Accept 4




「後はと一緒に答えを探そうか。」
ふぅと息を吐き出して、龍介がこれ以上は俺たちでは無理だからと、
そんな表情をしてこちらを見た。
「ん、確かにな。」
俺も2・3度頷くと、そのままだったお茶をがぶ飲みした。
なんだか喉が渇いていた。
茶たくに湯飲みをもどして、あぐらをかいていた足を伸ばした。
そんな俺の耳に廊下をこちらへ歩いてくる誰かの足音が聞こえてきた。
板張りの廊下のきしみ具合から言って、あまり大柄な人物ではないらしい。
たてる音がなんだか可愛いような気がする。
愛しい者だけを見分けられると言う能力が備わるのは恋の不思議だ。
どんな人ごみの中でも愛する人の姿はすぐに見つけられるし、
声もすぐに耳に入って来てしまう。
だから、先ほど当主が言われたようにが此処に来ているのだとしたら、
この足音は彼女しかいないと思った。
俺と同様に龍介も廊下の足音に耳をそばだてている。



予想通り、廊下に現れたのはだった。
俺と龍介を見てその顔に笑みをたたえる彼女を見るのは、本当に嬉しい。
心の中が温かくなると言うか、ほっとして癒されると言うかそんな感じだ。
俺と龍介の傍に歩み寄ると、は真ん中に腰を下ろした。
「何時来たの?」
今朝、俺たちを見送ってからだろうけれど、尋ねずにはいられなかった。
「今日ねここに来ることは決まっていたの。
ご当主夫人にお話を聞かされていたし。
2人を見送ってから電車に乗って、降りてからは此処まではタクシーで。
ごめんね、2人には此処であうまでは黙っているように頼まれていたから
話せなかったの。
内容が内容だったし、私の方が覚悟が必要だからって・・・。」
申し訳なさそうに話すを、怒る気にはなれない。
確かにそうだろうと思った。
一族の出の女性なら知っていて当然のようなことだろうけれど、
はそうじゃないわけだし、俺たち以上に覚悟が必要なもの本当だ。
彼女の気持ち次第で俺たちの将来が決定されると言っても過言じゃない。
だからきっと当主もに事前に話しをしたのだと思う。
本当に次第なんだなと、改めて思った。



確かに、今後のことを考えれば、この話を受けた方がいいと思うし、
先ほどの話からも俺たちには他の道は選ぶことは許されてなさそうだ。
と龍介と俺の関係をこのまま続けていくことは難しいのだから。
もしここでがこの話を断ったりすれば、
俺たちは別れるしかなくなるのかもしれない。
いや、きっと一族総出で別れさせられるに決まっている。
それほどのことらしいことは、うすうす感じていた。
「で、どうするの?
は話を聞いてどうするか決めた?」
龍介がの手を取って、彼女の決めた方向を尋ねた。
「話を聞いたなら分かっていると思うけれど、
俺たちに他の道は選べないらしいから。
もしがこの話を受けないとなると・・・・・」
「私別れたくない。」
龍介の言葉を途中で切るように、はそう言い切った。



「正直に言えば、今のままの3人での付き合いが不安じゃないと言うと嘘になる。
だって、世の中の価値観から言えば、どうしても外れているし。
だからと言って、龍介と鷹介の2人の内どちらかを選べといわれると、
どうしても出来ないの。
だったら、この話は私たち3人の未来にとって、受けても損は無い話だと思う。
少なくとも私にとっては・・・・・。
それに、聞いた話では私が受けなかったら、別れるしかないらしいし。
それなら、龍介と鷹介と一緒にいられる道を選びたい。
2人が私との将来を選んでくれるのなら、一緒にいさせて。」
俺はの空いている手を握った。
決して強くは無い力だけれど、それでもきつく俺の手を握ってくるの手が
とても愛しく感じられた。
この手を放したくない・・・・そう思った。



片想いのままなら、ひょっとしたらあきらめられたかもしれない。
恋人として微笑んでくれるも、
その華奢な身体で俺と龍の愛を受け止めてくれるも知らなければ、
何とかなったかもしれない。
でも、もうそれは無理だ。
知らなかったことにも出来ないし、知る前にも戻れない。
そして、他の誰かを愛することも。
それこそへの気持ちは、自分で自覚する前から抱いていたんだ。
幼い頃から無意識で彼女を求めていた。
親から聞かされる昔話からもそれが分かる。
それは龍介も同様だろう。
そして何よりも、を他の男に渡したくない。



