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翌日。
親族会があり、そこで当主から俺たちが
次期当主としての話を受けたと報告がなされた。
当然、まだ正式におじさんたちの了解を得ていないので、
は顔を出す事は許されなかった。
でも 当主夫人の配慮で、襖の向こうで話を聞く事は許されたらしい。
俺たちも何かを発言するような事はなく、当主の紹介に頭を下げただけだった。
それでも、その場に居合わせた一同からは、拍手や歓迎の声をもらって
受け入れてもらえた事でほっとしたのだった。
もう一泊と引き止めてくださった当主に行為を断り、
俺たちは自宅へと帰ってきた。
両親はこの機にいつも実家でのんびり過ごすので、そのまま置いてきた。



俺たちが早くにこっちに戻ったのは、これからの事をと俺と龍介の3人で
ゆっくりと話し合いたいと思ったからだ。
がどんな話を当主夫人から聞かされているかも詳しい事は何も知らないし、
俺たちが聞いた話も話してやりたい。
女性の結婚適齢期が24歳からだとすれば、はあと4年。
どうなるか分からないのに俺たちと一緒にいるのは辛いに違いない。
男には分からない、女なりの夢とか理想もあるだろう。
何もかも捨てて俺や龍介と一緒にいて欲しいとも思うけれど、
それはあまりにもに対して非道なように感じる。
愛している女だからこそ、誰よりも幸せにしてやりたい。
それは、の笑顔を守る事なんだろうと思う。



こうして、結婚とか子供とかのことを含めて解決できる道が開けたのだ。
それに向けて何をしたらいいのか、何をするべきなのか、
は俺達にどうして欲しいのかを聞きたかった。
はいったん自宅に戻ってから、家にやって来た。
お出かけ用のワンピースを脱いで、普段着に着替えてきている。
両親が留守だからリビングのソファでお茶を飲む事にした。
龍介が1冊のノートを手にしてテーブルに置くと、
真新しいページを開いた。
龍介は何か大事な事を話す時、そうやってメモを取る事が多い。
小さい事を逃さずに書き留める。
そうやって、話がそれないようにしたり、要点をまとめたりするらしい。
メモした中には、そのときはそれほど重要に見えなかったことでも
後から大事な事になることも多いし、
それがヒントになって解決する事もあると言う。
「じゃ、今後僕たちがどうすればいいのかについて話し合おうか。
その前にが当主夫人からどんな話を聞いたのか聞こうかな。」
龍介がを見て話を促すように微笑んだ。
はそれに頷いて、手にしていた紅茶のカップをテーブルに置くと、
俺と龍介の顔を交互に見た。



「1週間くらい前の事なんだけど、お電話をいただいたの。
私と龍介と鷹介の事をご存知だったし、お名前が深山だと仰ったから
お話だけでも伺うと言う事で、お会いしたのね。
私のことを尋ねると言うよりも、自分と今の深山家の当主の双子との関係とか、
どうして双子が当主を継ぐのとか、そういうお話をして下さったの。
あの方は一族の中の家に生まれたから、当主には双子がなるとかも
自然に受け止めて行ったそうだけれど、
それでもその2人に自分が愛される事になるとは思わなかったって。
でもね、自分たちの愛を貫こうとすると、他に道はなかったって。
そう話して下さったの。
もし、私が龍介と鷹介の愛に応えていこうと思うのなら、
深山家一族はそれを全力で守って支えてくれるから、
不安に思うことなく嫁いで欲しいって。」
はそう言って、俺と龍介を見た。
「向こうで2人がプロポーズしてくれたでしょ?
私との未来を選んでくれるのなら、私もそれに応えたいと思う。」
差し出してくれた両手を、俺と龍介でそれぞれ片方ずつ握った。



「僕も鷹介も今すぐ大学を辞めても少しも困らないけれど、
まあそれを言っても反対されるだろうからね。
とりあえずは、向井のおじさんとおばさんにとの婚約を
申し込もうと思うんだ。
もちろん、ちゃんと訳も話してさ。
僕たち2人と同時に付き合うことは、多分一時的なものだろうと
思われていると思うんだ。
結局はどちらかを選んで行くだろうと思われているだろうし。」
「ん、そうだな。
俺自身もいずれそういう時が来るんじゃないかと考えていたよ。」
俺は龍介の言葉にそう言った。
「でもそうじゃなくなったんだ。
だったら、その目の前に開けた選択肢を選んだって良いと思う。
こうしてがイエスと言ってくれたんだ。
もしおじさんたちに反対されても、僕と鷹介がを守るから、
あきらめないで欲しいんだ。」
龍介の言葉に、が微笑んで頷いた。
「当主への報告もあることだし、おじさんには早めに言って
形だけでも婚約しよう。
、おじさんに時間を作ってもらって。
3人でお願いしよう・・・な。」
「うん、分かった。」
の返事に、俺も龍介も笑顔で頷いた。



