月下麗人   Ver.





今夜は野宿になった。深い森で道が悪く、一日では抜けられなかったからだ。

の希望で野宿の時は、出来るだけ河や湖、池などの水の近くで、野営する。

希望が無くても 便宜上そうすることになるのだが、今夜は湖に注ぎ込む河と言う

にしたら、最高にいい条件のところらしい。

なんだかうれしそうに、笑顔が絶えない。

そんな を見て 三蔵、悟空、悟浄、八戒も 野宿もたまにはいいものを、

見せてくれるもんだと思っていた。

、この地は そんなに 神女である貴女が、

うれしくなる様ないいところなんでしょうか?

僕には そんな感じがしないのですが・・・・。」

夕食の準備をしながら、八戒が 不思議そうに聞いた。

「そうね〜、そんなことは無いと思うよ、しいて言えば私的に最高のところなの。」

八戒の疑問に答えているが、余計に疑問を深めさせては、仕事を続けている。

八戒の視線に気が付いて、「夕食後にみんなと一緒に話してあげるから・・・ね。」

今日のは、あくまでもご機嫌だった。





そして 夕食後のティータイム、満月が天頂に 差し掛かる頃になった。

は 八戒のほうを見てから、「みんな 今夜は 私に付き合って

見て欲しいものがあるの。」と切り出した。

「今日 機嫌の良かったのは そのためか?」三蔵が、尋ねる。

が 見て欲しいのなら 俺は何でも見るよ。」悟空は に弱い。

正確には、全員が 弱いのだが 大人は うまく隠しているだけだ。

「あのね 今夜は 満月でしょ? この湖は 川が注いでいるから、

水面にさざ波が立ちやすいのつきが 水面に反射して、湖が銀色に光るわ。

それを みんなで 見たいの。

見せてあげたいくらい綺麗なの ダメかな? 河仙内では有名な場所なんだ。」

すでに 悟空は 行くと言ってくれたが、3人はまだ何も言っていない。

「僕としては、是非見たいですね。お誘いいただいて うれしいです、。」

八戒は 誘ったことにまで、礼を言って参加を申し出た。

「おれっちも 当然行かしてもらうよ。いい男には、心の糧も必要でしょ?」

悟浄も そう言って、残るは 三蔵だけ。

三蔵としては2人だけで見たいのだが、そんな抜け駆けは今夜は許されないだろう。

それが 面白くないだけで、見に行こうとは思っているのだが、

言いあぐねているだけなのだ。




としては 三蔵にも 行って欲しいのだが、無理強いは 良くないだろうし、

人の嗜好は それぞれで 綺麗だと思わない人もいることは、承知している。

だが 三蔵には 言い訳が必要なことも 知っていたので、

「三蔵、私に花を持たせると おぼしめして、お付き合いください、

ささやかですが 今朝出た街にて、酒肴も用意いたしております。

景色の退屈な分は、私が 歌などで 趣を添えますので・・・・。」と、

ここまで言われれば断れるはずが無い。

「そうか、それほど言うのなら、行ってやる。」渋々折れて見せた。

は、笑顔を見せると、荷物の中から重箱2つと酒瓶3本紙袋を取り出した。

「悟空、手伝ってくれる?」が 何かを頼む時、まず悟空に声をかける。

「うん、いいよ。運べばいいんだな。」素直に手を出して、手伝おうとする悟空。

いつもの ほのぼのとした 光景が、繰り返された。

、もう一回 ご飯食べる気ですか?この量それくらいありますよ。それ貸して下さい。

ビン類は 重いでしょうから、僕が持ちますね。」八戒は、

ささやかだと言った酒肴に驚いた。

「だって 悟空に 食べさせたかったの。」と、は 苦笑した。





みんなで 少し歩いて、湖に河が注ぎ込むあたりへ移動すると、平らな地を見つけて

敷物を敷き、重箱を空け酒瓶を出し悟空用と思われる紙袋の中のお菓子やパンや

ジュースが、準備された。

「さあ、お座りくださいね。飲み物は渡りましたか?

