Accept 5




もちろん、結婚するとお互いが承諾しただけで、すぐにと言うことじゃない。
俺たち3人はまだ学生だ。
当主の申し出を受けるにあたり、先ずはとの約束を
確かなものにしたかったに過ぎない。
夕食を当主やその夫人、双子の男性と共にしながら、
今後のことや明日の一族の集まりについて話を聞いた。



今後の流れとしては次の通りだ。
先ず、明日の一族の集まりで俺と龍介の当主継承について、
当主の口から正式な発表をされる。
同じ席でとの婚約も内定と言う形でだが、申し添えられる。
と法律上の結婚をするのは、当主として立つ俺か龍介のどちらかと
言うことだけれど、俺は自分で当主には向いていないと感じている。
龍介の方が適任だろう。
俺と龍介が大学を卒業したら、この町に住んで一族の当主となるべく
今までのことや深山家本家についても学ぶことになるらしい。
いくら田舎だとはいえ、こんなに大きな屋敷を維持し一族を束ねるのは
大変だろうと思った。
けれど、当主はそのままこの地にある深山神社の神主だ。
この屋敷はその宗教団体の物と言うことになっており、
税金も法人税として神社が払っているらしい。
それを本家の仕事として生活の基板としていると言うことだった。
深山家一族が深山神社の氏子として存在し、
本家イコール神社を中心にして栄えた一族と言うことらしい。



明日は内定と言う形の婚約発表だが、集まりが終わって家に帰ったら、
出来るだけ早くに正式な婚約をして欲しいと言うことだった。
まあ、3人で付き合うことに賛成をしてくれているけれども、
のご両親だって娘の行く末は心配していると思う。
世間的な体面を保ちつつ3人で結婚する形に、
何とか賛成してもらえるんじゃないかと考えた。
式は深山神社で行われるみたいだから、3人でと言うことも外には知られない。
一般的な披露宴は行われず、代わりに当主の継承式があり、
それが一族全体への正式な披露となるとのことだった。
それもすぐにじゃない。
当主の交代は別に決まってはいないとのことだったが、
世の中の流れとして定年の年齢・・・つまり65歳くらいでと聞いた。
その後は顧問のような形でサポートしてくれるらしい。
神社の神主としても同様だ。



その後、俺たち3人は今夜の寝室にとあてがわれた部屋に入った。
その来客用の離れには、温泉地らしく母屋とは別の湯殿があった。
庭の渡り廊下を渡らなければならないから、客の都合の良いように
小さいキッチンやトイレも完備されている。
洋風に言えばゲストハウスと言ったところだろう。
ひときわ広い和室に布団が3組並べて敷かれてあった。
「ねえ、これって・・・。」
がどこか戸惑ったような声で、俺達に確認をする。
「ん、そういうことなんだろうな。
深山本家では、僕たち3人を婚約者かそれに準じた関係を持っていると、
認めているから・・・・と言うことだろうな。」
軽いため息を吐きながら、龍介が頷いた。
「さっきも言われたけどさ、俺たちが3人での将来を望むなら
仕来りにのっとって当主になって家を継げってことだろ?
先ずはその第一歩ってことじゃねぇの。
俺はいいと思うけど。
当主には龍介が就いて、俺はそれを補佐するよ。
まあ、との正式な結婚は無理だけど、俺は当主の器じゃない。
でも例え紙の上では違っても、俺もと結婚するつもりだから。」
龍介にもにも言わなかったけれど、此処でならいいだろうと
俺の考えを口にした。



「僕は当主は鷹介でもいいと考えていたけどな。
鷹が言うほど僕との差はないと思う。
僕がなっても、鷹介がなっても変わらないよ。
どちらでもいいと思ってた。」
苦いコーヒーでも飲んだような顔をして、龍介がそう言った。
は?
はどう思ってるの?」
今まで当主の継承については何も言わなかったに話を向けた。
少なくとも俺や龍介よりも早くからこの話を聞かされていたようだし、
向き不向きと言う点でなら、の方が良く分かっていると思った。
「ん、私はね龍介の方が当主に向いていると思う。
鷹介が駄目だと言うのではなくて、より適任だと言うことで。
もちろん、鷹介が当主でも過不足なく務めることが出来ると思うよ。
でも龍介がやる気があるのなら、鷹介が補佐に回った方が
よりいい結果が得られるはず。」
俺の傍に立って、龍介を見る
俺はその腰を抱き寄せて、同じように龍介を見た。



