ベビーカステラ 1
「私、左近ちゃんに食べられちゃうの?」
そんな可愛い問いかけに、思わず笑いが漏れる。
「は何処でそんな言葉を覚えたんだ?ん〜、まあそんなのはどうでも良いか。そう、これから狼さんが赤頭巾ちゃんを食べるんだ。」
ベッドまで運んでそっとリネンの海にを降ろす。
今まで何度もを彼女のベッドまで運んだことがある。
その情景が、フラッシュバックするように、目の前を通り過ぎる。
ある時は、クリスマスのホームパーティのソファから。
除夜の鐘を聞かずにもたれかかったコタツから。
もう少し大きくなってからは、一緒に見た深夜映画のエンドロールを横目に。
を抱き上げて運ぶ度に、段々と大人になっていくのを感じていた。
こうして、そのすべてを自分のものにするために、を抱き上げる日を夢に見ながら・・・。
夢かもしれない。
今すぐに、その柔らかい唇を奪って、誰にも触れさせた事のない胸にきつく紅い痕を刻まなければ夢の中のことかもしれないと、思ってしまいそうだ。
それほど長く、俺は、自分を抑えていたんだと思い知る。
初めてだろうにとっては、1回が限界かもしれない。
それで満足できる自信がないのが、我ながら可笑しいくらいだ。
ゆっくりとした動作で、を怯えさせないように気遣い。
俺もベッドに横たわった。
恥ずかしいのか、俺から顔を背けている。
耳がほんのりと紅いのが見て取れる。
「、こっち向いて。」
その耳をちょっと突付いた後で、肩に手をかけてこちらに向かせようとした。
「いやっ。」
拒否されているのに、そうは感じない。ただ、可愛いとしか。
「いつまでもこっち向かないと、優しく出来ないだろう?」
声を少し落として、肩から手を離した。
押しても駄目な時は、引くのが鉄則。
案の定、「怒ったの?」
そう尋ねながらが寝返りを打って、こちらを見る。
その隙に、彼女の頭の下に腕を入れて、そのまま背中を抱く。
「怒ってないさ。がこっちを向いてくれないから、拗ねてただけ。」
額にそっと唇を落とす。
「怒ったりしないで。」
「ん、そんな事しないよ。こそ、これから俺がすることに、怒らないでくれよ。」
それは冗談ではなく、願いだ。
「怒るような事するつもりなの?」
上目遣いで見上げてくるその表情に、俺の気持ちの押さえが利かなくなるのを知っていないことが、罪とさえ思えてくる。
「ん?怒るような事ではないかもしれないけれど、間違いなく濡れるような事。」
「今の言い方、なんだかいやらしいよ。」
その位の猥談(わいだん)は、知っているようで嬉しくなる。
大人の駆け引きは無理だろうし、そんな事をとはしたくない。
こうしてからかう位が一番楽しい。
「なに笑ってるの。その笑い方も・・・・・。」
「いやらしい?」
「うん。」
「そりゃそうだろ。だっていやらしい事考えてるんだからな。」
「もうっ。」
そう言って顔を逸らそうとしたのあごに手をかけた。
「だ〜めっ。俺を見ててくれよ。他は見ないで、俺だけ見て。」
瞳を覗き込むようにそう言うと、の頬が目に見えて紅くなる。
モノでは埋まらない心の奥からの渇望。
それを隙間無く埋められるのは、からしか与えられない。
「見てるもん。」
「本当に?」
「本当に。左近ちゃんだけ見てる。だから、ボーイフレンドなんかいらなかった。誰からの告白でも迷うことなく断ってきた。ずっと、ず〜っと、左近ちゃんだけ。」
恥ずかしさのあまりか、俺の首に腕を回すとそのまま抱き付いて来た。
そのいじらしい物言いとふわりと香った甘い香りに、たがが外れそうになる。
の身体を抱きしめて、ごろんとベッドをころがった。
添い寝のようにしていた位置が変わって、俺がの下になる。
は俺の顔の両横に手を付いて、身体を少し起こすようにして距離を取った。
「左近ちゃん。」
そういったの瞳は、潤んでキラキラとしている。
「うん、分かってる。俺もの事は本気だよ。心配しなくていい。兄貴と義姉さんの手前、本気じゃなきゃに手なんか出せないって。今まで待ったのは、俺の本気を兄貴たちに分かってもらう為だから。こうして、堂々とする為だから。だから、も俺に本気になっていいんだ。いや、むしろ本気になって。」
「うん。」
嬉しそうに笑ったが腕の力を抜いて、文字通り俺の身体の上に落ちて来た。
その重みの全てを俺に預けている。
並ぶと友達の美波ちゃんよりはかなり小さいだから、それほどは重くない。
心地よく感じる。
本当はそんな余裕などないのだが、此処はやせ我慢してでもそう見せたい。
男も結構複雑なんだ。
まあそれを、に分かれとは言わないが。
8歳の年の差があるというのは、プレッシャーになる。
ましてこっちが年上で、経験者。
がっついて焦った所を見せたくない。
此処は初めてのに合わせたスローペースにしよう。
これから幾らでも・・・・と、欲張った考えをめぐらして、今を我慢しようと心に誓った。
そう、誓いでもしないと暴走しそうで我ながら怖いのだ。
それほどに恋焦がれた。
失うかもしれないと、奪われるかもしれないと、拒否されるかもしれないと、幾夜苦しんだか知れない。
が思うほど、大人では無いと思う。
年下から見ると仕事をしてスーツを着ると、そう見えるかもしれないが、実際の所はほとんど大差が無いだろう。
男はみんなどこか子供っぽい所を持っている。
だから年下でも女性の方が精神的に大人だと思うこともしばしばだ。
だけど見栄っ張りでプライドが高いから、そんな素振りも見せはしない。
やせ我慢をしてしまうんだ。
今だって、に合わせてスローペースで進めようと思ってはいるけれど、それは嫌われるのが怖いからだ。
ここで少しでも怖がられたり嫌われたりしたら立ち直れないかもしれない。
大げさな考えだが、その位ドキドキしている。
これを正直に言えば、も少しは気が楽になるのかもしれないが、それが出来ない。
シャワー後のの身体を腕の中に入れて、その重みに至福感を味わった。
すぐに手を出したいところを抑えて、先ずはリラックスさせようと思った。
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2005.10.12up
2005.10.15改訂版up
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