金剛不壊 2





を 脇に抱いた妖怪は 1人の男の前に その身体を差し出すと

「玄奘三蔵が 供にしている女を生け捕ってまいりました。」と 

膝を付いて恭しく述べた。

「あぁ ご苦労だったな、もう下がっていいぞ。」横に立つ男が その者に言うと、

を連れてきた者は 例をとって下がって行った。

「なあ 紅、このお姫さん 三蔵のとこにいる人に間違いないが 

なんだって連れて来られたのかねぇ。

それほど弱い人じゃなかったみてぇだったが・・・・。」と 

独角児は の身体に手を掛けた。

「おい 紅、この人熱がある。しかも かなり高いぞ それに 衰弱している。」

「そういうことか この所 俺達の方もかなりやられていたからな、

この人にかかる負担も相当なものだったはずだ。

このまま見捨てても置けまい 八百鼡に言って治してやれ。

今頃 三蔵一行は 焦っているだろうな。」紅孩児は 

敵と知りながらも を治療するように申し付けた。





独角児に運ばれて 八百鼡の所へ連れて来られた は 意識のないままに

手当てをされ 薬を飲まされて 眠りについていた。

「ん・・・ううっ・・・、ん!あれ ここどこかしら? 三蔵・・・。」

熱が引いてきて 目が覚めたは 状況を把握できないままに、

三蔵の名を呼んでみた。

どう見ても 宿屋ではないらしい場所。

自分の記憶をたどってみると、ジープの上で

三蔵に抱きかかえられた所までしかない。

あの4人の取りそうな措置としては、まず 街に行き医者に診せるだろうと思う。

でも ここは その予想の範囲内の場所ではないという事は 

何がわが身にあったのだろう。

まったく わからない。





ただ ここ数日の応戦で出来た傷が 手当てをされていることなどからみて、

命に危険はとりあえずはないと 判断していいと思っただった。

この部屋には 多数の薬品類のほかに 女性らしい香りと小物があることから

女医さんの部屋らしい。

三蔵たちの手に余って 街の女医にでも預けられたのだろうか?

布団の中で まわりを観察しながら はこの部屋に誰かが現れるのを待った。

廊下を誰かが 歩いてくる音が聞こえてきた。

来るのは1人分の足音。

扉の前で 足音が止まり、ノブに手を掛けたらしい。

ドアが開いて 部屋の主と思われる人物が 入ってきた。

は その人物を見て 本当に驚いた。




それは 三蔵の敵だと認識している 紅孩児直属の部下 八百鼡だったからだ。

あまりの事に 何も言えずにいるに対し、「様 お加減はいかがでしょうか?」と

八百鼡は 優しい声で 尋ねてきた。

「あの 八百鼡さんでしたよね? 私は何故 八百鼡さんにお世話になっているのでしょうか?

三蔵たちは どうしたのか教えてもらえますか。」

八百鼡に殺気を感じることが出来なかったため 幾分安心したは、

自分がここにいるわけを 八百鼡に聞いた。

「はい 昨夜 紅孩児様は 三蔵一行に夜襲をかけました。

4人の命と魔天経文は奪えませんでしたが、配下の者が貴女を連れてきたんです。

何も抵抗され無かったと聞いて どうしてだろうと思っていましたが、

お身体の具合が悪かったのですね。

医者には見てもらったのですか?」

八百鼡はかいつまんで 説明をしてくれた。




「そうでしたか。

実は昨日 ジープに乗っている途中からすでに意識が無かったようなので、

三蔵が医者に診せてくれたかどうかは、

私には 分かりませんが ここへ連れてこられたのが

夜ならば たぶん 医者にはかかった後で 薬のせいで眠っていたために、

抵抗しなかったのでしょう。

八百鼡さん 紅孩児殿が 私をどうするのか 聞いておられますか?」

の問いに 八百鼡は首を横に振った。

「いいえ 何も聞いてはおりません。

でも 様の事は 玉面公主様には 報告されていない様子なので、

貴女をここで 看病している事を知っている者は、何人もいません。」

八百鼡の言葉に 嘘は感じられなかった。



 

様 確かに 紅孩児様は、三蔵一行と敵対関係にありますが 汚い手を使ったり

無慈悲な事をなさるような方ではありません。本来は お優しい方です。

ですから 様のことも 殺したりされる事はないと思います。」

黙って聞いているの事を心配してか 八百鼡は そう付け加えた。

「八百鼡さん それでも 紅孩児殿は 三蔵の敵ということには 間違いはありません。

私は 牛魔王蘇生実験の阻止は任務ではありませんが、

三蔵一行と旅を共にしているために

紅孩児殿の配下の方々を 手にかけています。

それを見過ごされるほどには、甘い方だとは思いませんが・・・・。」

自分でそういいながら は今置かれている立場の危うさを 改めて思い知った。

「そうですね・・・・・そうかもしれません。」

八百鼡は 暗い顔をして 俯いてしまった。




「八百鼡さん 紅孩児殿が 悪いわけではないと、三蔵たちも知っています。

その玉面公主という方の指示で 動いているのだということも 

薄々ですが感じているようです。

でも 任務遂行の行く手を邪魔するものは 敵とみなすというのが、

三蔵の意思ならば悟空も悟浄も八戒も 誰であろうと 戦うでしょうね。

逆から言えば 八百鼡さん達にも 同じことが言えるでしょう。」

の言葉に 八百鼡は頷いた。

「とにかく お体を治して お元気になってください。

今は それが一番大事だと思います。私は 様と 戦いたくはありませんが、

とにかく 今は 病に臥せっている貴女を 倒そうとは思いません。」

そう言うと 持ってきた食事を に差し出した。

「そうですね 八百鼡さんのおっしゃるとおりですね。では 遠慮なくいただきます。」

は 身体を戻すことに異論は無いため、食事に手を着けた。




箸を運びながら とにかく逃げるだけの体力を戻すことが、第一だと思った。

三蔵と以前に交わした約束を 果たさなければならないのだから 

グズグズとは言っていられない。

逃げるための最大限の努力をして 出来れば自力で 三蔵の元へ戻る。

それがかなわないのなら 生き延びることだけを考えて 三蔵の迎えを待つ。

三蔵は 必ず迎えに来てくれると言っていた。

約束を忘れたり 反故にするような人ではない。

それなら その時に 元気でいる方が 迷惑を掛けないで済む。

自分の身くらいは守れる状態でいたい。

そうでなければあの4人は私を 敵に捕られた事で自分たちを責めるに違いない。




八百鼡が言うとおり すぐには殺されないのなら、機会を待つしかないだろう。

ここが何処なのかも まだ解っていないのだし、私には 帰りたい場所がある。

帰りを待っていてくれる人も居る。

最後のその時までは あきらめたくない。

金蝉、天蓬、捲簾 私を見守ってね。三蔵の所に帰れるように 助けてね。

溢れて来そうになる涙をぐっと耐えて 泣くのは三蔵の元に帰ってからにしよう。 

の心はそう決まった。






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