「2人がそうやって僕を支えてくれると言うのなら、
僕が当主に就いてもいい。
こうしていつも3人でいられる為なら、多少の厄介ごとも引き受けるよ。」
龍介がそう言って、に手を差し伸べた。
その手を取るがそのまま龍介を引っ張る。
引き寄せた龍介の首に両腕を回して抱きつく格好の
その彼女の後ろから腰を抱き寄せる俺。
俺と龍介でを挟む格好になった。
「こうして3人で一緒にいられる道があってよかったよね。
今はいいけれど、いつかは龍介か鷹介のどちらかが私から
離れて行くんじゃないかと、思ってたの。
でも、それは仕方がないことだと、あきらめてた。
2人のどちらかを選べない私が悪いのに、龍介も鷹介もそれを許してくれてる。
本当に私でいいのかって不安になるけれど、でも・・・・」
龍介の肩に顔を埋めたのうなじにキスを落として、
「でも・・・なに?」と尋ねた。



「ん、でもね、私、龍介も鷹介も好きなの。
欲張りなんだ・・・・私。
2人とも放したくなくて、2人に愛されたいと願っているんだもの。」
そのの可愛い発言に、俺は龍介を見る。
龍も俺を見た。
その瞳は優しい色をしている。
普段の冷たくて切れるような眼光からは想像もつかない。
「さあ、疲れただろうからお風呂に入っておいで。」
そっと抱擁を解いてを促した。
「うん、そうする。」
名残惜しげに身体を放すと、旅行カバンから入浴に必要な道具を出して、
は湯殿に入って行った。



「龍はそれでいいのか?」
明日になれば当主の口から俺たちのことが公にされる。
が戻ってくれば、さすがに男同士の話はしづらいので、
俺は龍介の覚悟を聞いておこうと思った。
「あぁ、これしか道はないだろうな。
は自分のせいだって言ってたけれど、どうやら深山家の双子は
同じ女性を愛するように運命付けられているようだし、
事実僕たちだけじゃなくて、代々そうらしいみたいだし。
その双子の存在と愛される女性を保護して守って行くのは、
一族の繁栄のためらしいから、大事にされるんだろう。
だったら、それに甘えてもいいと思う。
まあ、ギブアンドテイクって言うことだろう。
鷹介はどうなんだ?」
龍介の気持ちを聞いて、俺の覚悟も決まった。
「ん、龍介がいいと思うのなら、俺に異存はないよ。
そういう判断は龍の方が優れているからな。
龍さえ良ければ、さっきも言ったように当主にはお前が就いてくれ。
俺は出来るだけ補佐するくらいが向いていると思うし。」
「そうか。」
そう返事をしたまま、龍介は沈黙した。



生まれてからずっと一緒に一番近くで育って来たんだ。
短い返事にどれだけの思いがこもっているかなんて、想像できる。
俺達にとって、今後の人生を決める大事な決断をしたんだなと、
龍介の真剣な横顔を見て改めてそれを感じた。
2人とも言葉を交わさずに、宙を見ている。
田舎のせいか、それともこの屋敷が広い為か知らないが、
温泉街の喧騒も此処までは届かない。
たまにのたてる湯殿の水音が聞こえて来るくらいだ。
静かな夜だ。



俺が友人と経営している会社までは此処から2時間半くらいかかる。
毎日の通勤は難しい。
だが、業種から言って何も都会の真ん中に会社を置く必要はない。
もちろん、一緒にやっている友人には話をしなければならないが、
会社自体をこの町に持ってきてもいいと思う。
むしろ、そうすることがいいように思えた。
龍介は自分さえいれば何処でも小説が書けるのだから、
この町への定住も仕事には関係ないだろう。
そういう点は都合のいい商売だ。
は卒業後の進路をどうするのか話してくれたことはないが、
先ほどの様子から言って色々と考えるだろう。
楽天家だと龍介は笑うけれど、その時が来ればなるようになるさ・・・と、
片付けておくことにした。
始まってもいないことを心配したってしょうがない。
計画性は必要なことだと思うけれど、取り越し苦労をするのは
俺の性分じゃない。
どちらかと言えば、そういうのは龍介の担当だ。



が風呂から上がってきた。
家族で入れるほど広かったと言うので、龍介と俺は一緒に使うことにする。
仲がいいから一緒に入るんじゃなくて、時間短縮のためだ。
此処にでも混ざれば、もっと違う目的になってしまうのだろうが、
居ないとなると淡々としたものになる。
男の兄弟なんてそんなものだ。
お互いが基本的なところでつながっていればいいと思っている。
とだってそうだ。
ただ、は女性だし俺と龍介の2人の愛や行為を1人で、
しかもあの華奢な身体で受け止めなければならないから、
大事に庇護している。
それも一つの愛情表現だと思うから。
旅先とは言え、本家に泊まっているのだから、
今夜は遠慮しなければならないだろうか?
一応、いつでも準備はしてあるけれど、どうかな・・・・・。
ある意味記念すべき夜だから、出来ればが欲しい。
と、ちょっと不謹慎な事を考えてしまった。



考えてみれば、若い未婚の男女を同室に泊めようとしているのだから、
当然その辺のことも認知していると考えてもいいだろう。
当代の当主家族は、意外と度量の広い人たちかもしれない。
そう考えて、俺は嬉しくなった。





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2005.05.25up