dear child 7





告白した時よりも返事をするのに時間はかかるだろうと思った。
前の時はこれと言って何もなかったのだから、簡単だったろう。
しかし今度はそういうわけには行かない。
もうすぐ僕と鷹介は17歳になる。
もすぐに追いつく。
そんな年の男女が交際して、何も無いと思うのはよほど遅れていると言われる奴くらいだ。
告白してから半年が過ぎている。
それでも 心と身体の中にしまってある熱は一向に冷めない。
それどころか段々と深く熱くなっているような気さえする。
本物だ。
そう 一時的な熱病の症状では無い。
一生モノの病だろう。
それはむしろ自分が望むことでもある。



1月は去り、2月は逃げて行くと世間じゃ噂する。
そして3月も去ろうとしているように日々は過ぎていくと・・・・。
例年なら毎日が飛ぶように過ぎていくはずだ。
新年を迎えてから自分たちの誕生日までは、恐ろしく早いような気がするのに
今年は毎日がスローペースで過ぎていくように感じていた。
は表面上は変わりなく僕と鷹介に接してくれている。
告白を断ってからの方がむしろ硬かったかもしれない。
後ろめたかったんだろうな。
だとすれば、があの提案を受け入れるかどうかは別として、
今の状態は少なくとも僕達3人は相思相愛と言うことになるわけだし、
僕と鷹介の手によって甘やかされる事もそれほど違和感が無いはずだ。
だから、僕と鷹介は普段どおりにに接した。
いつものように 僕と鷹介がの勉強も手伝った。
もバレンタインは去年と同じようにチョコレートケーキを焼いてくれた。
可愛い笑顔もちゃんと付いていた。
僕と鷹介からもホワイトデーには、お礼のプレゼントを返した。
大人たちから見れば、きっと喧嘩していたのが仲直りしたように見えているだろう。
本当はこれからが本番だと言うのに・・・・。



母親の食べ過ぎのせいでよりも早くこの世に出た僕たちだけれど、
それを今更責めても仕方が無い。
誕生日は少しだけ離れているけれども、
両家では3人の誕生会を例年春休みの内に一緒に行っていた。
どうせ呼んで呼ばれるのなら、ケーキも飾りつけも1度の方がいい。
会場は1年おきに交代で、料理などは母親2人が協力してといった具合だ。
子供は食事が済んでケーキを食べれば、プレゼントをもらい子供部屋に
引き上げて、ゲームやおもちゃに夢中になる。
大人はそれからが本番とばかりに、酒宴を楽しむのが通例だ。
おもちゃやゲームに夢中だったのは、本当に小学生の頃までだ。
中学に入った頃から、が僕や鷹介の部屋に来てくれることに
なんだか優越感みたいなものを感じるようになって行った。
は背は中くらいで目立たないけど、顔は綺麗系で目を惹く。
そしてその笑顔は、本当にふわっと優しくて可愛い。
男なら、その笑顔の先に居たいと思わない奴は居ないだろう。
特別な目で見て、鼻先が当たるほど近くでその綺麗な瞳の中に
自分だけを映したいと願うと思う。
そんな女の子になっていた。



だからは学年を関係なく告白をされているらしい。
でも全員が門前払い。
それもまた有名な話になっていた。
友達の紹介とかでも片っ端から断っていると聞いたし、
グループ交際とか合コンも出ないという。
男の付き合いがあるのは僕と鷹介の2人だけ。
だから僕と鷹介は今更ケーキや誕生会でもないのだが、が一緒だからと
親たちの企画に乗っている。
今年は我が家が会場。
例年なら僕か鷹介の部屋でDVDでも見るかゲームでもするのだが、
今年は多分すぐ帰るだろうと思っていた。
まだ返事は保留のままだ。
が返事をするチャンスだと思ってくれていれば話は別だが・・・。



当日。
既に誕生会は飲み会の口実と化している様子の親たちに、
『子供は、もう終わりね。』とリビングから追い払われた。
僕と鷹介は階段に向かおうとしていた。
その背に「一緒に行ってもいい?」と、可愛い声が尋ねてくれた。
もうすっかりは帰るものだと思っていた僕と鷹介は、
喜んで頷いたのは言うまでも無い。
「ゲームだったら鷹介の部屋がいいし、DVDやCDなら僕の部屋の方が
沢山置いているよ。」
階段を上りながらに説明する。
「じゃ、龍ちゃんの部屋にする。」と、が答えた。
もちろん鷹介も部屋に入ってくる。
CDラックの前に立ち選曲しているを見ながら、僕はコンポの前で待って立っていた。
鷹介は既にベッドに腰をかけて、置いてあった雑誌を広げている。



