Dubious move 2
もちろん、龍介と鷹介にも怒られた。
2人は少々私を過保護に扱いすぎる。
そう口にしても聞き届けてはもらえないだろうけれど。
それでも今回は、自分たちのテリトリーと呼ぶにはまだ知らない土地。
私でなくても女の一人歩きはそれなりに心配したに違いない。
温泉地でもあるこの地は、昼間でも酔っ払いが歩いている事もある。
龍介と鷹介が心配するのも無理ないかと、
連絡が遅くなった事は素直に謝って反省の態度は示した。
私が素直に出たことで、龍介も鷹介もそれ以上怒る事が出来なくて、
夕食後には元通りになった2人。
良かったとそっとため息を吐いた。
普段は優しくて本当に甘やかしてくれるのだが、
一旦怒らせると本当に怖い。
1人ずつならもう1人がとりなしてくれるから何とかなるのだけれど、
2人一緒に怒ったら誰もとりなしてはくれない。
お風呂上りに例の離れで床を並べていた。
「で、今日は何処でそんなに時間を食っていたの?」
龍介が持っていた文庫を閉じながらそう尋ねてきた。
「えっ?」
「だって、携帯を持って出たんだろ?
それなのに雨になっても連絡が来なかったって聞いたよ。
夕方随分遅くに迎えの電話を頼んだらしいじゃない。
僕たちが帰ったときには、そう聞いたよ。
本当は僕か鷹介が迎えに行きたかったんだけど、
もう当主夫人が出た後だったからね。」
別に浮気をしたわけじゃないけれど、祐樹君とあれほど仲良く話したことを
知らせてもいいかどうか迷った。
俯いた私に「何?教えられないような事してたの?」と、
それまで週刊少年誌を広げていた鷹介が、漫画に指を挟んで
こちらを見上げて尋ねた。
「ううん、話せないなんてことないよ。」
上手く笑えただろうか。
何故かぎこちなくなってしまった。
「、何故むきになるんだ?」
龍介が自分の布団から出て私の布団へと移動しながらそう口にした。
鷹介も少年誌を枕許に放って、じりっと動く。
「はね、僕たちに言えない事が出来ても上手く隠せないんだから、
話した方が楽になるよ。
今まで隠そうと思っても、悪あがきに過ぎなかったって分かっているだろ?
子供の頃なら僕も鷹介も騙されてあげられたけれど、もう無理だからね
それに、僕たちもう隠し事はしないって約束だろ?」
龍介が覗き込むようにして話して来る。
「そんな追いつめる言い方しちゃ駄目だって。
にだって俺達に言いたくない事が出来る事だってあるさ。
まだ、の中で整理されてないんだと俺は思うよ。
さっきの今では、話せるまでになってない事も在ると思うし。
ちゃんと話してくれるさ・・・な?」
鷹介が龍介の言い方を咎めながら、私に助け舟を出してくれた。
「ありがと、鷹介。
別に言いたくない訳じゃないの。
話してもいいかどうかは、私一人で判断がつかないことだから。
明日、もう一度加納さんのお宅に尋ねてみようと思っているから、
2人に話してもいいかどうかは聞いてみる。
あっ、決して浮気とかそういうのじゃないから心配しないでね。
相手にもそんな気はないと思うし。」
鷹介は私の髪を撫でながら「ん、分かった。を信用しているからね。」
そう言って頬に唇を寄せると、リップノイズをさせてキスを落としてくれた。
「なんだよ、鷹介のえぇカッコウしぃ。
僕だって、のことは信用してるさ。
だけど、は一つだけ誤解をしているよ。
男はね、幾つでも男さ。
例え80歳のご老人でも5歳の男の子でもね。
だから、あまり気を抜かない事。
いいね。」
龍介はそう言って、額にキスをしてくれた。
その様子に鷹介がクスクス笑った。
「龍が嫉妬するなんて珍しいな。
いつだってこれでもかと言うほどクールなのにさ。
やっぱ、のこととなると違うなぁ。」
龍介の方を向いていた私は、そのまま後ろから鷹介に抱きかかえられた。
湯上りの首筋に鷹介の唇が落とされる。
やわやわと首を唇で噛んでいる感触がくすぐったい。
