金剛不壊 (こんごう ふえ) 1

『金剛石やダイヤモンドのように 硬く壊れないこと。
非常に意志が堅く 変わらないことをいう。』





の様子が いつもと違う事に気が付いたのは 

いつもリアシートで 仲良く話す 悟空だった。

 なんだか辛そうだけれど、どこか痛いのか?」

心配そうに 覗きこんで尋ねる。

「ん・・ええ 大丈夫よ、悟空。心配はいりません。」

が そう言っても 顔色は悪いし、なんだか 辛そうだと 悟空は思った。

悟空の問いかけを聞きながら、バックミラーで確認した八戒は思わず眉をひそめた。

が かなり辛そうに見えたからだった。

そのまま 三蔵に視線を投げると 三蔵も いつもの不機嫌そうな表情ではなく

険しい顔をしているのが、うかがえる。




この 1週間ほどは 男の自分でも辛かったのだ、

女性のが どれほど大変だったかは想像に難くない。

野宿と度重なる妖怪の襲撃 それに この2日間ほどは やけに夜冷え込んでいた。

宿で眠るのなら三蔵もを温めてやっただろうが、野宿では自分たちの目もあるせいか

は必要な時意外は 三蔵に話しかけも 触ろうともしない。

普段は それでいいと八戒も思っていたが こんな時には 非常に困る。

悟空はともかくとして 悟浄もの様子に気が付いてはいるのだが、

三蔵の手前 が楽になると解っていても 抱き寄せてもたれさせる事も出来ない。

八戒は バックミラーで 悟浄を見る。

悟浄の方も どうしたらいいか悩んでいたのだろう そんな八戒と目があった。




八戒は ミラー越しに 悟浄に頷く、悟浄も意を決したように 頷き返した。

 身体が辛えなら 俺に遠慮なくもたれると いいぜ。

今日は 何とか 街に着けるって八戒が言っていたし、

大丈夫だって言っても 顔色悪いしさ。」

いつもの ふざけた物言いとは違って優しく 問いかけてやる。

「う・・ん 悟浄ありがとう。ごめんね 心配させちゃったね。

それじゃあ ご好意に甘えて もたれてもいいかな?」

は そう言うと 悟浄の肩に頭を寄せた。

よほど 辛かったのか は悟浄にもたれると、大きく肩で息をついた。

悟浄はの肩に手を回して身体を支えてやったが、

手に伝わる体の熱さに 驚くと、

「八戒 出来るだけ飛ばせよ 熱が出ているぞ。

悟空 リアから毛布取れ、かけてやらねぇと 風が当たっちまう。」と指示を出した。




それまで 無言で俯いていた三蔵が、「八戒 ちょと止めろ。」とジープを停止させた。

自分は 車を降りると 「悟浄 てめぇも 降りろ。」と言い そのまま悟浄の後に 座る。

悟浄は 三蔵が何をしようとしているかが解ると、黙って ナビシートへと移った。

リアに座った三蔵は 毛布で包んだを 自分の膝に横向きに据わらせて 

自分にもたれさせ抱きかかえてやった。

それを確認した八戒は 「では 出しますよ。」アクセルを踏みながら そう言葉をかけた。

宿で2人きりになったときには 恋人として接するが、

それ以外の時は 自分以外のやつらの方がと話をし仲がいい 

三蔵はが仲間として みんなを気遣っているのが解っていたので、

何も言わずに そのままにしてきた。

だが 自身が 己の意思をまげて 甘えなければならないほどに 

身体が辛いと言うことになれば、

抱きしめてやるのは 自分しか許さない三蔵だった。




いつもは 文句の一つも出る所だろうが、悟浄も悟空も の気持ちを察して 

あえて何も言わずに 三蔵のやる事に協力している。

「三蔵・・・ごめんなさい。」腕の中で 弱々しくが 声を出した。

「いいから 楽にしてろ、眠ってもいいぞ。」三蔵の言葉に かすかに微笑むと 瞼を閉じて

身体から力を抜く だった。

熱のあるを抱きかかえながら 3人のに対する想いを 改めて感じる三蔵だった。

ようやく 街に着いて すぐに宿を取り 医者を頼んで診察を頼んだ。

医者が言うには 過労と風邪が重なっているだけで 心配はないが、

安静にして充分に休むことが大切と言うことで 4人はほっと胸をなでおろした。

そうは言われても は苦しそうに 熱のある身体で横になっているので、

