dear child 5





世界には色んな生活習慣を持った国がある。
日本だってその中の一国だろう。
そして結婚形態も様々だ。
一夫一妻制。
一夫多妻制。
多夫一妻制。
そのどれもがその国の生活環境に合わせて育まれたもので、
決して野蛮だからと言う訳ではない。
一夫一妻制は、キリスト教的な教えだとされている。
日本は現在法律で一夫一妻制を取ってはいるが、
高貴な身分の男性は、その血族を絶やさないために
正妻の他に側室を持つ事が当たり前の時代もあった。
アラブ系の民族では、妻は4人まで持つ事が出来るらしい。
あくまで「妻」の話で、恋人や愛人はカウント外だ。
妻を数人持てるというのは、その男の財力や精力を示すもので、
自慢になることはあっても非難されることはない。
また、アジアの少数民族の中には、男兄弟で1人の妻を持つ
風習のあるところもある。
狭い土地で農業を営んでいるので、兄弟がそれぞれ妻を娶り
独立するには土地が足りないことと、住む所が無いためだ。
世界には、それこそ探せばそんな事例はごろごろしている。



だから、僕と鷹介の2人で1人を愛しても3人が同意していれば
なんら問題ではない。
僕の頭に浮かんでいるこの考えは、今の日本での常識からは外れている。
それが口に出来ないたった一つの障害だ。
僕と鷹介は元々母親の胎内で生まれた1つの卵子だったはずだ。
だから 元をたどれば1つの命と言う事が出来る。
1人の女性を好きになるのもある意味運命かもしれない。
もし3人での付き合いが、ばれたとしても
僕たちのほうは2人だからそれほどの風当たりは強くないだろう。
だが、2人の男を相手に交際すると言う事は、
間違いなくが悪女だと言われてしまう。
そうでなくても 二股を掛ける酷い女のレッテルを貼られるに違いない。
男には「甲斐性」だとか「ジゴロ」だとか、勲章や褒め言葉のように
その行為を言われて、多めにみられる事でもこれが女性がやるとなると、
酷い扱いを受けてしまう。
そう思うとにそんな茨の道を求める事は出来ない。
誰よりも何よりも幸せでいて欲しいのに、
俺と鷹介の2人で不幸になどしたら死んでも死に切れないだろう。
たとえ が首を縦に振ったとしても、あまりにも過酷な選択だ。



向かいの家にいるのだから、偶然に会うこともある。
の笑顔がぎこちないものになっている事がわかっても、
僕も鷹介も気付かない振りで挨拶をし、会話をした。
受験生だった去年の夏休みでさえ、
プールやお出掛けを一緒にしたものだったが、
今年は3人で出かけることはない。
だからと言って、他の女の子など目に入らない。
でなければ、嫌なのだからしょうがない。
それは鷹介も同様らしい。
親同士が仲が良いので、土用の頃やお盆にはバーベキューをしたり
お互いの家でホームパーティをする。
いつもなら夕食を食べ終わると、3人で何かをするのだが
僕達もも今年は何もすることなくTVを見たりして過ごした。
決して仲が悪くなった訳ではないが、お互いに腫れ物に触るかのような態度になってしまう。
それがとても悲しかった。
僕達はそんな静かな高校2年の夏を送った。



鷹介に何も言えないままに時は過ぎて行った。
僕達のどちらもを好きな事だけは変わらずに・・・・。
だてに生まれてからずっと一緒にいた訳じゃない。
鷹介がを好きなままだと言うのは、確信があった。
が僕達の傍から少し離れた事で、
僕はともかく鷹介には交際の申し込みが殺到していた。
選び放題に選べる状況。
それでも鷹介は誰も選ぼうとはしなかった。
誰にも心を揺さぶられるような事はなかったのだ。
体育祭が終わり、文化祭も過ぎて秋風が冷たくなってきた頃。
僕は鷹介に例の話をしてみようかという気になった。
鷹介のことだ、笑い飛ばすか真剣に受け止めるかのどちらかだということは予想が付く。
いい加減な返事はしないだろう。
笑い飛ばせば、それ以上何も言う必要はない。
だが、真剣に向き合ってくれれば、解決への第1歩になる。
の気持ちが一番大事だが、それ以前に俺達が2人で
平等にを愛する事と守る事が出来るかが問題だからだ。



小さい頃から何でも2人で半分にしてきた。
もしくは、共同で使ってきた。
それは双子だから当たり前だと受け止めてきた。
時には取り合ったり喧嘩もしたけれど、
それは何もかも独占したいと願っていた小さい頃の話だ。
だが、は分けられないし、共同でも使えない。
それを2人で愛するのは、無理な事だろうか?
いや、僕達2人に限っては無理じゃないと僕は思う。
その対象がなら・・・・・。
今までだって、口にするかしないかの違いはあったけれども
僕と鷹介の2人でを守って愛してきた事に違いが無い。
ただ 子供の時からの馴れ合いだと思っていただけに過ぎない。
だって言っていた。
『どうして1人だけ好きなならなければならないんだろうって、
私は同じくらい好きで同じくらい大事な男の人が2人いるのに・・・。
だけど みんなちゃんと誰か1人を選ぶ事が出来ている。
私は何処かおかしいんだよ。
そうとしか思えない・・・・。』と。
だったら、可能性がない話じゃない。
僕と鷹介で1人を愛して、は僕達2人から愛情を受け取ればいい。
3人で育む愛があってもいいじゃないか。
何も世間一般の型に自分たちが当てはまらないからと言って
悪い事をしている気になる必要はない。
幸いにも僕達3人がいつも一緒なのは、今に始まった事じゃない。
誰も踏み込めなかった。
いや、踏み込ませなかったのかもしれない。
3人だけの聖域に。



