Break through 4 食事が終わってひと心地して、私たちは席を立った。 「、時間どう?」 言われて差し出された鷹介の腕時計に目をやって、 あまり良くない時間だと思い首を横に振った。 「駄目、多分お開きになる頃だと思う。 このままチェックアウトしたら、確実にロビーで誰かに見られちゃう。 二次会へ流れる人たちに会いそう、もう少し時間をずらしてから出ないと。」 そのまま差し出してくれた鷹介の手に、つながれてそう言う。 「じゃあ、少し部屋で休んでから出ようか。 どちらにしても僕も鷹介もお昼にご酒を頂いたからね。 少し運転できないし。」 龍介の言葉に、私は頷いて同意した。 階下の2人が取ってた部屋は、ジュニアスィートのダブル。 どう見てもベッドが正方形のように見える。 つまりは、幅が広い。 鷹介はさっそく、上着を脱いで椅子にかけた。 それを手にとって、クローゼットのハンガーにかける。 「僕のも良い?」 そう言って差し出された龍介のも同じようにしておく。 2人は靴も脱いでいる。 「も草履は脱ぎな。」 「うん。」薦められるままに、草履を脱ぐと室内用のスリッパに履き替えた。 2人はベッドに仰向けに寝転がっているので、 私はベッド横の大きめのソファに腰掛けた。 上を向いていた鷹介が、寝返りを打って横向きになると私の方を見た。 にっこり笑って差し出した手に、私も笑顔で答えて手を重ねる。 「完璧、俺の嫉妬だよな。 俺、別に龍が着物をに買ったことは、悔しいけどいいなぁって思ってんだ。 その着物がさ、またを一層可愛く見せてさ。 俺、今日おかしいくらいから目が放せないもん。 そんな嫉妬なんかする必要のないくらい、は俺のことも ちゃんと好きだって分かってる。 そんなくだらない馬鹿な思いは捨てるから、 だから 俺にもを可愛くする何かを買わせて。 何でもいいよ、の欲しいもの買ってあげる。」 横になっているからか、少し声がかすれていてなんだか色っぽい。 それに意地っ張りの鷹介が、素直にそんなことを言うのは珍しい。 身体も大きくて男の人だけれど、可愛いなんて思ってしまう。 つないでいた手が引かれて、私はそのままベッドに引き寄せられて、 鷹介の傍に腰を下ろした。 鷹介が両手を腰に回して、子供のように抱きついてきた。 その頭を優しく撫でながら、「ありがとう。」と答えた。 いつの間にか龍介が私の隣に座った。 肩を抱いて額にキスをしてくれる。 そのキスが場所を瞼に、目尻に、頬に、鼻に移して、最終目的地だと言わんばかりに 唇に辿り着くと、波のように何度も寄せてくる。 「僕のプレゼントした着物を着ている可愛いが欲しい。 鷹もそう思っているから・・・・いい?」 拒否する言葉を言わせないように、キスですぐに塞ぐくせに、 龍介の言葉はいつも優しい。 このままいつものようになると、着物がしわになることは目に見えている。 だから、唇が少しだけ離れた隙間を逃さずに、それを告げた。 「あぁ、そうだね。 じゃあ自分で脱いで。」 その龍介の言葉に、腰に回されていた鷹介の手も解かれた。 何時になく、私の要求がすんなり通った。 いつもだったら抗議の声を上げるか、なし崩しにしようとするのに。 珍しいけれど、嬉しかった。 着物を大事にしたいという私の気持ちを汲んでくれたんだなって思った。 でも、それは帯を解く為に帯締めを外し、帯揚げをたたんだ所までだった。 帯枕の紐に手をかけてふと視線を上げると、龍介も鷹介もこちらを見ていた。 2人ともベッドの上でリラックスしているけれど、 視線はきっちりとこちらに向けている。 「、早く。 俺、待ちきれないよ。」 鷹介に急かされて頷くと、帯枕を外した。 固定されていたものが全てなくなったので、帯が緩んでスルスルと身体から落ちた。 それを拾い上げて、横にある椅子の背にかける。 2人の視線を気にし出したら、なんだか脱ぎにくくなった。 「ねえ、あっち向いて。」 「「だめ。」」 同時に即答で返された。 大きく息を吐き出して、しかたなく2人に背を向けた。 せめて、前を向かないでおこう。 伊達締めを外して、腰紐に手をかける。 着物を肩から滑らせて袖を抜くと、軽く袖たたみにして帯の上に重ねた。 背中越しにほぅ〜っと、2人の漏らす息が聞こえた。 「なに? 何か変?」 「ん? 色っぽいなって思ってさ。 長襦袢だっけ、それってなんか色っぽいよ。 やっぱり下着だからかな・・・・スリップ姿って事だから。」 もっと恥ずかしい姿を見られているのに、これ以上はなんだか脱ぎにくい。 どうしようかと、長襦袢にしめている2本目の伊達締めの上で手が止まる。 俯いたままの私に「、その下には何を着ているの?」