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もう、全てにおいてリミッターが解除されたような感覚。
を愛するのに、此処までと言う制限がなくなったような気がする。
何時まで、3人で愛し合えるのか。
何時まで、はこの関係を続けてくれるのか。
何時まで、向井家では黙って見守ってくれるのか。
何時まで、俺はこの状態に耐えられるのか。
それはいつも自問を繰り返していた事。
その全ての解決が一度に来たと言ってもいい。
それもいい方向へ向かっての解決だ。
俺が法律上での夫と名乗れなくても、
子供の保護者として正式な父親になれなくても、
それでもいいと思えるほど、嬉しい。
だけど、人間は欲深な生き物だ。
この気持ちを忘れて、の全てを欲しいと思う日が来るのかもしれない。
奪う相手は俺の半身である龍介だ。
それがきっと、俺を踏みとどまらせると思う。
きっと龍介も同じ気持ちだろう。
婚約と言ったって口約束になる。
それでも社会的には拘束権を持っていて、
それを違えれば婚約不履行とか言う
犯罪になるのだと言うから、馬鹿に出来ない。
俺と龍介は幼馴染から恋人へ昇格して久しいが、
ついに婚約者と呼ばれる者になった。
「的にはフィアンセと言って欲しいそうだよ。
ま、僕は何でも良いと思うけどね。」
幸せそうな顔をして、龍介にやりと笑いが俺にそんなことを言う。
珍しくしまりのない緩んだ頬をしている。
いつもの冷い表情と視線は何処へやらだ。
龍介の友人や仕事の知り合いが見たら、別人かと思うかもしれない。
まあ、俺は時々ではあるが、龍介のこんな顔を見ているから驚かないけど。
本人は自覚がないだろうけれど、龍介はにだけは優しい顔をする。
そこのところは八方美人の俺とは絶対的に違うところだ。
あれは小学校の高学年になった頃からだと思う。
クラスの女の子たちが、男の子や恋やらに関心を持ち始めた頃。
俺と龍介はなんだかやたらと、女の子の視線を集めるようになった。
自分の容姿に自覚がなかった頃だったから、
その変化した女の子たちの態度を、いぶかしく思ったものだ。
その頃には、俺と龍介にとって既にだけが特別だった。
だから、男子が騒ぐような女の子でも他の子を、
自分のテリトリーになど入れる気もなかった。
だけど、クラスの人間関係は円滑な方がいい・・・そう判断した俺は、
龍介とを特別席に置き、区別や差別をしながら
その他の女の子を一緒に扱うと言う八方美人的な対応を取るようになった。
男友達とは普通に付き合ったけど。
中には『私だけを・・・』と望む子も出てきたけれど、決してそれを許さない。
だけが俺がそれを許す女の子。
何よりも優先し、誰よりも大事にする。
それは俺の周りにいる女の子たちの暗黙の了解になって行った。
それでもなお、俺に周りには女の子が寄って来た。
それでもいいならと俺もそれを許していた。
そんな俺とは違って、龍介は女の子には冷たかった。
以外はと言うことはもちろんだけど。
男には普通なんだけど、女の子には必要以上に話もしない。
同じクラスの女子でも1年間龍介と会話しなかった子だっていただろう。
事実龍介の噂の中にはそんなのもあったような気がする。
告白の呼び出しもラブレターも完全に無視。
沈黙で返す。
それでも私ならと考える子は後を絶たなかった。
以外は女の子に見えない。
龍介はまさにそれを実践していた。
ふと、龍介の持っている本に目が行った。
「何見てんの?」
「ん、これ。」
龍介が表紙を見せてくれた。
「『ランクアップのジュエリー』?