笑顔を見るまでは 4人は安心できない思いでいた。




三蔵は を1人部屋にいれ 自分は そこへ付いている。

後は4人部屋にしておいたので 三蔵以外の3人はそこでくつろいでいた。

悟浄もの具合が気になっているのか 遊びに出る様子も無い。

八戒は 三蔵の夕飯とのお粥を 1人部屋に運んだ、ノックをして部屋に入ると

「三蔵 ここで食べるだろうと思って 運んできました。は 食べられそうですか?」と

ベッドのの様子を見ながら 三蔵に食べるように促す。

三蔵も八戒と交代して テーブルに着くと 夕飯に手を出した。

「医者の薬が効いてんだろう、今は 食べることよりも 充分に眠らせた方がいいだろう。」と

三蔵は八戒に 話した。

「そうですね 野宿続きで 眠りも浅かったようですし、まずは 睡眠ですね。」いつものなら

三蔵はともかく 八戒に寝姿を見せるようなことはしない。

やむおえず同室になっても三蔵を挟んで背中を向けているところしか見たことが無い。

今は そんな些末な事にも注意が払われないほどに 

病んでいるのだと思うと、八戒は切なくなった。




三蔵の食事が終わると「じゃあ が起きたら 呼んでください、何か作ります。」

と言いおいて、八戒は 部屋を出て行った。

隣の部屋に戻ると 「八戒、はどんな具合?」と悟空が すぐに尋ねてきた。

「ええ、よく眠っていましたよ。起きる様子はありませんでした。

悟空、良かったらこれ食べませんか?」とお粥を 悟空に勧めた。

「でも これ のために作ったんだろう?」食べたそうだが 

気遣って八戒を見上げている。

「ええ でも よく眠っていましたから、お粥が冷めてしまいます。

おいしいうちに どうぞ。」

それを聞いて うれしそうにお粥を食べ始める 悟空。

それを見ながら 「のことは それでいいだろうが、

もう1人の坊主の様子はどうよ?」と

悟浄は 煙草を燻らせながら 八戒に聞いてきた。



「ええ 一応夕飯にも手を出しましたから 大丈夫でしょう。

ですが・・・・くっくっく・・・」と八戒はさも可笑しそうに笑っている。

それを片眉を あげて「ですが・・なんだよ。」と 悟浄が促すと、

「ええ 灰皿が綺麗でしたよ。」と八戒は 返した。

さも 珍しい事を聞いたように 驚いて「へ〜、あの ヘビィスモーカーがか?」

「ええ そうですよ。よほど 心配なのでしょうね。」と 八戒は言った。

「だろうな、ジープでを抱えている時だって これでもかってほど 優しくしてたし、

大事そうにしてたもんな。」思い出しているように 宙を見ながら

悟浄は 隣の部屋の坊主を思った。

その後 は一度目覚めて 軽く食事をし薬を飲むと また眠りに就いた。

それを見て安心したのかがゆっくりと眠れるよう 三蔵も4人部屋に戻って休んだ。




事件は その夜に起こった。

夜中 宿の火も落とされて 寝静まった頃 紅孩児の刺客が襲ってきた。

ドアと窓の両方から 妖怪が部屋になだれ込んでくる。

4人は 気配に気がついて すぐさま臨戦態勢をとったので 事なきを得たが、

隣室ののことが気になっているものの 廊下にも刺客がいるために 

無事なのかも確認できない。

三蔵は 焦った。

いつものならば 心配しなくても充分に対応しているであろうが、

今は 熱と過労で臥せっている身なのだ、

しかも 医者からの薬で 睡眠も何時になく深いはず・・・・・、

早く無事を 確かめたい。

その思いは 他の3人とて同様らしく「三蔵 ここは 僕たちでなんとかしますから、

早くの元に行ってください。」気孔を発しながら 八戒が三蔵に言った。




それに頷いた三蔵は 援護を受けつつ の部屋にたどり着き中に入った。

自分たちの部屋同様に 窓とドアは破られて ひどい状態になっている。

三蔵は ベッドの上から部屋の隅々まで 目を走らせるが 

そこにの姿はなかった。

?」荒い息の間に 名前を呼んでみるが 何も返事はなかった。






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