「もう後には退けないよ。
、心の準備は出来た?」
悠斗が私を覗き込むようにして、クスッと笑った。
「うん、大丈夫だと思うけど、こんなに大きな家だとは思わなかった。」
ため息を吐きながら見上げた家は、お屋敷の名に相応しい。
もう、門から玄関までが家一軒くらい入りそうだよ。
悠斗は自分の家だから慣れているかもしれないけれど、私はごくごく普通の家に生まれて育ったんだから、こんなのには慣れていない。
悠斗が連絡してあるだろうから、今更此処で帰るわけには行かないだろう。
ご家族皆さんで待っているんだろうなって思うから、余計に緊張してきちゃう。
悠斗は恋人が出来たら、家族に紹介すると約束していたらしく、どうしても一度会って欲しいと言われてしまった。
「どうしてそんなこと?
だって、結婚するわけでもないんだよ。
私たち将来のことだって、まだ何にも決めてないんだし・・・・。」
そう言って拒んでみたけれど、ひたすらお願いされては、こちらも折れるしかない。
それに、『恋人を家族に紹介するのは、初めてなんだって。』って言われちゃうと、やっぱり嬉しいよね。
女の子としては・・・。
それで、学生としては一番相応しく、でもお洒落に見えるように爽やか系の
ワンピースを着て来た。
キャミソールタイプのワンピなんて問題外。
お化粧もごくごく薄くナチュラルに。
ここはやっぱり好印象を残したい。
だってねぇ、もしかしたら、もしかするかもしれないわけだし。
悠斗の後を歩いてリビングに招き入れられる。
挨拶もそこそこに、悠斗そっちのけでお姉さんとお母さんが話し掛けて下さった。
そのお2人の話によると、なんでも悠斗は中学高校時代凄くもてて、女の子パワーに嫌気が差して今の男ばっかりの大学を選んだこと。
もてていたのに彼女とか恋人はいなくてひょっとしたらと心配になったこと。
どんな心配かはなんだか恐ろしくて尋ねられなかったけど、恋人が出来たら連れて来ることを約束させて、試しに一人暮らしをさせたこと。
もっともお姉さんが結婚して同居のために、部屋が必要だったというのも理由としてはあったかららしいけど。
そして、大学に入ってようやくこの日が来たと、お母さんもお姉さんも凄く喜んで下さってた。
待ってたんだっていうのが伝わってきて、私も嬉しかった。
私がお2人のお眼鏡に叶ったかどうかは分からないけれど、少なくとも嫌われはしなかったらしい。
お父さんと思しき素敵な壮年の男性と、義兄と思しき小さい男の子を抱いた男性と一緒にこちらを見ている悠斗は、なんだか困ったように笑っている。
帰り道、悠斗は私とつないだ手を離さなかった。
「、嫌な思いさせてごめんよ。
でも みんなのこと気に入ってくれたから、大丈夫。
まあ、僕の初めての彼女を家のみんなが歓迎しないはず無いけどね。」
「えっ、初めての彼女なの?」
「そう、初めての彼女なんだ。」
なんだか凄い重要なことを聞いてしまったような気がした。
「あぁ、でも女性を知らなかったと言う意味じゃないから。
それは、も良く知っているよね。」
ウィンクしながらそんなことを言うのは卑怯だ。
頬が熱を帯びてくるのを感じながら、悠斗をねめつける。
「そんな顔しないの。
思い出せないんなら、これからその証拠見せてあげるから、
今日はお泊りして行って。」
手をほどこうと引いてみたけれど、既にがっちりと掴まれていた。
「逃げようとしてもだーめっ。」
こうなった悠斗に私が勝てたことが無い。
本当は嬉しいくせにちょっと不満そうな顔をして、悠斗に引かれて歩いた。
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2005.04.13up
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