「ここは世界で一番安心できる場所だよ。」
そう彼はつぶやいて私を抱きしめると、私の肩口に顔を埋めた。
それから「ごめん、ちょっと寝かせて。」と、断ってベッドの住人となった。
バタンキューなんて表現があるけれど、まさしくそれ。
気持ちよさそうに、すやすや眠っている。

ロボット工学を研究している悠斗は、ゼミ研修に参加して帰って来たばかり。
何処かの『青年の家』とかを借りての缶詰研修だ。
私も高校生の時に行った事があるけれど、本当に何も無い山の中。
人家のあるところまででも何キロもあったりする。
携帯は通じたから、何とか就寝前のわずかな自由時間に電話をくれたけれど、ゼミの友達が一緒だから短いものだった。
だって、悠斗は私と付き合っていることを、みんなに内緒にしているんだから、隠れてこそこそしなくちゃならない。
電話の声もどこか低くて小さかった。

で、帰ってきてから、すぐに私のところへ来てくれたけれど、よほど疲れているのか、短い抱擁だけで眠ってしまった。
修学旅行かキャンプにでも行った子供を迎えたお母さんみたいな気持ちになる。
きっと目が覚めたら、お腹が空いているに違いない。
なんだか展開が見えて、可笑しくなる。
悠斗が眠っている間に、何か作ってあげようとキッチンへ立った。

きっと集団生活だったから、カレーとかは出たと思う。
悠斗はなぜか子供っぽいメニューがお好みだから・・・・と、冷蔵庫を開けて中身を確認した。
オムライスとサラダなら出来る。
手早く材料を取り出して、並べると準備にかかった。
さすがにスープまでは出来なくて、インスタントで我慢してもらおうと、手抜きを決めてしまう。

玉ねぎとミックスベジタブルを炒めて、ご飯と一緒にしてから味をつけた。
卵を溶いて軽く混ぜてふわふわ感を出す。
よけて置いたご飯を卵で包んで、皿に盛り付けた。
私も食べたいから、2人分。
出張で疲れて帰ってきた夫が昼寝をしている間に、彼の好きなものを作って労わろうとする新婚の妻って感じの気持ち。
そんな自分の想像にホワンと胸が温かくなる。

これで、もし キスで起こしたりしたら完璧。
彼が先に起きてきたら、そんなことは出来ないけれど・・・ね。
そんなことを考えながら、出来たオムライスをテーブルに並べた。
でも まだ眠っているみたい。
それなら、完璧になるためのたくらみも成功するかな。
スープの用意にキッチンへ戻ったところで、後に人の気配。
振り向くと悠斗が嬉しそうに、立ってた。
「もうさ、いい匂いがするから、空腹で目が覚めちゃったよ。」と、ちょっと照れたように笑って口にする。

う〜ん、新婚夫婦計画は駄目になったみたい。
それでも悠斗に近寄って、その頬にリップノイズ付きのキスをした。





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2005.03.09up