文系の雑誌だから鷹介には面白くもなんとも無いはずだけど、
手持ち無沙汰なんだろう。
見開きのゲームの広告を何気なく見ている。
CDを僕に渡しては机用のいすに腰掛けた。
ホルストの組曲『惑星』をセットすると、が鷹介の隣を指差した。
そこに座れということらしい。
ここは姫のご希望に沿って、鷹介とは一人分くらいの間を空けて座る。
『火星』が流れ始めると、は俯いていた顔を上げて、僕たちを見た。
話があるだろうとは予想がついていたので、音は小さめだ。
鷹介も雑誌から視線を上げた。
「あのね、この間の申し出まだ有効かな?」
頼りないような声でが尋ねる。
「もちろん。」と鷹介が雑誌を横に置きながら答えた。
手を差し出すとその手にが手を載せた。
鷹介のこういうさりげない気遣いが、女の子に人気があるゆえんだろう。
空いている手をが僕に向かって差し出した。



気持ちを代弁するように黙ってその手を取る。
「俺たち、が好きだよ。」
鷹介の言葉に、少し恥ずかしそうにが首をすくめて笑った。
「ありがとう。
龍ちゃんに言われたことよく考えてみたの。
2人とも好きだけれど、私自身はどうしたいのかって・・・・。
生まれてから今まで、龍ちゃんと鷹ちゃん以外に好きになった男の子なんて
いなかったし、2人を同じくらい好きだというのも本当なの。
そして、どちらかを選ぶことなんて出来そうも無いのも本当。
だったら、2人さえよければ3人で居たい。
そう思ったの。
2人は本当にいいの?」
その質問とは反対の気持ちを示すように、の手に力が入って
僕たちの手を放すまいとした。
「いいよ。」
「もちろんさ。」
僕たちの答えに嬉しそうに笑ってくれる。
何よりの誕生プレゼントだと思った。



手を放して椅子から立ち上がると、身体を反転させて
僕と鷹介の間に座りなおしてくれた。
先に鷹介のほうを向くと、その首に腕を回して身体を預ける。
抱きとめるように鷹介の腕がの身体に回る。
「こうしていつもどちらかが後になったり先になったりしなければならないんだよ。
一番になりたいとか、最初の人になりたいとか、そういうのは平気なの?
2人同時に出来ない事だってあるよ。
キスだって、抱きしめる事だって、エッチだって・・・・。」
「それでもだよ。
俺と龍介は、それよりもを失うことの方が嫌だ。
一番になれないことや最初の人になれないことはどこにでもあるし、
俺たちは生まれたときからそうやってやって来たんだ。
なあ?」
の身体を自分の腕の中から離しながら、鷹介が僕に同意を求めた。



「あぁ、そのことは心配しなくてもいいよ。
くじかジャンケンででも決めるさ。」
鷹介から放たれたの身体を今度は僕が抱きしめた。
「だから心配しないでいいんだよ。」
その耳元で囁いてやると、コクンと腕の中でが頷く。
「そのかわり、2人の愛は平等に受け取って欲しいんだ。
そして、同じだけ愛して欲しい。
にはそれを約束して欲しいんだけど、出来る?」
鷹介の問いに、は抱擁を解いて後ろを振り向き
「今までと同じでいいって事だよね。」と、笑った。



「じゃ早速で悪いけど、キスさせて。」
鷹介が言い難いところをさらっと流す。
この辺は、モテ男だと言われているだけあるなと、感心した。
の頬がさぁっとピンクに染まる。
その初々しさに、あぁ、こんなに女の子なんだと実感させられる。
可愛いのと、綺麗なのと、欲しいのと、勿体無くて取っておきたいのと、
全ての感情が一気に溢れて渦を巻く。
洗濯機の渦の中から目当ての何かを一つだけ取り出したいのに、
一つを掴めば芋づる式にくっ付いて出てきてしまうようなそんな感じだ。
どれも本当で、どれでもないような・・・。
付き合うって決めた途端だから、気持ちが追いつかないのかもしれないな。
今夜はOKの返事だけでも十分だ。
鷹介のキス頂戴攻撃から、助けてやれるのは僕だけだ。
此処は一つ、そう思った。



コンコン。
ドアのノックがあって、母親が顔を出した。
「ねぇ、これから私たち駅前まで歌いに出かけるから、
貴方たち適当に解散してね。
・・・・・あら、昔みたいにくっ付いて・・・・・。
クスクス、貴方たちは3人で居るのがお似合いね。
ちゃんを取り合って喧嘩しちゃ駄目よ。」
言いたいことだけ言ってしまうと、楽しそうに笑ってドアが閉まった。
階下の玄関の方から、4人の楽しげな会話が聞こえる。
それが、外へと出ていってドアが閉まる音がすると、靴音と共に遠ざかっていく。
それを3人で黙って聞いていた。



「ん〜なんか気ぃそがれたな。」
鷹介がその場を開放するようにおどけて見せた。
「まあ、の気持ちを聞けただけでも今夜は十分だよな・・・なぁ?」
それに加えるように話して鷹介を見ると、「ん。」と困ったように笑った。
本当はそんなこと無いのだけれど、の様子を見ても
これ以上迫ると可哀想だ。
それにさっきの母親の発言は、なんだか僕たちの不埒な行いを
けん制しているような気がしている。
気がしているんじゃなくて、きっとそうだろう。
あの人は気づかない振りをしているけれど、息子たち2人の視線の先に
誰がいるかなんて事は、お見通しに違いない。
なんと言ってもこの個性的な僕たち双子の母親なのだから・・・。






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