何でまたそんな婦人モノ見てんのさ。
今度の話の資料かなんか?」
龍介はその職業柄、俺たちが手にする事のないような雑誌や
本を見ていたりする。
話に宝石でも出てくるのなら、そういう本を資料としてみる事もありえる。
ただ『ダイヤの指輪』と書いたって、読者にはどんな指輪なのか伝わらない。
売っている宝石商やディティールなんかも詳しく書き込む必要がある。
こちらが出向かなければ見えないモノなら出かけるのだろうが、
手元に引き寄せられるものは、資料として集めたりする。
そのための本だろうと思った。
「違うさ、どんなのがに似合うかなって思って見てるんだ。
それに、が何処の宝石商のリングが欲しいと言っても
いいようにしときたいと思ってさ。
お店がどこか分からなきゃ話にならないじゃないか。
鷹は『ティファニー』や『カルティエ』が何処で買えるか知っているのか?」
「あ。」俺としたことが迂闊だった。
「そういう事。
婚約したのなら、婚約指輪って言うのを贈るのが普通だろう。
母さんが、いつものように合同で婚約ファミリーパーティをしようって計画中だし、
せっかくだからその場で渡してやりたいじゃん。
でどうする?」
「なにが?」
「リングを2本買うか、1本を共同で買うか。
鷹介はどちらがいい?」
龍介の質問に、俺は考えた。
婚約の許可がもらえた事に浮かれて、指輪の事などすっかり忘れていたのも
我ながら失笑だった。
よほどうれしかったと言う事で、勘弁してもらおうと思った。
その辺はこういう時冷静な龍介がうらやましく思う。
「俺が思うには、の好きにさせた方が良いと思う。
龍と俺と別々に2本欲しいと言うなら2本買えばいいし、
2人で1本で良いというのならそうすればいいと思う。
2人で1本の場合は、石が2個付いているデザインにでもすれば
問題ないと思うし。
まあ、石の数もの個人的な好みの問題だけどな。」
俺の言葉に、龍介がうんうんと頷いた。
「を連れて行って買うのも楽しいだろうけど、
やっぱりエンゲージは俺たちで選びたいだろ?
マリッジリングの方は、毎日つけるものだからの好きなものが
良いと思うけれど、エンゲージリングは俺たちの誓いだからな。
これなんかどうだ?」
龍介が開いて見せたページには、3石のダイヤが横並びにセッティングされた
綺麗なリングが掲載されていた。
ダイヤの形が違うタイプのものがある。
覗き込んでみると龍介が指を刺した。
「これがブリリアントカット、こっちがオーバルカット、これがスクエアだ。
ダイヤには違いないけれどカットの違いで随分感じが変わるだろ?」
さりげなく龍介が幾つものカットの名前を口にする。
「ん、のイメージだとこれかな。」
俺はその中で楕円形にカットされたダイヤが並ぶリングを指差した。
「おっ、奇遇だねぇ。
僕もそれが良いと思ったんだ。」
龍介が今この婦人向けの本を見ていたのは、まさにこのためだったのだと、
その笑顔を見て俺は感じた。
こいつは、こういう気付かない内に罠にはめるような事が得意だ。
俺が選んだように思わせているが、実は既に好みや嗜好をもとに
龍介が事前に選んでいるものなのだろう。
最初はそれが龍介の頭脳プレーのように感じて、嫌だった。
負けているような気がしたからかもしれない。
でも結局はそれを選んでしまう。
子供の頃は、敵対心からわざとそれを選ばずに避けていた事もある。
でも、物凄く後悔したんだよな・・・・悔しいくらいに。
だから、龍介の審美眼を認めることにした。
そうして初めて、俺が選んだものも龍介にとっては
お気に入りになっている事に気が付いた。
考えてみれば、一卵性双生児だし。
育った環境も同じなら、を愛している事も一緒だ。
好みが同じなのは当たり前なのかもしれない。
「で、サイズは分かっているの?」
「ん、おばさんに協力してもらって、調べは付いているんだ。」
龍介はそう言って、にやりと笑った。
何処までも用意周到な奴だ。
まあ仕事は速くて助かる。
「でもさ、マリッジリングは出来れば2本の方がいいな。
重ね着けできる様なデザインのものなら、
俺たちそれぞれがに贈ってもいいだろ。」
「あ〜、そう言えばそうだよね。
参考までに、見ておくか?
だけど、マリッジについてはの意見を尊重と言う事で。」
龍介からその本を貸してもらって見る。
お目当てのリングのページの端に、そのリングの値段が出ていた。
これの半額負担だよな・・・・・ダイヤって結構高いんだな。
そんなことを思った。
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2005.07.27up
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