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に内緒で来た宝石商の名前を見て、龍介が選んだリングの
値段が高かったのが分かった。
『王のための宝石商』とか言われるとこだろ、ここ?
それくらい俺だって知ってるさ。
あの後、あの本をぱらぱらめくったけれど、他に気に入るようなデザインの
ダイヤの指輪がなかった。
ダイヤにこだわるのは、それがの誕生石だからだ。
もし、9月生まれならサファイヤにしただろうし、
6月生まれならパールにしただろう。
俺って結構こだわり派なのかな。
まあ、龍介の選んだデザインやクオリティが完璧だったと言う事もあるけど。



誰かの紹介がなければ、上客として対応してもらえない。
そう聞いた俺たちは、龍介のコネを使って紹介をしてもらった。
俺の方のコネは今回使えなかった。
まあ分野の問題なので仕方がない。
俺も龍介も歳の割には、金だけはある。
しかも親の金じゃなく自分で稼いでいるってところは、ちょっと自慢だ。
カードだってゴールドの無制限だし、口座にも心配ないだけ蓄えがある。
ましてやに使おうかと言うお金には、糸目はつけたくない。
って言うか、婚約指輪や結婚指輪と言ったら一生に一度の買い物だ。
俺も龍介も納得ができるもので、の指を飾りたい。



店内に入ると、ベージュの大理石で内装された壁と床で、
落ち着いた雰囲気と高級感が漂っている。
安いものでも10万単位だと言うから、気軽に入る客なんかいないだろう。
明りが十分に入る大きな窓のそばの程よい大きさのテーブルに案内された。
俺と龍介が座ると、すぐにコーヒーが出てきた。
それと同時に向かいには女性の店員が座る。
黒いスーツに金のネームプレートをつけている。
一切ジュエリーは着けていない。
でも良く見ると結婚指輪だけはしていた。
「いらっしゃいませ。
本日はようこそおいで下さいました。
では、お話を伺いましょうか。」
なんだか宝石を買いに来たと言うよりも、人生相談にでも来た様な雰囲気だ。



婚約指環を探している事と、指輪のサイズを伝える。
「石は何をご希望ですか?」と問われて、「ダイヤ」と応えた。
後ろに立っていたもう一人の店員に合図を送ると、その人が引っ込む。
その間にの好みや嗜好を聞かれた。
そして、引っ込んだ店員がビロードを張ったトレイに、
何本かのダイヤの指輪を持って現れた。
男だって綺麗なものには弱い。
女ほど露骨に口にしないだけだ。
がいないせいか、俺も龍介も思わず身体を乗り出して
そのトレイの中を覗き込んだ。
「お目当てはおありでしょうが、先ずは石の形を見ていただきましょう。
名前などは後でご説明申し上げますが、お嬢様に贈られるのに相応しい
石のカットはどれがよろしいでしょう?」
そう言われて、俺は正直困った。
その並んだ石たちの迫力にも美しさにも押された。
どう選んだらいいのか分からない。
そんな俺たちの様子を、店員は微笑んで見ている。



「どれも素晴らしい石ですから、お迷いになるのも分かります。
ちなみにこれは全てソリティアです。
石1つだけで指輪にしています。
脇に小さめの石を添えたり、リング部分に埋め込んだり、
同じくらいの石を並べたりと色々デザインがございます。」
店員が説明を終わると、龍介が「その同じくらいの石が3つ並んだデザインの
リングを見せて下さい。
石の形はそれから決めたいのですが。」と言った。
「デザインから決めると言うのも面白いですね。
では早速、持って参ります。」と、店員はトレイを手に席を立った。



「鷹、良かったか?」
「ん、いい選択。」
あぁ、やっぱり一族を率いていくのは龍介の方が適任だ。
俺が二の足を踏むような事態でも、龍介が横で何か動いてくれる。
それを頼りにしているわけではないけれど、俺じゃそれができない。
だったら素直に白旗を揚げたい。
そうなりたくてもなれない自分を認めて、龍介を補佐していくのも悪くない。



