この思いは誰にも知られる事はない。
知られてはいけない。
そう、当然彼にも知られたくない。
自分の心の奥深くに埋め込んでしまえばいいと思っている。
悠斗はとても素敵だと思う。
『素敵』と言ったって色々あると思うけれど、そう例えるなら『騎士』って感じ。
『王子様』じゃないのは、私が持っている悠斗のイメージから。
同じ爽やかさがあっても、王子様の感じじゃないの。
なんだか、その爽やかな笑顔の下には、凄い実力が秘められていて、敵には容赦しないみたいな、力があるような気がするから。
実際、塾のバイト仲間でも一目置かれている。
そんな悠斗のことを、女の子が放っておくはずがない。
塾は地域密着型で中学生が主軸の高校受験向きのものだから、通ってきているのは中学生と小学生高学年の子ばかり。
もちろんその中には、女の子もいる。
授業が終わっても悠斗は塾生の質問に付きあわされている。
私にも質問には来るけれど、悠斗ほどじゃない。
悠斗には男子生徒はあまり来ない。
来ないと言うよりも女子生徒の勢いに押されて、近寄れないのだ。
中学生の男の子は、まだまだ女の子の勢いには叶わないらしい。
故に、悠斗に質問をしに押し寄せるのは、女生徒ばかりだ。
彼女たちは彼よりも6歳以上年下で、悠斗には彼女(私のこと)がいるから、純粋に生徒としか見ていない。
それでも憧れや淡い恋心を悠斗に寄せている。
彼女たちには、そんな気持ちを隠すような事はまだ出来なくて、その態度や瞳を見れば一目瞭然なのだ。
つまり、悠斗だって気付いているはず。
それでも 邪険にしないのは、彼女たちが塾の生徒だからだ。
と、思うし、思いたい。
その日、バイト帰りに3人くらいの女生徒たちが、私と悠斗の後をつけていたらしい。
それに気付いた悠斗は、「、こっちへ来て。」と突然に道路脇の公園に私を引っ張り込んだ。
周りに人のいないのを確認すると、私を抱きしめてキスをした。
当惑したものの、彼からの熱いキスに私の身体は当然応えた。
離れたところでキャーとかイヤーとか言う、嬌声が上がって私は驚いてそちらを見た。
「は此処にいて。」私を抱擁から解いて、悠斗はそこへ向かった。
そして、女生徒たちになにやら話をしている。
さすがに傍に行ったら不味いだろうと思って待つことにした。
風に乗って少しだけ声が聞こえてくる。
『プライバシー』とか『ストーカー』とか、耳慣れた単語が幾つか聞こえてきた。
5分ほどの話が終わると、彼女たちは頭を下げて帰っていった。
悠斗は少し厳しい顔のまま、私の傍に戻ってきた。
「とりあえず注意はしたけど、今度やったら父兄召喚だな。
塾内で済んでいる内は、が嫉妬をしてくれるのが楽しくてそのままにしていたけれど、さすがにあれはやりすぎだ。
これじゃホテルにも入れないし。」
悠斗の言葉に、深く埋めていたはずの私の気持ちが、すっかり全部知られているのに気付いた。
「あっ、何その顔。
はそんなこと思ってもいなかったとでも言うつもり?
そんな悲しいこと言わないでよ。
生徒がさ、質問に来るたびにの意識と視線が僕に注がれているの、凄く嬉しかったんだから。」
悠斗は私の身体をその腕の中に閉じ込めて、逃げないようにしておいてから耳元で囁くように言葉をつむいだ。
頬が熱い。
深く深く、閉じ込めていたはずの私の気持ちは、深過ぎて下へと突き抜けていたのかもしれない。
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2005.03.09up
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