神女来訊 2
三蔵様を 見送って、何日かしたあと。
今日の日々の勤めに就こうとしたところで、来客があった。
私は 神様とはいっても、揚子江という名の河の神女で、
天上人だが住まいは地上だから、来客はめったにない。
同じ河川神の友は、沢山いるのだがみな自分の河川から離れないようにしている。
自分の河は みな大事にしているし、守らなくてはならないからだ。
揚子江のように 地球規模で言っても少ないほどの大河になれば、
1人では無理なので私は自分で会社のような組織を作り会長職に就いていた。
支流神たちを、重役のように使い 私の副神を社長にしておく、
そうすることで、大河と支流は一体化でき 便利だからだ。
来客は、観世音菩薩だった。
「珍しいわね。観世音が、私に会いに来るなんて・・・どういう風の吹き回し?」
古い友の彼女(?)とは、気さくな仲だ。
「陽神女、お前 しばらく ここを離れることが出来るか?」
相変わらずなものの言いようで、本題に入ってくる。
(陽神女)とは、私の略式な呼び名。揚子江は、長江とも呼ばれているので、
(長神女)とも呼ばれることもある。
「どのくらい?ここを離れても 水脈に触れば 河の様子は わかるし、
部下が育っているから 私なんか最近は、名誉職のようなものだけれど・・・。
それでも この河の責任は私にあるからね。」
自ら入れたお茶を差し出しながら、話を促す。
「お前、玄奘三蔵を 知っているだろう。
あいつに付いて 天竺まで行く気はないか?」
「えっ、三蔵様に?
・・・・・そりゃ、かなうことなら 行ってみたいわ。でも 私は ・・・・・」
いきたいに決まっている。でも 勤めがあるのだ。
「ふ〜ん。お前は、前天帝の直系の孫に当たる 立派な皇女なのに、
こんな下界の河川神女なんかしている方がいいのか。退屈だろう?
・・・じゃあ、三蔵が お前の 愛しい金蝉の生まれ変わりだといったら・・・?」
「観世音! 本当なの? 本当に 三蔵が 金蝉の・・・?」
知らないうちに涙が あふれてくる。久しぶりに聞く愛しい人の名前。
身を引き裂かれるような あの別れを思い出す。
それで あれだけ 三蔵に肩入れして見守ってきた自分に、納得する。
愛しいものの魂を持った人。知らないうちに会えていた深い絆に・・・・・
うれしさに、涌いてきた涙に心が温まる。
「本当だ。陽神女、・・・よかったな。
俺も お前達が、出会っているとは思わなかったが、やはり 只の縁では
ないんだな・・・・お前達はさ。」そういいながら、私の頬の涙を そっと拭う。
「じゃあ、決まりだな。
すぐに あいつらと 合流しようか。陽神女も どれだけでも 早く行きたいだろ?」
意地悪そうにニヤリと笑うと、私の手をとって 行こうとする。
「ちょ、・・・ちょっと、待ってよ。
すぐに 部下に命令を出してくるから、このまま消えたら 捜索願が出されてしまうわ。
でも、すぐに戻ってくるから、どこにも行かないで 待っていてね。」
そう言うと、臣下のところへ駆けて行った。
そんな 陽神女の姿を見ながら お茶を飲む菩薩。
「うれしいだろうさ。・・・・・500年ぶりだからな。
お前の心からの笑顔が また見られるのなら、少し待つくらいなんでもねえよ。
神女・皇女の中でもひときわ美人の癖に、500年というもの一途にあいつだけを、
思い続けている。・・・・惚れられた方も幸せだろうさ。」
しばらくして、身支度を旅の装束に調え、着替えや旅行用品を入れたリュックを
背に背負って支度をした 陽神女が、戻ってきた。
「おまえ 用意いいな!
行く気満々か・・・・可愛い奴だな。くくっくっ・・・・・。
じゃあ、いくぞ。」可愛い我が子を 見るような観世音。
2人の神の姿は、何処へか掻き消えた。
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西にむかって 走る1台のジープ。
乗っているのは4人の男。
「あ〜〜〜あ、はらへったな〜〜。
ねえねえ、八戒。次の街まで あとどんくらい?」運転席に尋ねる。
「またかよ、お子ちゃまは これだからいやだね〜。何回同じ事聞くんだよ。
猿はやっぱり 学習能力がなんだな〜。」と、茶々を入れるもの1名。
「猿って言うなって、なんべん言ったらわかるんだよ。
学習能力がないのは、お前の方だろ! このC級エロ河童!」
茶色の髪に金の瞳の男の子は、横に座る紅い髪に紅い瞳の男に
食って掛かっている。後部座席での言い争いは、益々エスカレートしていくようで、
五月蝿いことこの上ない。
それを 運転席にいる黒髪に深緑の瞳の男が、
ナビシートに座る金髪に紫の瞳の男の機嫌を気にしながら笑って聞いている。
「まあまあ、もうすぐ 街にも着きますから、静かにしてくださいね。
今夜は、宿に泊まれるんですから、お行儀よくしないといけませんよ。
ですよね、三蔵。」
「ああ。」
「だそうですよ。わかりましたか? 2人とも」
ジープは まもなく街に着き、猿こと 孫 悟空 の希望で夕食を先に取り、
4人は今夜の宿をとった。
今夜は、4人とも1人部屋が取れたのだが、食後のお茶を飲んだりして、
まだ 三蔵の部屋に4人ともいたのだった。
「なんか 来る。」悟空の並外れた感覚に、触れるものがあった。
4人は、瞬時に戦闘体制をとる。
現れたのは、観世音菩薩と陽神女だった。
「よっ、おまえら元気か?・・・相変わらず 男ばかりでむさいね〜。」
観世音の登場に、敵の襲撃ではないと 一同は肩の力を抜いた。
「余計なお世話だ、クソババア。 何しに来た。」三蔵は召霊銃を、構えたままだ。
その銃先は、観世音の方に 定められている。
「俺様に向かって、いい度胸じゃねえか。
まあいいさ、今日は お前らにプレゼントだ。この女を、天竺に着くまでに渡る川に、
連れて行け。いいな。」その言い方は、一方的だ。
「断る。足手まといは必要ないんでな。」三蔵は、揚神女を一目見ただけで、
判断し 冷たい言葉で 言い切った。
「その心配なら無用だ。その女 守らなくてもいいぞ、お前達の方が
足手まといにならないようにしろよ。じゃあな。」
観世音菩薩は、それだけ言い置くと 消えようとしている。
「待て!クソババア!」
グァウン、グァウン、・・・・・・・・銃声が響く中、元の静寂が訪れた。
三蔵は 頭を抱えたい気分だった。ただでさえ 危険な旅だというのに、
あの クソババアは、女連れになれという。
男4人なら 多少のことは我慢がきくが、女は面倒くさい。
まして 自分は女人禁制な寺で育ったため、どうしていいのかが わからない。
(まいった)本当のところは、そんな気分なのである。
しかし、それはおくびにも出さずに、目の前に立つ女に視線を合わせた。
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