龍介が首をかしげたままの私にキスをしてくれる。
啄ばむように何度も。
「で、その相手ってやっぱり男なんだ。」
首筋に顔を埋めたままで鷹介が耳元で尋ねた。
「ん、男って言っても祐樹君は病気の中学3年生だから。
んんっ、まだ・・・子供よ。」
龍介のキスに疼き始めた身体をなんとか抑えながら答えた。
「ふーん、やっぱ、龍の心配は妥当な線だな。」
大きく吐き出した鷹介の息が胸元まで広がった。
「だろ?」
龍介が我が意を得たりと言った表情で、鷹介を見る。
「あぁ、の事を信頼してこのまま好きにさせようと思ったけれど、
そういうわけには行かなくなった。
明日の加納邸への訪問には俺も行くよ。
もちろん龍も行くだろ?」
「ん。」
何故か私の意見を無視した形で、2人の同行が決まっている。
確かに、龍介の書く小説のファンだと言っていた祐樹君は、
龍介を連れて行った方が私一人で行くよりも喜んでくれるだろうし、
加納さんも迷惑とは仰らないだろう。
病気と言っても自宅療養をしているくらいなのだから、
お客様くらいは大丈夫だと思う。
それでも、なんとなく1人で行きたいという思いはなくならなかった。
けれどもそれを2人に口にする前に、
鷹介の手が私の胸にあてがわれた。
優しく壊れ物を扱うように撫でてくれる愛撫に瞳を閉じて身をゆだねる。
もうそれは習慣化してしまっている。
「鷹、そのままな。」
そう指示を出した龍介がパジャマのボタンを外していく。
外されたボタンで出来た隙間から、鷹介の手が入り込み素肌に直接触れてきた。
いつものように始まる濃密な愛の交換。
こうして2人分の愛撫を受ける事を、当然と思えるようになった。
気持ち的には、ずっと2人が好きだったからそれは変わらないけれど、
身体で表現する愛は大人ならではのことだから。
もし、龍介と鷹介が私を愛さなくなっても、私は2人を愛し続けるだろう。
他の誰にも抱かれるつもりはない。
他の人と3人での行為は、出来ないことはないと聞くけれど、
この2人のように流れるような愛撫は出来ないと思う。
何よりもその手や口に触れられると、愛を注ぎ込まれるように感じる。
皮膚がそれほど何かを吸収することがないのはわかっている。
それでも私は、肌の上に施されるものをこの身体に吸収しているような気がする。
龍介の愛撫は直接的でそれでいて叙情的だ。
書いているあの小説と同じように、私にも何かを残そうとするように動く。
まるで私の肌の上に愛を綴っているように思うのは、
私の独りよがりではないと思う。
鷹介のはその仕事柄か、自分の何かを私に打ち込んでいるように思う。
何かの折にそれが引き出されて反応してしまうように、
プログラムされている気がする。
他の男性に触られた時に嫌悪感を感じるように。
他の誰にもときめかないように。
愛撫は鷹介や龍介からでないと感じないように。
それこそ肌を重ねるたびに沢山のプログラムを打ち込まれ、
身体に愛を刻まれる行為に私は酔わされる。
同時に愛してくれるけれど、私の身体で受け入れられるのは1人ずつだ。
方法がないわけじゃないと私だって知っている。
本来はその機能では使わない部分で受け入れてしまえることも。
けれども2人はそれを望んでいないと、
私の考えに先回りした龍介が釘を刺した。
理由は私への身体の負担が理由だ。
何処までも優しい2人を私の精一杯で愛したいといつも思う。
素直に感じるように慣らされた私は、2人にいつも翻弄される。
龍介が終わってもすぐに鷹介が私を突き上げる。
双子だけれど、目を閉じていても誰だかわかるほど違いがある。
違うからこそ余計に感じる。
それはいつもの事だけれど、慣れることはない。
今夜もそうして私は2人の腕の中へと落ちていく。
何も分からなくなっても2人になら任せていて大丈夫だと知っているから・・・。
(C)Copyright toko. All rights reserved.
2005.11.30up
|