Break through 3




中学のクラス会だから、クラスメイトに会うのも久しぶりなだけあって、
想像したよりも出席者が多かった。
それに、先生ともなかなか会えないからだろう。
とにかく生徒に慕われた先生だったから。
会を主催してくれた友人が、簡単に司会を勤める中、
先生への記念品や花束の贈呈が行われ、穏やかな雰囲気で会は進行していく。
先生からの返礼の挨拶が終わって、いよいよ無礼講になった。



ちゃん、久しぶりだね。」
隣に立っていた子が話しかけて来た。
「うん、本当だよね。
高校のクラス会は成人式とかにやるけれど、中学のってあまりないから。」
乾杯用に持っていたウーロン茶のグラスに口を付ける。
龍介からくれぐれもお酒は飲まないようにと言われている事もある。
それ以前に2人の前以外ではお酒は禁じられているのだ。
女の子は飲めないと言えば、あまり強制されることは少ないから
こういうときは助かる。
「さっきここに入るときに見たんだけど、相変わらず深山兄弟が一緒なんだね。
中学の頃も登校も下校も一緒だったでしょ。
もうがっちりと両脇固めているから、話しかけもできないって
男子がこぼしてたの聞いたことがあるもん。
今もって事は、彼氏なんかいないんでしょ?」
彼女は意地が悪いわけじゃないけれど、言葉がストレートな分ちょっと困る時がある。
なんて応えようかな・・・・そう考えた。



「まあ、あんな良い男2人に囲まれていたら、他の男なんて良いと思わないかもね。
凄い大事にされてるみたいに見えたし。
私だったら、鷹様の方が好みだけどな。」
そんなことを言いながら、彼女の目は男子のグループに注がれている。
「ごめん、あそこ行ってみるわ。」
彼女がそう断って私から離れて行くのを、ほっとして見送った。
龍介と鷹介が人気があるのは知っているけれど、
その分大事にされている私への風当たりは強い。
嫌がらせとかはされてないけれど、女の子に慕われているという感じは
残念ながら中学ではなかった。
高校へ入学して、春野美雪ちゃんと言う親友が出来るまでは、
私には通り一遍の友人しかいなかった。
だから今日のクラス会も二次会へは誘われないだろうと思うし、行くつもりもない。
此処が終われば真っ直ぐに、部屋で待っていてくれる2人の元へ行くつもりだ。



それほど親密だった友人も居ないので、少々手持ち無沙汰だ。
仲間はずれなどにされることはないけれど、何処にも居場所がないような感じ。
会話の中に入っているけれど、決して中心になるようなことはない。
会場からそっと出てしまえばきっと誰にも気付かれないで、
龍介たちのいる部屋に行けるかも知れない。
先生への挨拶も先ほど済ませたし、今日の目的は果たした。
オードブルを取るような振りで、会場の隅っこに向けて歩く、
新しい飲み物用のテーブルには、ちゃんとグラスを返却するお盆もあったから、
そこにグラスを置いて出口へ向かった。
少し重い扉を押して廊下に出ると、後でゆっくりと扉が閉まった。
中の喧騒が遠くになって、なんだかほっとした。



ラッキーなことに廊下には、誰も居なかった。
そのままその場を離れて、エレベーターに乗って一度ロビーに降りた。
化粧室に入って、身なりと口紅だけを整える。
そこから、宴会ホール用のエレベーターとは違う客室用のものに乗り換えた。
チェックインした龍介に部屋番号は聞いておいたので、その階のボタンを押した。
高級ホテルだけあって、エレベーターも静かで早い。
誰も一緒に乗り合わせなかったので、すぐに目的の階に着いた。
目的の部屋へと足を運ぶ。
チャイムを押してスコープの窓が暗くなってからドアが開いた。
、どうした?
いくらなんでもまだ終わってないだろ、何かあったのか?」
出迎えてくれた鷹介が心配そうに尋ねてくれた。



「ううん、何もないよ。
会はまだ続いているけれど、出てきちゃった。」
「俺たちのことなら気にしなくていいから、行っておいで。
せっかくのクラス会なんだろ?
それにせっかく龍が着物買ってくれたんだし・・・・」
「鷹介。」
会場に戻った方が良いと言ってくれた鷹介を、横から龍介が止める。
が満足したって言うのなら、それでいいじゃないか。
何も無理に会場に戻す必要なんてないさ。
高校ならどうか分からないけれど、中学のクラス会だからな。
には僕たちと居た方が、楽しいって事もあるだろ。」
「そうなのか?」
龍介の言葉に鷹介は首を傾けて尋ねた。
「うん、龍介の言う通りなの。
2人ともお昼ごはんは食べた?
会場ではちゃんと食べれなかったから、どこか食べに行かない?」
「うん、ご飯まだだったから、ちょうど良かったよ。」
龍介が上着に袖を通しながら、出口へと向かった。



