い視線に、

この人には嘘をついても無駄だと感じるは、本当のところを話し出す。





「三蔵様、おっしゃるとおり 10年前に名付けて頂いた『』にございます。

今まで お礼も言わず、失礼いたしました。

改めて、名前をありがとうございました。

それから、光明様のこと、お悔やみ申し上げます。」自分は 貴方のことを、

よく知っていると 言外に 含みのある言葉。

「あの ババアのこった、おまえ その辺の 河仙女じゃ ねぇんだろ?」

灰皿に 煙草を指で弾いて 灰を落としながら、質問を続ける三蔵。

「お察しの通り、私は大河揚子江の河仙女で、北方河仙の束ねを致しております。

貴方様方のこれから行かれる道中には、この大陸でも有数の大河が何本かありますが、

妖気が満ちているために、河の汚染が心配なのでその河の河仙と連絡を取りついでに、

調査も致したいと思っております。」静かに 臆することなく話す、





「そうか、わかった。

お前が あの『』なら、俺の女ということにしておけよ。

男ばかり4人の旅で、みな 女には不自由しているから、手ぇ出されるぞ。」

あの3人に、取られるのは我慢がならない三蔵は、にも釘をさす。

「ふふっ、三蔵様、これでも 神の端くれの私です。いくら 妖力を持つ

彼らでも、神力のある私の同意がなければことに及ぶことは出来ないでしょう。

ご心配には、及びませんよ。」にこやかに三蔵の言葉を否定する




「それに悟空は、私の子供のようなものたとえ岩牢以前の記憶がないとしても、

私に向ける愛情は、男女のものではないでしょうから・・・。

あの子は 私の愛しい子なんです。側にいられるだけで幸せです。」

聖母のような微笑で 悟空を語るに、三蔵は嫉妬を覚えた。

「悟空が、除外されたところで あまり変わらんがな。」

三蔵は、口角を少し上げた 笑みをする。





軽いため息をつくと、「三蔵様、私にも 選ぶ権利や 拒む権利もあります。

第一、私には愛しい方がおりますので、どの道そんな気はありませんから、

ご安心ください。」その愛しい者のことを、思い出しているのかなんとも言えない

優しく切ない表情をする 

三蔵はその相手に深い嫉妬を 覚え、心臓を鷲づかみにされたように感じた。

の 愛しいものとは誰なのか ・・・、

「まさかとは思うが、お師匠様がお前の思い人なのか?」と、

思いついた人の名を、尋ねてみた。





あの方は、よく川辺でくつろいでおられたし随分話をされていたように思う。

俺の報告だなんて、おっしゃっておられたがわからんしな、

もしそうなら俺がお師匠様を 超えて、の男になれるかは疑問だ。

「いいえ、違いますよ。光明様は、本当によい方でしたが、男性としては

見たことはございません。江流様の父親としてしか見ておりませんでした。」

自分の師匠を父親としてしか見ていなかったと知って、三蔵は安堵した。





「では その男は誰なんだ? 言え! 俺が殺してやる!」

冗談とも本気とも 思えるような声で、三蔵は に 詰め寄った。

もちろん 三蔵にしてみたら、本気で言っているのだが・・・。

「貴方が 殺す必要は ないのです。私の愛しい人と その友人達は、

500年前に 死んでいるのですから、・・・・悟空だけが 助かったのです。

ですから、悟空は 私にとって 忘れ形見のような 大切な存在です。

わかって頂けるでしょうか?」は、昔を思って、目が潤んだ。

こいつは どんな表情をしても 美しく 気高い女なのだな。 

今日会ったばかりの女に、こんなに 執着するのも どうかと思うが、

なぜか 他の奴に渡せないと思う。




悟浄のようにすぐにベッドに入ってくるような女には、興味が無いんだから

最初にこのくらい拒まれた方が、そそられるというもんだな。

俺のことをあれだけ知っているのに、なびかないんだ下僕どもにも同じだろう。

いや、待てよ・・・・、



、おまえ 俺のことは 何時から知っているんだ?」

三蔵は 頭に浮かんだ疑問を、はっきりさせようと に聞いた。

「三蔵様のことは、『江流』と 名前の付いて無いときから知っております。

もっと 言えば、あなた様の前世である『金蝉』の時から ですわ。」

やられた〜、そう思った。

「じゃあ、おまえには 俺はまだ 可愛い子供に見えているのか?

しかも 『金蝉』って・・・・・・・、俺の前世ってどういうことだ。」

「聞いてくださいますか?」との問いに、三蔵は 頷いた。






「三蔵様、貴方は前世で、私の愛しい恋人『金蝉』でした。・・・愛していました。

それが、500年前 天上界での事件のために、友人達とともに死んだのです。

貴方が 生まれ変わりと知ったのは、私がこの任務に就く前です。

だからといって、今の貴方を金蝉に見立てて愛しているわけではありません。

それは ご迷惑でしょうし・・・。

でも、三蔵様が私の河に流された時、なぜか心惹かれてしまいました。

光明様にも よくしていただいて、貴方を見守ってまいりました。

この 不思議なご縁には、本当に感謝しております。

三蔵様が、先日 初めてお声を掛けてくださった時、うれしかったですわ。

ですが私の中では10年前から子供とか大人ではなく『三蔵法師』様なのです。

お分かりいただけるでしょうか?」真っすぐに視線を向けて、は話した。





三蔵は その視線を逸らすことなく 受け止めていたが、

「今夜は もう寝ろ。俺は 休む。」とだけ言い、ベッドに入ると 背中を向けた。

は 立ち上がると、「お休みなさいませ。」と残して、自室に向かい休んだ。

ドアが 閉まる音がして、が廊下を歩き 部屋のドアが閉まったのを聞いてから、

三蔵は 起き上がると サイドテーブルの煙草に手を伸ばして、火をつけた。

「死んだ奴が ライバルとはな。・・・・・・しかも 俺の前世だと・・・・。」

暗闇に向かって、つぶやいた。





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