俺と龍介との交際を許してくれていたから、頭ごなしに反対はされないと
思うけれど、それでもただ付き合うことと結婚は別だ。
それには一人娘だ。
俺と龍介の成長をを通して見てきたとは言え、
駄目かもしれないと考えたりもした。
でも、それでも、俺と龍介の愛を受け取って欲しい女性は、
しかいないんだ。
それなら頑張るしかない。
反対されて、には親を捨てるような真似をさせたくはない。
彼女から親を奪うような権利は、俺にも龍介にもないと思うから。
周りの人たちに祝福される方がいいに決まっている。
そう思っておじさん達との話し合いに臨んだ。



大人5人が黙ると、TVも音楽もない部屋には時計の時を刻む音だけが響いた。
おばさんにはが前もって話したらしいから、
おじさんよりは落ち着いて聞いてくれた。
なんと言っても、あの日俺たちの交際を直接援護する言葉をくれた人だ。
おじさんもそんなおばさんの言葉に、後押しされたようなところもあったし、
がおばさんを頼みにするのも分かる。
こういう時は、同性の親の方が理解があるのかもしれない。
それでも、今回は何も発言しないで黙っている。
おじさんの発言を待っていると言う感じだった。



「いつか・・・・いつかこんな日が来るとは思っていたよ。」
俯いていた顔を上げて、おじさんは搾り出すように言葉を放った。
「だけど、こんなに早くその日が来るとは思わなかった。
それに、こんな形を求められるとも・・・・。」
大きく息を吐き出した後、目の前の湯飲みからお茶を一口飲んで
何度か頷いている。
「龍介君と鷹介君がを大切にしてくれている事は、
私もちゃんと認識しているよ。
何事においてもを優先してくれているし、
いつも守ってくれている事も分かっている。
正直に言うと、が将来結婚するとしたら、2人の内のどちらかとだろうと
私は思っていた。
まあ、日本じゃ多夫一妻は認められていないからね。
ただ、こんな形での結婚の申し出を受けるとは思っていなくて、
どう返事をしたら良いかについては、ちょっと戸惑っている。
はこのまま2人と居る事を選びたいんだね?」
おじさんのへの問いかけは、既に確認の形を取っていた。



おじさんの問いかけに、は俺と龍介の間に座ったままにっこりと
父親に笑いかけた。
「もちろん、私はこのまま2人と一緒にいたいと思ってます。
確かに世の中では認められないかもしれない。
でも、それを許してくれる人たちと、支えてくれる人たちがいると言うのなら、
私も幸せになる努力を3人でしたい。
だから、どうしても許して欲しいの。
お願いします。」
が頭を下げたので、俺と龍介も一緒に下げた。
「今すぐにと言う訳じゃないんだろ?」
おじさんは苦笑しながら、ため息をついた。
「せめてもう少し娘との時間を残して欲しいんだが・・・・。」
確かに20歳で結婚するのは早いと思う。
「もちろんです、僕も鷹介も先ずは大学を卒業してからですし、
が卒業するのを待つつもりです。
ただ、婚約だけでもさせて下さい。
と鷹介が薦めてくれるので、僕が当主の座に就く事になると思います。
だから、世間的には僕との婚約結婚と言う事になりますが、事実は3人でです。」
龍介がそう補足してもう一度頭を下げる。



の幸せが私たち夫婦の何よりも望みだ。
そのが良いと言うのなら、許さないわけには行かないだろう。
こちらこそ、娘をよろしくお願いする。」
おじさんの言葉に、の頬に涙が流れた。
「お父さん、ありがとう。」
おばさんも泣きながら、頷いてくれた。
俺はを悲しませるような事にならなくて良かったと、心底思った。







※昇格。相手の陣地の最下段まで行き、ポーンを強くする事。将棋でいう成りですが、
チェスではポーンのみがクィーン・ルーク・ビショップ・ナイトの好きな駒に変化できます。






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2005.07.20up