Sweethearts are twins 1





世の中、もてる男ももてる女も五万といると思う。
それをうまく利用している人もそうでない人も。
けれども本人が望むと望まずにかかわらず、人目を惹いてしまう。
それだけは、どうしようもないことだ。
そして、もし同じだけの頭とお金と地位を持っている男がいたとしたら、
女性なら皆誰でも良い男の方を彼氏にしたいと思うだろう。
そうでなくとも、ハンサムで長身で痩身な男だったら、
引く手あまたなのは間違いない。
だって、結婚詐欺師なんて職業があるくらいなのだ。
格好の良い男とは、それほどに女性の憧れだ。



龍介と鷹介の双子とは、文字通り生まれたときからの付き合いだ。
2週間ほどの誕生日の違いから学年こそは違うものの、
私にとっては両親よりも近い存在。
いつも 2人に守られ、
いつも 2人に支えられ、
いつも 2人に導かれている。
だから、食事を一緒に取るなんて事は、もう生活の一部で当たり前のこと。
むしろ今更隠したら、何を言われるか分からないほどに
全てを見せてしまっている。
私よりも私のことを知っているかもしれない2人なのだ。



よく友達に聞かれた。
「ねえ、龍介君と鷹介君とどちらが本命?」って。
いつ聞かれても何度聞かれても、いつもちゃんとした答えを
返すことが出来なかった。
私の中では自分でも不思議なほどに、2人は同じ重さだった。
それは、小学校を出ても中学校を出ても変わらなかった。
2人を同じ思いで見ていることに気づいていたけれど、
何か変化を起せば3人の関係が壊れてしまいそうで、
何もできずに何も言えずに居るしかなかった。
そのうちに2人に彼女が出来て、ただの幼なじみの私よりも
大事な人が出来れば、離れて行ってしまうに違いない。
だからそれまでは・・・・・。
そう思いながら、2人に甘えて守られていた。
そのままで居られるはずが無いことはちゃんと承知していた。



2人が選んだ人がどんな人でもちゃんと祝福しようと思っていたのに、
鷹介は不特定多数の女の子を取り巻きにしていた。
彼女たちに言わせれば、『鷹介は絶対に一人には絞らない。』
と言うことだった。
誰かと個人的なデートをするようなこともなかったし、
独占欲を見せる子は見向きもしなかった。
一方の龍介は、とにかく冷たいと評判だった。
用も無いのに話しかければ、無言で返される。
女の子は私以外誰も寄せ付けようとしない。
告白も呼び出しも応じるどころか全て無視。
そんな対照的な2人だけれど、2人とも私にとっては大切な人。



2人が同時に申し込んでくれて、どちらかを選んで欲しいと言ってくれたけど、
2人とも選べない私には、断るしか道がなかった。
もう2度と3人での楽しい日々には戻れない。
そう告げた時の胸が張り裂けそうな気持ちは、今でも忘れることは出来ない。



友達を見ていたら分かることだけれど、普通恋人と言うものは男女1人づつの
カップルを指して言う言葉である。
男が2人に女が1人と言うのは、恋人同士とかカップルとかとは言わない。
どちらかとの関係が正とするならば、もう一方は負になる。
本命とキープ。
相手が2人いる場合は、そんな風に言われたりする。
そんなこと無いのに・・・・と、口にしたって認めてもらえないのは、
小学校のうちに分かった。

私の想いは人と同じじゃない。

だけど、龍介と鷹介を好きなことは止めようが無い。
2人を同じだけ好きで、同じだけ愛しているのはいけないことなのだろうか?
私も双子だったら良かったのにと、何度思って枕を濡らしたことだろう。
2人のうちのどちらかを選べないなら、どちらも選ばない。
私の出した答えはそれだった。



でも、2人はそんな私を許してくれた。
そして2人で愛してくれると言ってくれた。
変則的な愛だけれど、私は生まれたときから2人が好きだから、
これが私の普通だ。
高校3年になる年の春。
龍介と鷹介が大学合格のお祝いにおじさんたちやパパやママに願ってくれたものは、
私との交際を許して欲しいということ。
2人してT大にW合格していて、何でも欲しいものや願いを言えるチャンスなのに、
2人の分を足して願ってくれたことがそれだったことに、
私は本当にうれしく思った。



そうして、両家の両親と龍介と鷹介に守られていれば、
他の人にどんなことを言われても怖くないと思った。



あれは、5月の連休の少し前のこと。
「頂きモノだが、良かったら3人で行きなさい。」
パパが差し出して私に受け取らせたのは、貸し別荘のレンタル予約券だった。
「会社のお歳暮にもらったものだが、誰も行かないからと
キャンセルされるところだったんだ。
自炊しなければならないから、ちょっと大変かもしれないが、
は料理が得意だし龍介君も鷹介君も免許を持っているだろう。
だったら、買出しや向こうでの観光も楽なはずだ。」
「でもパパ・・・・。」
チケットには2泊3日と書いてある。
女の子の親、それも男親が娘に男と一緒に行っておいでと、
渡すようなものには見えない。
まして龍介も鷹介も若い男の子なのだから、普通は止めるもんじゃないの?
私の方が、パパやママに嘘をついてアリバイを作って出かけるとか、
そういう感じの旅行の内容のような気がした。



