『あなたは私の弱点ばかり知っている。』
そう言ったとしたら、悠斗を喜ばせるだけだから、絶対に口にしない。

特にこんな風にベッドに組み敷かれている時には尚更だ。

そうでなくても悠斗の手や唇や舌先で、私の身体は翻弄されている。
悠斗の手が私の身体を隅々まで辿ってまわり、唇がその後を追いかけて敏感に感じるところへとキスを落とす。
そこを味わいたいからなのか、私の反応がいいからなのか、悠斗が執拗に舌先で舐めたり吸ったりする。
自分じゃ触れない背中のくぼみや恥ずかしくて触れない感じるところまで。
私よりもひょっとしたら私の身体に詳しいかもしれない。
そんなことを思った。

悠斗が私の身体だけを欲しがっているなんて思っていない。
友人たちの話から、男の中には独りよがりなセックスをする人もいると聞いたからだ。
触れば誰でも感じるようなところはもちろん。
その他にも何故そこなの?
と、言うところまで悠斗は愛撫する。
始めは戸惑って抵抗したりしたけれど、シーツの上で彼に勝てたことなんか無い。
いつだって悠斗のなすがままに官能の海に沈められてしまう。
此処まで弱いのも少し困る。
確かに彼を好きで、ううん・・・・愛しているのだけれど、悠斗に弱点ばかりを握られて、私はなんだか悔しいのだ。

今夜も悠斗に好きなだけ鳴かされて、甘い余韻がベッドの中の私たちを包んでいる。
今の雰囲気なら何か言っても怒られないだろうと、腕の中で甘えたように見上げて話しかけた。
「ねぇ、悠斗。
悠斗って何か嫌いなものはある?」
「ん?急にどうしたの。
嫌いなものなんか、誰にでもあるだろう?
僕にだってあるに決まっているさ。」
上を向いていた悠斗は、私の言葉にこちらを向いて愛しそうなまなざしをくれた。
私が大好きな悠斗の優しい瞳で。

「ううん、別に。
じゃあ、これだけは譲れないって言う好きなものってある?」
弱点って何も嫌いなものだけとは限らない。
むしろそういうものは、克服できたり切り捨てたり出来るものだから、弱点とは言えないかも知れない。
好きなものや大事なものの方が人間捨てられないのだから、弱みになる。
それが証拠に、人質やかたに取るものはその人が大切にしているものが多い。
悠斗の好きなものが分かれば、そこから私の逆転のチャンスがあるかもしれない。

「う〜ん、そうだなぁ。
僕はそんなに物欲はない方だから、物ではないかな。
でも 大学で専攻している工学は好きだな。
キャンパスライフは期待できないって思ったけど、あえて今のところを選んだしね。
どうしても一つだけ、他には譲れないものがあるよ。
に分かるかな?」
私から質問をしたのに、謎をかけられてしまった。
こうしていつものように、私の方が窮地に立たされる。
楽しそうに笑ってこちらを見ている悠斗の顔を、少し睨みながら考えてみる。

なかなか答えない私に焦れたのか、悠斗が「ヒントをあげようか?」と言ってきた。
「うん。」そう応えると、「じゃあ、ペナルティとして1つ言葉をあげる度に、
一つから言葉を取り上げるからね。いい?」
言葉遊びをするつもりらしい彼に、分かったと頷いた。
「その譲れないものは、僕にとって『大切』なんだ。」
「えぇっ?ちょっと曖昧すぎるよ。
もっと具体的に言ってくれないと。
だって大切だから譲れないんでしょ?」
頬を膨らませた私に、悠斗は空気を抜くように人差し指で「ふくれないの。」と、そこを押して笑う。
「今の言葉と交換に、これから一日、は『駄目』って言ったら駄目だよ。
次のヒントは、いる?」
悔しいけれど、分からなくて悠斗に頷いて見せる。

そうしてなぜか拒否する言葉『駄目』『嫌』『やめて』『ストップ』などを、
悠斗に取られてしまった。
それでも 彼の弱点になりそうなものが分からない。
私はとうとう「降参する。」と、自ら投了を宣言した。
嬉しそうに笑う悠斗は「僕の勝ちだね。」と、勝利宣言。
背中に回していた手を、下に辿って後からいきなり触れてきた。
「悠斗、駄目っ。」
思わず彼の手首を押さえた。
、『駄目』は使わない約束だよ。」
私に手首を捕まれたままで、悠斗はさっきの余韻の残っている潤んだそこに指を入れて中の壁を確かめるように触っている。

「あっ、やめて。」
「『やめて』も「嫌』も『ストップ』も使っちゃ駄目だから、このまま大人しく僕の好きにさせて・・・ね?
の此処、もう熱くなってるから・・・・。
だけどといると、どうして僕はこうも弱くなるかな。
結構自制心は強い方なのに、がコントロールを狂わせるんだからね。」
重ね合わす寸前まで近づけた唇が、私にそう告げる。
告げたと同時に、重なってきたそれに、私の反論は飲み込まれた。

悠斗の弱点を知ったところで、私自身だと言われてしまうとどうしようもない。
自分を人質にはとれないもん。

やっぱり、悠斗は私の弱点ばかり知っているとキスに応えながら思った。





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2005.02.09up