「あなたが笑ってるだけで私は幸せになれるの。
母親って子供の笑顔を見ると、そう思うものよ。
だから、にとって誰よりも大事な人を見つけなさい。
そう思える人となら、幸せになる努力は苦労じゃないはずだから。」
そう言って微笑んだお母さんの顔を、私は聖母のようだと思って見た。
「それはお母さんにとってのお父さんなの?」
ふと湧いた素朴な疑問だった。
子供の目から見て、両親は仲の良い方だと思っていた。
毎日の生活の中には、喧嘩だって不機嫌な時だってあったはずだ。
長い夫婦生活の間には、嵐だってあったはず。
大人の部類になった今なら、多少はそれを察することが出来る。
でも 両親は、私の目から見て凪いだ海のように、穏やかな夫婦生活を過ごしてきたように見える。
「そうねぇ。」と、お母さんは少し遠くを見るような目をした。
「お父さんとはね、知り合いを通してのお見合いだったの。
私もお父さんもまだ若かったし、お断りするつもりでお会いしたのよ。
でも、お話してみたらいい人で、すぐにお断りするつもりが何回かデートを重ねてしまったの。
ちょうどねスィートテン・ダイヤモンドなんて言うキャッチフレーズで、結婚記念日のプレゼントを贈るのが提案され始めた頃でね。
そのCMを見ながら『こんな夫婦になりたいですね。』って言ったのよ。
そしたらお父さん『奥さんにありがとうって言える夫になりたいんです。』って真顔で言うもんだから。
結婚する予定じゃなかったんだけど、好きになってしまったの。」
ちょっと昔を懐かしむような顔で、お母さんが話してくれる。
そう言えばお母さんたち夫婦って、いつも『ありがとう』を忘れない。
特にお父さんに言われるとお母さんたら嬉しそうに笑う。
お母さんは質問の答えをちゃんと言ったわけじゃないけれど、きっとお父さんが笑ってくれるだけで、幸せなんだろうと思った。
母親としての幸せは私の笑顔かもしれないけれど、女としての幸せは、きっとお父さんの笑顔にあるんだよね。
少し照れくさいけれど、両親が仲がいいってうれしい。
私も悠斗に『ありがとう』を忘れないようにしたいなって思った。
言って欲しかったら、先ずは自分から。
言われて嬉しいことは、きっと悠斗も嬉しいはずだから。
「私もお父さんとお母さんみたいな夫婦になりたいな。」
そう言ったら、お母さんが嬉しそうに微笑んだ。
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2005.06.08up
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