私が言いよどんでいるのを察してくれたのか、
「その・・・なんだ、パパだって若いときにはママに嘘をつかせて、旅行に行ったさ。
でもママは何処かで寂しそうだったし、罪悪感がなかったと言ったら嘘になる。
にはそんな思いはさせたくない。
私が言わなくても、龍介君も鷹介君もいずれ言ってくるだろうが・・・・。
それにのことで、彼らは合格祝い何も無かったと聞いてるからね。
まあその埋め合わせだと言っておいて欲しい。」
パパはそう言って、ちょっと申し訳なさそうに笑った。
「パパ、ありがとう。
龍介も鷹介もきっと喜んで行くと思う。」
そう言ってパパを見ると、ちょっと複雑そうな顔をしていた。
でも それには気づかない振りをした。
パパの望む清らかでお堅い娘でいてあげたいという気持ちが、
無いわけじゃないけれど、やっぱり龍介や鷹介と旅行に行くと言う話しは、
魅力的だったから。
2人だって、きっと喜ぶに違いない。



パパたちの許可をもらった夜。
3人で喜びのキスを交わした後、龍介は「当分は大人しくしてなきゃ駄目だぞ。」と、
私と鷹介に念を押した。
せっかく許してもらえたのに、それを撤回させるような行動をするなと言うことらしい。
だから、春休みはデートをしても美術館とか遊園地とかショッピングとか、
明るく健康的なデートに徹した。



私だって高校3年生だ。
付き合っている男女が一緒に旅行に行って何をするのか位の知識はある。
同じクラスの友人たちの交際から見たら、キスしかしていない私たちの交際なんて、
中学生よりも遅れていると言われてしまうだろう。
でもそれが、龍介と鷹介の思う何らかの考えのもとに、
先へは進んでいないことはなんとなく分かっていた。
時期を待っているのか、誰かの言葉や許しを待っているのか、
ひょっとして私が何か言ったり行動を起すのを待っているのかな?
それは分からなかった。
でもきっと一緒に旅行に言ったら、そういうことになるだろうな・・・と、予測できた。
うん、龍介たちだって考えないなんて言ったら嘘だと思うから。



親友の春野美雪ちゃんにだけは、3人の関係を話していた。
1年もの間、誰にも打ち明け話をしないでいるには、あまりにも私と美雪ちゃんは
親密に毎日を過ごしていたから。
それに彼女も人には言えないような秘密めいた思いを胸に抱えていて、
やっぱり誰かに聞いてもらいたかったんだと思う。
普通の秘密とは違い、私たちのはちょっと規格外の特殊な奴だ。
だから、その話をするときは他の友達がいないときと、決めていた。



その美雪ちゃんと2人で、女の子の買い物に出た。
やっぱり気になるのは下着だよね。
それから肌のお手入れの為のエトセトラ。
美雪ちゃんは春野コンツェルンのお嬢様だから、
お小遣いには不自由していないけど、それでも 浪費癖は無い。
ちゃんと普通の感覚を持っている。
だから一緒にいても大丈夫。
安心して買い物を相談できる。



可愛い名前に惹かれて買ったのは、上下お揃いのブラとショーツ。
2泊だけど、3組も買っちゃった。
「恋する」とか「天使の」なんて、なんだかいいよね。
白を基調にして淡い色のレースをちりばめた下着は、女の子の憧れだもん。
「左近君が言ってたけど、下着に凝るのは倦怠期が来たときで十分なんだって。
素材がいいうちは、何を着けててもそそるって言ってたよ。
でもさ、やっぱり可愛いの着たいよね〜。」
語っている内容はちょっと・・・・だけど、
それは美雪ちゃんが左近さんの男手で育てられたせいだ。
笑顔の美雪ちゃんは、本当に可愛い。
その左近さんと言うのが彼女の意中の人なんだけど、複雑な関係なので
どんなに好きでも口にすることは出来ないって言っている。
美雪ちゃんが幸せになるのなら、友達として協力や努力は惜しまないつもり。
だって、本当に大事な友達だから。



「とにかく、龍様と鷹様が気に入ってくれるといいね。」
語尾にハートマークが付いていそうな雰囲気で、美雪ちゃんが言う。

龍介と鷹介は、卒業したとはいえ伝説になるほど校内では有名人だった。
近隣の高校でも結構噂になっていたらしい。
そんなわけで、2人を龍様・鷹様と呼ぶ女性とは多い。
呼び捨てにしている女の子は私くらいだろう。
それほどに、神々しく扱われていたのだ。



その2人と夜を過ごすって、どんな夜になるんだろう。
私には想像が出来なかった。





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