「まるでプロポーズだな。」
嬉しそうな笑顔で龍介が俺を見た。
「あぁ、本当だ。
からこんな熱烈なプロポーズを受けるとは思わなかったな。」
をからかうつもりでウィンクを飛ばしながら、俺も龍の意見に同意した。
「そっ・・・そんなつもりじゃないもん。」
頬を桜色に染めて、少し唇を尖らせて拗ねたような言葉で反論してくる。
そんなの頬を指先で2回ほど突っついてみる。
「いや、龍の言うとおりだと思うよ。
今のは誰が聞いてもプロポーズにしか聞こえないな。」
さらに困らせるように言うと「もう、知らない。」と、
俺たちの手を振り解いて背中を向けた。
龍介がそんなを抱き寄せる。
俺にからかわれて拗ねてしまうと、いつも龍介がそれをフォローする。
子供の頃からの定番だ。
だから、も大人しく龍介の腕に身を寄せて守ってもらうように身を縮める。
そんな彼女が見たくて、いつも怒らせてしまう。
まあ、も俺も本気じゃないから出来ることだ。



を腕に抱いたまま、龍介がそのこめかみにキスを落としてなだめる。
、冗談じゃなんかじゃなくて、僕と鷹介と一緒にいてくれないか?
今すぐじゃないけれど、僕たちが深山家の当主を継ぐとして、
3人でいることを許されるのなら、僕と鷹介はと一緒がいいんだ。
他の誰かじゃ嫌なんだ。
なあ、鷹介も同じ気持ちだろ?」
龍介のその呼びかけに「もちろん。」と、同意した。
とじゃなきゃ、俺にとってはどうでも良い事だからね。
多分、歴代の当主達もそうだったんじゃないの?
じゃなきゃ、こんな話受けないって・・・なぁ。」
俺はに手を差し出した。
龍介に抱かれてはいるものの視線は俺に向けてくれているから
それに応えたかった。
差し出してくれたの華奢な手を、自分の手の中に包み込む。
その手の甲に唇を寄せた。
龍介ももう片方の手に同じようにキスをする。



が欲しいんだ。」
と居たいんだ。」
「「結婚して欲しい。」」
おぉ、さすがに双子。綺麗にハモったな。
きっと内心じゃ龍介も感嘆の声を上げていたかもしれない。
いつものように茶化したい気分だったが、今は止めておいた。
多分、俺たち3人とって運命の分かれ道と言ってもいい場面だ。
こんなところでふざけたら、きっと龍介もも許してくれない。
いや、許してくれないどころか、一生このことを2人に
言われ続けなければならないだろう。
それはさすがに嫌だから・・・。
は俺と龍介の顔をかわるがわる交互に見た後、
嬉しそうに微笑んだ。
その微笑んだ顔は、いままでで一番綺麗に見えた。
言葉にしてくれなくても今の笑顔でどう思ったかなんて分かる。
とは生まれた時からの付き合いなんだから・・・・。



それでもちゃんと答えて欲しいから、そのままの言葉を待つ。
両手を俺たちに預けたままで龍介の腕の中からそっと離れて、
が俺たち2人の真ん中に座りなおす。
「龍介、鷹介、2人の愛に十分に応えられるとは思えないけれど、
私なりに受け止めて行けたらいいと思ってる。
私もどちらかを選べないほど、龍介も鷹介も愛している。
だから、その2人の気持ち謹んでお受けいたします。」
つないでいる手から、のわずかな震えや体温を感じて嬉しくなった。
俺の手を放して、は龍介に抱きついた。
2人の熱い抱擁とキスを見て、を俺だけの女性に出来ない寂しさと、
龍介と2人で愛してやれる満足感の両方を味わう。
これからも2人を見て、こういう気持ちを持ち続けることになるのだろう。
それはきっと龍介も同じだ。
それでも をあきらめるよりはずっといい。
分かち合う相手が龍介なら、許していけると思う。



龍介から離れたが、俺にも同じように抱きついてきた。
その華奢で細い身体を腕の中に抱きしめて、唇を重ねる。
同時に出来ないことは、こうして順番を待つか譲り合うことになる。
俺と龍介の間では、それこそ生まれた時から行われていたことだ。
だから 龍となら・・・と、思う。
が選べないと言うのなら、それを受け入れてやりたいと。
龍介も同じ考えだろう。
の濡れた唇を見ながら「愛している。」と、囁いた。





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2005.05.18up