dear child 6





冬休みはタダでさえ短いのに年末年始は行事がてんこ盛りだ。
この年末ほど僕と鷹介にとって寂しい年末はなかった。
いつもだったら凄く楽しいはずなんだ。
とクリスマスのプレゼントを交換して、ケーキを食べてゲームして・・・。
家族ぐるみでのホームパーティがあるからとは顔を合わせる事が出来たが、
それ以外は道で偶然にさえ会えない日々が続いた。
その時だっては3人だけになろうとはしなかった。
去年までは3人だけで僕か鷹介の部屋へ行ってたのに・・・。
それから年越しもコタツに入って一緒にして初詣に出かけた。
だけど鷹介と2人じゃパーティどころか初詣にさえ出かけなかった。
リビングでゴロゴロしているか、自分の部屋で読書か勉強している。
鷹介の方は、部活があるのでそれに出かけているようだったが、
僕は用事がなければ出かけもしない。



そんな僕達を見て母親が珍しく声をかけた。
「貴方たち、ちゃんと喧嘩でもしてるの?
最近ちっとも遊びに来ないじゃない。
考えてみれば年末も様子が変だったのよね。
小さい頃なら翌日には元通りだったんでしょうけど、
もうそれほど小さくも無いだろうし、喧嘩したら簡単な話じゃないだろうと言うのは
私にだって分るけど・・・・。
それでも 貴方達らしくないのは嫌いよ。
早く仲直りしちゃいなさい。
たとえ悪いのがちゃんの方だとしても、
女の子に恥なんてかかせちゃ駄目よ。
貴方たちが謝って折れてあげなさい。
この隙にと、ちゃんを狙っている子多いんじゃないの?
ぼやぼやしてる暇ないわよ。」
からかうように笑ってそう言うと、僕達の返事を聞くこともなく
すぐに父親の世話を甲斐甲斐しく焼いている。
そんな事言われるまでも無いですよ・・・・・と、思わず愚痴りそうになるのを
無理やりに目の前のコーヒーで流し込んだ。



から来てくれる事は無いのだから、自分たちが出向いていこうという事になって、
僕と鷹介は前日に帰省先から帰って来たに会いに、向井家に出かけた。
そうは言っても道路を1つ向うへ渡れば済む事だが・・・・。
ドアの前に立って鷹介とお互いに顔を見合わせた。
インターフォンのボタンを押せば後戻りは出来ない。
いや、したくない。
鷹介が黙って頷いて、ボタンに指を乗せ押した。
目の前のドアの中からチャイムの音がかすかに響いてくる。
カチャッと受話器を上げる音がしたけれど、何も聞こえてこない。
カメラで僕達が見えているはずだから、それは予想できていた。
、話があるんだ。
鷹介も一緒だよ、開けてくれないか。」
此処でドアさえも開けてもらえないのなら、もう何を望んでも無駄な事だ。
駄目かもしれない・・・・そう思い始めた頃、
やっとで施錠が外される音がドアからした。



幼い頃から見慣れて通いなれた向井家の玄関に入ると、
目の前にが困惑した顔で立っていた。
「上がってもいいか?」
そう尋ねると「うん。」と返事が帰って来た。
無視されるかもしれないと何処かで恐れていた自分に気付く。
とにかく話はさせてもらえるらしいことに安堵して、靴を脱ぐ。
は自室ではなく、リビングへと案内してくれた。
3人がけ用のソファに鷹介と座る。
一旦、キッチンへと入ったはお盆に3客のマグカップを乗せて
戻ってきて、僕達の前に1つずつ置くと自分の分を取って向かいの椅子に座った。
テレビも音楽も流れていない部屋は、とても3人の人間が居るとは思えないほどに
静かだと思った。
目の前に置かれたマグカップの中身は、コーヒーだったから
とりあえずそれを手に取り一口飲んだ。
うちのとは微妙に違うブレンドの味がした。
カップから手の平に熱が伝わってくる。
部屋は暖房がしてあるから寒いわけじゃないけれど、
自分以外の温もりは何処かありがたかった。



「それで話って・・・・・」
沈黙に耐えかねたのか、がそう尋ねてきた。
鷹介が僕の方を見る。
僕も自分が説明した方がいいだろうと考えていたので、鷹介には軽く頷いた。
カップをテーブルに戻すと、僕はに視線を向けた。
はあの時 僕と鷹介の両方が好きだと言ってくれた。
そしてどちらかを選ぶ事なんか出来ないから、自分のことは
諦めて欲しいって・・・・今でもそう思ってくれてる?」
僕の問いかけにはコクンと頷いた。
「だったら、両方を諦めないでそのまま僕達と付き合うことは出来ないかな?
今までは3人仲良しの幼なじみとして付き合ってきたけれど、
そうじゃなくて 男と女として3人で付き合いたいんだ。」
僕の言葉に何を言っているのか分らない・・・といった表情の
まあすぐに分れという方が無理な事は承知している。



「分らないよね。
じゃ、こう言ったら分るかな・・・・。
の恋人に僕と鷹介の2人でなりたいんだ。
同じだけ愛してくれるのならそれでいいから、
僕と鷹介がを独占しなければそれで良いと思うんだ。
この関係は社会的には認められないと思うんだよ。
だからこそも『諦めて欲しい。』なんて言ったんだろうし。
でも 僕と鷹介は元々1つの命から生まれているんだ。
2人で一人の女性を愛しても不思議じゃない。
むしろ 僕達にとっては自然で納得できる話だ。
3人での付き合いなんて変則的かもしれないけれど、
今までだってそうして来たんだし、出来ないことじゃない。
生まれてからやってきた事を、そのまま延長してくれればいい。
正直に言うと、誰かにを取られたくないんだ。
いつまでも 僕と鷹介のお姫様でいて欲しい。」
言うだけ言ってゆっくりとカップに手を伸ばした。



