「思ってるばかりじゃ駄目だよ。口に出して言わなきゃ。」
悲しそうに泣く友人の肩に手を置いて、私はそう言った。
そうなんだよね、以心伝心とか一心同体なんて言葉はあるけれど、それは絶対に無理な話。
だって、そんなの綺麗事に過ぎない。
そんな言葉があるから、日本人はお互いが十分に話し合うことなく、暗黙の了解で事を運ぼうとする癖がある。
私はそれが悪い癖だと思う。

それは男女の関係も同じ。
『僕の気持ちは、今更言わなくても分かるだろ?』
と言うような言葉しか言ってくれなくなる。
どうしてだろう?
好きなら好きだと言ってくれてもいいのに・・・。
出し惜しみしなくてもいいと思うし、言って何に不都合が起こるというのだろう。
大事な彼女を泣かせるような事になるというのに、それでも、自分の気持ちを言葉にするのを、ためらうだろうか?

男ばかりじゃなく、女だって同じだ。
『私の態度やこんな仕草で、分かってよ。』と言うのは、都合のいい逃げのように感じる。
そんなのは、ベッドの中で戯れている時くらいで十分なはずだ。
そう思っているから、私は出来るだけ悠斗と会話する時間を持とうとする。
悠斗は『は本当にお話好きだね。』って笑うけれど、私がそうやって話すから、そのおかげで悠斗の気持ちや考え方を聞く事が出来る。
だから、少なくとも勘違いしてしまう事は少ない。

「駄目って決め付けて別れる前に、何処ですれ違ったのかもう1度よく話し合ってご覧よ。
それでも駄目だったら、その時は別れちゃっても仕方がないと思う。
でも、何も話し合わないうちに別れてしまうのは、きっと後悔するよ。」
涙が治まってきた彼女の背中を撫でながら、そう元気付けた。

よく晴れた公園のベンチ。
緑の枝の向こうから悠斗に連れられたこの子の彼氏が来るのが見える。
私の視線に気が付いて、悠斗が片手を上げて合図を送ってくれる。
「さあ、ちゃんと話し合って。まだ彼のこと好きなんでしょ?」
頷く彼女を見てきっと大丈夫だろうと思う。
まだ好きなのなら、彼の話だって聞く耳を持つだろう。
彼氏もそうだといいな・・・・。

後ろ髪を惹かれる思いで、2人をその場に残し私と悠斗はそこから離れた。
「あの2人、会話がなさ過ぎると思う。
もっとお互いの事話さなきゃ・・・だよね。」
「ん、僕もそう思うよ。
恋人でも夫婦でも、二心二体が基本だと思っているからね。
これっての影響だと思うんだ。
僕たちはああならないように、いっぱい話そう。
だからこれから僕んとこ行こうか?」
そう微笑んで肩を抱いてくれた悠斗に「ありがとう。」と、素直に気持ちを伝えた。

相手の気持ちや考えているとこを知りたいと思うのって、好きだとか愛しているだとか、そういう気持ちの基本だと思うから。
無くさないように、大事にしたい。
だって、悠斗のこと好きなんだから。
悠斗を好きな自分が好きなんじゃないから・・・。





(C)Copyright toko. All rights reserved.
2005.06.15up