と、龍介が尋ねた。 「えっ、後は肌襦袢とお腰と下着だけど・・・・。 それが何か?」 肌襦袢とお腰があるので、昔の人は下着は着けなかった。 絹の薄い着物では、どうしても下着の線が出る。 上のはそう出ることはないが、着けない方がいいことは知られている。 だから、私もブラはいつも着けない。 さすがに下は心もとないので、Tバックを着けている。 これなら、下着の線が出ることはないからだ。 「じゃあさ、中のものを脱いでその長襦袢だけになってよ。 それなら恥ずかしくないだろ?」 龍介の言葉に、なんだか救われたような気がして頷いた。 長襦袢を脱ぐことなくそれを肩からかけたままで、中に着けているものを脱いだ。 妓楼の遊女たちはこんな格好をしているのを、何かで見たのを思い出した。 お座敷でお客をもてなす時には、綺麗に着飾るものの、 その後の床入りでは下着姿で相手をする。 その時の下着姿が長襦袢に似ているのだ。 紐は外したまま、伊達締めだけで襦袢を軽く締める。 ドアのそばにある姿見まで行って、結っていた髪に手をやり バレッタを外して、髪をほどいた。 振り返れば、4つの目がじっとこちらを見つめている。 「綺麗だな。」 「ん、まさしく花だな。」 それは私への褒め言葉として言った様には聞こえなかった。 まるで映画や絵画を見た感想のように、あふれ出たように聞こえた。 「本当に?」 そう言って両手を差し出せば、それぞれがその手を取ってくれる。 恥ずかしいけれど、幸せな瞬間。 広いベッドの上に3人で横たわる。 さっき龍介とはキスをしたからと、鷹介の方を向いた。 啄ばむようなキスが何度かされると、すぐにそれは深くなる。 「ごめん、俺、今日は余裕ない。」 そう懺悔のような告白をすると、襟のあわせを両側に引っ張って 胸元をグイッと開いた。 下には何も着けていないから、素肌がさらされて胸がこぼれ出る。 片方を手で、もう片方に口を寄せて鷹介が愛撫を始めた。 背中をぞくぞくとした感覚が駆け上がる。 「まったく。」 背中から龍介のため息交じりの声が聞こえた。 その声に顔を後へ向けると、身体を少し起こした龍介に唇を奪われた。 同時にお尻に龍介の両手を感じる。 絹の布の上から触られて気持ち良い。 唇が離れると、その手が足を辿って下に動く。 足にまとわり付いていた絹が、ふわりと捲くられた。 そして直接に龍介の手の感触を肌に感じる。 優しく、でも官能的に動いて、段々と上に上がってくる。 胸をぐっとつかまれて、思わず喉からの声が漏れた。 「ごめん、痛かったか?」 少し痺れたような感じはしたものの痛いほどではなかった。 「ん、大丈夫。」 そう言って少し微笑んだら、胸から顔をあげた鷹介がまたキスをしてくる。 胸には両手が置かれて、やわやわと力を入れながら愛撫は続けられる。 足を上に辿る龍介の手は休むことなく、その手で足がさらされて、 段々と身体から襦袢が離れていく。 「えっ。」と、後から龍介の声。 「ん、なんだよ。」と、鷹介がそれに応えた。 「これ。」 2人の視線が私の腰の辺りに行っているのを感じて、私も一緒にそこを見た。 「、いつも着物の時にはこんなのはくの?」 龍介がレースのリボンのようになっているウェストのゴムのところに、 指をかけてその下の肌を撫でながら尋ねた。 「う、うん。下着の線が出ないからね。」 「「ふーん。」」 なぜか2人して納得したような、してないような、あいまいな返事。 「俺もやっぱり着物買うよ。 で、こうしてデートしてもらおう・・・・な、龍。」 「賛成だな。」 腰骨の辺りにあった龍介の手が、レースのリボンを辿って前に回る。 小さい三角の一辺を通り道にして、私の視界から消えた。 同時に敏感な部分に優しいけれど的確な刺激がもたらされる。 「あっ。」と、思わず声を上げた。 「そんな可愛い反応ずるいな。」 鷹介が龍介の手によってもたらされた声だとわかって、 喉の奥でクスッと笑った。 「、俺のためにも可愛い声で啼いて。」 鷹介がそう言って、敏感になっている胸の頂を口に含んだ。 別に鷹介が龍介に本気で張り合っているのだとか、嫉妬しているとは思わない。 だけど、そういう心の揺らぎは、恋のスパイスになることを 2人は知っていて、わざと私を挟んでお互いを煽り合う。 それはベッドの中でも同じこと。 2人からの愛撫が始まれば、もう何も言葉をつむぐことが出来ない。 そうして、2人の鞘当の真ん中で、私はいつも翻弄されてしまうのだ。 でもそれは私が選んだ愛され方。 だから、流されるまま、感じるままに、2人に愛される。 襲ってきた最初の波に、私の瞼の裏は白い世界に包まれた。 |