もう 熱は奪われてしまって温くなったコーヒーだったけど、
緊張で水分の補給を欲していたのどにはありがたかった。
、俺も龍介と同じ気持ちだからね。
のこと、俺も龍介も大事にする。
無理なことは言わないし、傷つけたりしないから、だから 安心して。」
鷹介が自分の気持ちとして言葉を紡ぐ。
隣で聞いていると、なんだか切ない。
僕の言葉も鷹介を切なくさせているんだろうか・・・・。
そんな事を考えながらの様子を見た。
カップを手にしたまま此方を見ていたが、鷹介の話が終わって
部屋が静かになると瞳を閉じて俯いている。
きっと の心の中は色々な事が渦巻いているだろう。



すぐには返事は無理だろうな・・・・そう思った。
此処までの17年間で僕達がどういう人間かなんてよく分っているはずだ。
だから 一時しのぎで『3人で・・・』なんて言っているのではないという事は、
充分理解してくれているはずだ。
鷹介に確認した訳じゃないけれど、多分以外の他の誰かとなんて考えてもいない。
つまり、一生の相手として見ているのだ。
一生3人でいる可能性だってある。



子供のことだから、僕だって鷹介だって今まで好きなものや興味を引かれるものは
その時々で変化してきた。
嗜好だってわずかだけれど変化したと思う。
なりたいモノだって変わった。
行動範囲が広くなって、大人の世界を垣間見るようになれば選択肢も広がるのだから、
当たり前の事だろう。
でも 女の子の好みはずっと変わらない。
小学校で中学校で高校で、色んな女の子に出会って告白されたりしたけれど、
いつも以外を欲しいとは思わなかった。
外見だけならもっと綺麗な子や可愛い子もいると思うけれど、器が大事な訳じゃない。
隣に並べて楽しむ飾りが欲しい訳でもない。
どうしてなのか自分でも分らない。
でも だからこそ がいいと思う。
鷹介に言わせれば理論派で頭でっかちのインテリな僕だけど、
に対する気持ちとその強さだけは、説明がつかない。
自分の感情なのに自分じゃどうしようもない所がいい。
これこそ僕が望んでいるものだと思う。
マグマが地の底からわきあがってくるように、自分の知らないところから
突き上げてくる衝動。
だからを手放す事なんか絶対に出来ない。



「私の気持ちは、今も変わらない。
龍ちゃんも鷹ちゃんも好きなの・・・・同じくらいに。
2人がそれを許してくれて、3人で付き合おうってことだよね?」
僕達からの話をは理解して尋ね返してきた。
「そう、俺と龍介の2人での恋人になりたい。
龍介よりは軽く見えるかもしれないけれど、俺 いい加減な気持ちじゃないよ。
女の子に囲まれてはいるけれど、本気の子なんていないし
取り巻きの奴らにものことは認めさせておくから・・・・。
何も心配しなくていい。」
鷹介がらしい気遣いで、に答える横で僕はただ頷いた。
「ありがとう、鷹ちゃん。」
が瞳を潤ませて礼を言う。
「少し時間をくれる?」
言い難そうにそう言ったの言葉が、前向きな気持ちの表れだと判断して
僕と鷹介はそれ以上追い詰めるような事はやめた。



の家から自宅へ帰って鷹介は僕の部屋へついてきた。
ベッドに腰掛けると大きく息を吐いた。
「言ってしまったな、俺達。」と、疲れたように吐いた息に乗せて言葉をつぶやいた。
それは僕の感想でもあった。
「あぁ。」と僕も同調した。
眼鏡のブリッジを押し上げてずれを直してみる。
この仕草は僕の癖らしい。
その様子を見て鷹介がクスッと笑った。
「龍のその癖が出たらもう大丈夫だな。」
同じ顔だけれど眼鏡の無い鷹介の笑顔を見て、僕も落ち着いた。
「自分じゃ自覚がなかったけれど、確かに緊張してたな。
にも分ってしまっただろう。
告白した時もそれなりに気を張ってたと思うけど、今日ほどでは無いような気がする。
の潤んだ目を見たら、やばくなりそうで目ぇそらしちゃったよ。
あの目は反則だよ。」
僕も大きく伸びをして、息を吐いた。
「だけど、欲しいのは身体だけじゃないからなぁ。
今はひたすら我慢だよな。
やっぱり気持ちと一緒じゃなきゃ意味が無いでしょ。
だけど 今夜のおかずはあの目だよなぁ。」
楽しいんだか、切ないんだか分らないような曖昧な笑顔で笑うと、
鷹介は「じゃ。」と言って部屋を出て行った。



隣の部屋のドアが閉まる音を聞いて、ひとつ大きく深呼吸をした。
告白以上の賭けに出ることになるなんて思わなかった。
が僕か鷹介のどちらかを選んでこの件は一応の決着を見るはずだったのだ。
の意外な返事のために、此処まで話が深く複雑になってしまった。
否、違うな・・・・・と、何処かで引いて見ている自分の声がした。
の返事だけのせいだけではない。
自分もそれを望んでいる節がある。
3人でなどという背徳的な行為に及ぼうとしているのは、
そうする事でを2度と逃すまいとしているからだ。
他の誰にも渡したくない。
僕と鷹介が両脇から抱えて愛して守ってやりたい。
そして、同じ茨の蔦に自分も絡め取られることを欲しているのだ。
快楽も苦痛も全てを3人でと・・・・・。






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