今宵 ここに 5人でいられる 幸せに感謝して、乾杯しましょう。」

チン、チチン、グラスを合わせる音がして、しばしの間 みんなが 目の前の

自然が作り出す 絶景に見とれた。悟空も 黙って食べていた。




「本当に 美しいですね、。」八戒は をも含めた景色が、美しいと思った。

「絶景に美女だろ、これ以上は望めねぇもんな。」杯を傾けながら、悟浄も満足げだ。

、これすげ〜うまい。」そう言った、悟空を微笑んでみる

「悪くねぇな。」と、ひと言に集約させる、三蔵。

、さっき 歌を歌ってくれるって 言ってたろ、歌ってよ。」悟空に 

促されて、立つと はみんなの見る景色の端に立つ位置へと移動し、

一礼をした。

照れるのか 正面ではなく 横を向き 左手を胸に軽く添え、

右手を 前に少し差し出して、歌い始めた。




いつも話す声音も きれいなが、歌を歌うのを 初めて聴く 三蔵達。

しかも この 絶景に合わせた歌詞の歌なのは、歌いだしで解る。





雨の夜が嫌いな2人の男の記憶の中にある暖かい思い出の人。

そのことを指している訳ではないだろうに、歌詞に乗せて記憶を探ってしまう2人。




いま みんなで向かっている西への旅、5人に使命感なんてものは無いのだが、

それでも進み続ける自分たちを、暗示させているのか。




俺に出会うまでの自分を指して歌っているのかと、聞きたくなる三蔵。

恋しい男を500年もの長い間思い続けてきたを、切なく見守る。




自分との未来を暗示させるような歌詞に、三蔵はを見つめていた。

もしお互いが愛を誓えば、俺はどんなことがあっても 守り通すだろう。

相手に誓わずにはいられないだろうと、強く思う。




は 歌い終わり、また あたりには 静寂が戻った。

みんなの方を向いて、また一礼すると 

「いかがでしたでしょうか? あまり うまくは ないのですが、

時々 観世音に所望されて、歌っていたんですよ。」微笑みながら席に戻る。

「なんという代の歌なのですか?」八戒は この歌の歌詞に、

強く打たれたので聞いてみる。「月迷風影と、言う歌です。

私の好きな歌の1つなのですが、今宵 なぜか この歌が、

どうしようもなく歌いたいと思って選びました。」みんなのグラスに酌をしながら、

は 歌について、説明した。

銀色の水面を、風が渡り時が過ぎ行く。

「さあ、そろそろお開きにいたしましょうか、悟空が舟を漕いでおります。」

愛しそうに頭をなでながら、そう言って片付け始める。

悟空を起こし、八戒と悟浄が荷物を持って ジープに向かったのを見て、

三蔵は 煙草に火をつけの手を掴むと 3人と距離を取った。




手をつないだまま 2人で 湖のほとりを 少し歩く。

「いい歌だった、・・・・今度は俺だけに聞かしてくれ。」三蔵が歩みを止め、

に向かい合うと煙草を捨て足で消して、空いた手をの頬に添わせた。

「三蔵、今宵は私の我儘を許してくれて、ありがとう。とても楽しかった。」

「俺もだ。」親指で の唇をそっとなぞりながら、口付けしたいと思う三蔵。

待つといった手前踏み出せず迷う。

合わせていた視線をが瞼を閉じて、断ち切った。

促してくれているのを感じた三蔵は、

その紅く濡れた唇に柔らかさを試すような口付けを落とした。

ついばむ様な軽い接吻を、何度か繰り返すとそれが深くなる前に 

は三蔵の胸に手を当てて押し戻し、口付けを 終わらせた。

離れようとするを、三蔵は背に手を廻して抱きしめる。

「もう少し このままで・・・。」



月に照らされた2人の影は、1つに重なったまま しばらく動かなかった。






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(おまけ)



「俺たち 三蔵に うまく まかれたのか?」

「そういうことになりますね。

ほら悟空は、もう寝る時間でしょう。おやすみなさい。」

「そうそう、子猿ちゃんは お休みの時間だぞ。」

「猿って言うなよ〜、でも今夜はいっぱい食べたから眠いや、お休み。

・・・・・・・・・グゥ〜。」



「三蔵達、どこまでいってんのかね?はあの声音だ、いい声で啼くんだろうな。」

「僕はそれはまだだと思いますね。三蔵はああ見えて奥手ですから・・・・。」

「まあ、この間まで寺育ちの坊主だしな、経験しているとは思わねぇけどよ。

あんな美女と同室で、我慢できるもんかね〜。」
 
が許さない限り三蔵は何もしないと思いますよ。

悟浄と違って 一夜限りの相手とは

見ていないようですし、2人の間には何かあるようですからね。」

「俺なら一夜だけでも相手になってくれたら、虜にする自身があるんだけどな〜。」

「悟浄、三蔵の前でそんなこと言ったら、間違いなく身体に穴が開きますよ。」

「はい、すいません。」








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イメージした曲はNHK BSの『十二国記』と言う アニメのエンディング曲です。
すごくはまりまして、原作も読みました。
少し 中国風な物語のところも 『最遊記』と ダブりますね。
ドリームを読んだり 書いていると、現代からトリップしてしまうと言う 
設定に出会いますが、まさに そんなお話です。
まあ、もっと高度ではありますが・・・・・。