「もちろん俺だって食べるさ。」
私と龍介の後を追って、鷹介も部屋から出てきた。
は何を食べたい?
ホテルのレストランにいい所がなければ、外に出ても良いよ。」
龍介が腕を出しながら、笑顔で尋ねてくれた。
「確か、此処って結構入ってたよね。
ホテルの中で済ませられるのなら、その方が良いな。」
「ん、とりあえずは、出席者に出くわさない為にも上に行こうか?」
龍介はそう言って、エレベータのスイッチを階上のレストランの階を押した。
「お洒落して食事をするのって、久々だね。」
「俺はお洒落してなくてもとなら楽しいぞ。
あぁ、だからと言ってお洒落するのが嫌って訳じゃないけど。
は何を着ても可愛いからって・・・・言いたいだけ。」
鷹介がなんだか拗ねたように言うのがおかしい。
龍介と視線を合わせて、クスクス笑った。



「ねえ、鷹介。
今日は何をそんなに拗ねているの?
今日の鷹介はなんだかいつもと違うよ。」
龍介から離れて、鷹介の腕を取りながら覗き込んで尋ねてみた。
「ねえ、教えて。」
「言わない。」
「どうして? 何も言ってくれなきゃ、鷹介の気持ちわかんないよ。
怒ってはいないけれど、何かが面白くないんでしょ?
何か拗ねてるんだよね。」
私の手の中にある腕をちょっと揺さぶると、鷹介が渋い顔で私を見る。
「今日の・・・今日の、本当に可愛いよ。
だけどさ、その着物って龍が気を利かせて買ってあげたものだろ?
そこまでその着物が似合うのはさ、ちょっと面白くないって思ってるだけ。」
その可愛い内容の答えに、龍介を見ると噴出さないためだろう、
手で口元を押さえている。
私の視線での問いかけに、首を縦に振って頷いてくれた。



「どうしたら直るの?」
機嫌が悪い原因が分かったけれど、どうすればその鷹介の気持ちが
晴れるのかが分からない。
でも 私のその言葉を待っていたのか、鷹介の反応は早かった。
「じゃあさ、俺にも何か買わせて。
の欲しい物でいいから。
ドレスでもスーツでも、それこそ着物でもいいからさ。
それで、その買ったものを着てデートして。」
その要求を聞いて、とうとう我慢しきれずに龍介が声を出して笑った。
「龍、笑うなよ。」
「くくっ、ごめんごめん。
、鷹の言う事も分かるから、そうしてやって。」
駄々をこねる子供に折れてやるといった物言いに、鷹介の顔はまた渋くなる。
「ちぇ、兄貴ずらするんじゃないよ。
双子なんだから、戸籍上の問題だけなんだからな。」
鷹介のそんな抗議に、龍介は笑いながら頷いた。



「なあ、良いだろ?
龍の買ったものでそんなに可愛くなったんじゃ、俺面白くないんだよ。」
その一言で、鷹介の言いたいことが分かる。
、鷹はがうんって言わなきゃ、機嫌直さないよ。
こいつ、小さい時からそうだから。」
もう龍介は私たちを見ないように背を向けてしまっていた。
必死に笑いを堪えているらしい。
「龍はどうでもいいからさ。
はちゃんと俺に返事して。」
鷹介は、龍介の態度は気に食わないらしいけれど、
今は気にしないことにしたらしく、無視している。
私だって、龍介ほどじゃなくても鷹介のことは理解している。
彼は自分の要求が正当なものだと思うと、引き下げるようなことはしない。
自分のもてる全ての力を使って、それを通そうとする。



エレベータの箱の壁に肘を着いて、私ににじり寄ってくると、
答えを促すようにもう一方の手を私の頬に寄せて、そっと優しく撫でた。
その口調とは違う繊細な動きに、鷹介の気持ちが出ているような気がした。
微妙なバランスで成り立っているトライアングルだから、
鷹介は自分と龍介の力配分に気を使っているのだと思う。
でも私の中では2人は同列だから、前後にはなり得ないのだけれど、
その辺を分かってもらうには、難しい。
「うん、分かった。
じゃあ、お言葉に甘えて何かおねだりするね。」と、返事をした。
「ん、ありがと。」
鷹介は答えに満足してくれたらしく、笑顔になって頬にキスを落としてくれた。
龍介は何とか笑いを収めて、普段どおりの涼しい顔をしていたけれど、
その様子を見て、笑って頷いてくれた。



何とか鷹介の機嫌も直って、和食の昼食は和やかなものになった。





2005.03.29UP
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