店員が同じようなトレイに幾つかの指輪を持ってきてくれた。
確かに同じような石が並んだ指輪だ。
「今度はカットの名前でご説明しましょう。
左から丸いブリリアントカット、楕円形のオーバルカット、
細長くとがった感じのマーキーズカット、四角いのは左がエメラルドカットで
右がプリンセスカットと言います。
片方だけとがっているペアシェイブカット、三角のトリリオンカット、
最後がハートシェイブカットです。
この指輪のデザインはスリーストーン・リングと言うんです。
同じダイヤでもカットで随分印象が違うものでしょう?」
そう言われて、本当だと思ってしまうのは、
俺がこういうものを見慣れていないせいかも知れない。
考えてみれば、今までにに宝石をプレゼントした事はなかった。
もちろん、プレゼントしていないと言うわけじゃない。
クリスマスやホワイトディ、誕生日なんかには龍介と一緒にプレゼントしている。



クリスマスから誕生日までわずか4ヶ月。
バレンタインも含めると4回のプレゼントと言う事になるから、
そのたびに買い物に行くのは辛いし恥ずかしい。
なので、俺と龍介は1度に4回分の買い物をしておく。
シリーズもののアイテムを4個買ってそれぞれに包装を頼んでおく。
それを順番に渡している。
肌が白くピンクがかっているには、ゴールドの金色よりも
プラチナやホワイトゴールドのような白い金属の方が似合うんだ。
だから、そういうものの中からに似合いそうなデザインのものを選んでいる。
けれど、今までは石の付いたものではなく、ファッション的な物を選んでいた。
それは、がまだ女と言うよりも少女に近い感じがしたせいかも知れない。
石の輝きを必要としない無垢な感じ。
何かで光を遮りたくないと言うか・・・・。
だけど、ダイヤなら光ってもの持ってる輝きに花を添えるみたいで、
邪魔にならないと思う。
こんな考え方を俺がするなんて、ちょっと自分でも照れる。



龍介がこのスリーストーン・リングを選んだ意図は、言われなくても分かる。
センターに配された少し大きめの石はを現していて、
両脇に並ぶ石は俺と龍介を現しているからだろう。
他のデザインともっとも違うところは、脇石が脇役となっていないところだ。
ソリティアとしても十分な石が3石並んでいるところが、俺としても嬉しい。
並んだリングたちを比べて、どれが一番に似合うだろうかと考えた。
「鷹介、決まったか?」
ちょっと顔を覗き込むような感じで、龍介が尋ねてくる。
2人で1本を買おうと言うわけだから、出来れば2人が選んだデザインがいい。
「ん、決まったよ。」
「じゃ、石のカット名で言ってみるか。
1、2、3」
「「オーバル」」
あぁ、やっぱりなと思う。
俺たちってこんな時、絶対に重なるんだ。
双子だからじゃない、同じ価値観と選択眼を持っている。
俺たちが深山家に生まれた運命なのかもしれない。



「やっぱり、がはめるとと、考えるとな。」
「ん、選んだ理由も一緒だ。」
お互いの選択に満足すると、照れ笑いがこぼれた。
こうやって同じ方向を見ていられるから、を交えて3人で居られる。
物心がついて、が好きだと感じる前から、3人で居る事が当たり前なのだから。
ひょっとしたら自身よりものことを知っているかもしれない。
特に男の目にどう見えているかとか、自分はどんな女なのかについて、
はまったく分かっちゃいない。
俺と龍介がどんな思いでいるかなんて、考えてないんじゃないかと思うくらいだ。
面倒な女だと思う。
こんなに悩ませて心配させるんだから。



この世には男と女しかいない、つまり世の中の半分は女性だ。
でなくたって、女なら五万と居る。
それなのに、にだけしかときめかなかったんだから、
俺と龍介はどうかしているのかもしれない。
恋は病だというけれど、これは一生かけた病なのかもしれない。
そんなことを思った。
だけど、そんな病にかかれるのも幸せなんだと思える。
その思考に、かなり重症なんだと自覚した。





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2005.08.03up