どう切り出すか悩んでいるうちに、冬休みになっていた。
とは、以前と同じくらい気安くと言う訳ではないが、
それでも 僕と鷹介でを守っているのは同じだった。
登下校もどちらかが一緒だったし、勉強も見ていた。
ただ 何処かに一線を引いているようにお互いが気を使っていた。
幼馴染としての枠を出ないように、身体に触れないように、
気持ちを言葉にしないように・・・・と。
だから ぎこちないもののは笑顔を僕達にくれていた。
でも このまま放っておくといずれはこの役目を誰かに
譲らなければならない。
その前に、まずは鷹介に話をしなければならないと思った。
その夜、鷹介の部屋を尋ねると、いつものようにパソコンに向かって
何かを入力している所だった。
僕達は2人ともパソコンを使うが、僕はもっぱら文字を入力し
鷹介はプログラムを入力するのに使っている。
「ちょっといいか?」
「なに、改まって。」
背中に声をかけると、くるりと椅子を回して此方を向いた。
「大事な話があるんだ。
悪いけどそれを保存して落としてくれよ。」
鷹介の気が逸れるのが嫌で、そう言ってみた。
「今駄目なら暇な時でいい。」
「いや、別にいいよ。」
鷹介はクリックを数回して電源を落としてくれた。



「で、話って?」
机に背を向けた鷹介は、僕に話すように促した。
「ん、鷹介は以外に好きな子出来たかな〜と思ってさ。」
まずは現在の気持ちを確認しようと思って、話を振ってみた。
「龍介、お前俺のこと馬鹿にしてるんじゃないよな?
俺はそんな軽い気持ちでを好きなんじゃないよ。
まして、振られたと決まった訳じゃない。
あの時は、俺か龍介のどちらかなんて選べないと、
言っただけだよ。
そして俺達の2人とも好きだって言ってた。
つまり、俺と龍介との3人は、変則的な両想いって奴だ。
俺はそう思っている。
ただ 世間一般として考えたらさ、が戸惑っているのも分るしさ。
俺もどうしようもないような気がしているし・・・・。
だから 以外に好きな子なんて出来るわけない。
まあ、今は普通の付き合うって状態じゃないけれど、
龍介の事だから何か策があるんだろ?」
そう言って鷹介はニヤリと笑った。
「なんだ、見透かされてるな。」
既に話の内容にあたりをつけている鷹介の察しのよさに
思わず苦く笑ってしまう。
「で?」
なかなか話そうとしない僕に焦れて、鷹介が促してきた。



「うん、鷹介が今言ったように、社会的には通用しない考え方だけれど
僕達3人さえ納得すれば3人で付き合えないことはないと思うんだ。
だけど おおっぴらには出来ないし、上手くバランスが取れるのかも判らない。
僕と鷹介のに対する愛情と、の僕達に向けられる愛情のバランスが、
この関係の鍵だろうと考えている。
僕達、子供の頃から1つのモノを半分にしたり、交互に使ってきただろ?
共有すると言う点では同じかもしれないけれど、をそんな風に
位置づけしたくはない。
彼女を愛する時は2人で同時に同じだけ愛する事が
僕と鷹介には出来ると思う。
その時々で微妙な差は出来るし、あって当然だと思うけれど
はそれを許してくれると思うんだ。
僕達、元は1つの魂だ。
お母さんから生まれるまでは、それこそ1つの命だったはず。
だから、だけを愛するとしても不思議はない。
このままじゃ、どうしようもないだろ?
にこの話をして、受け入れてくれるとしたら
3人で付き合って愛し合うことも僕はかまわないよ。
鷹介は、どう思う?」
僕の話を聞き終わった鷹介は、それこそ嬉しそうににやりと笑った。
「俺も考えていたことだったけど、口にしてもいいか迷ってた。
には2人で話そう。
俺と龍介の愛を1人で受け止められる女が居るとすれば、
それはしかいないだろう。
それに、だったら俺達を同じだけ愛してくれると思う。
俺に異存はないよ。」
鷹介に関しては僕の杞憂に終わったようだ。



2人で話し合って、とりあえずこの冬休みはこのまま過ごそうということになった。
タダでさえ年末年始は忙しい。
それに 毎年の事だが、は年が明けると父親の田舎に帰る。
数日間は僕達から離れてしまう。
話しをした後で離れてしまうと見ていないところでが苦しむ。
出来ればそれは避けたかった。
間違いなくは戸惑うだろうし、悩むはずだ。
そのを一人にはしたくない。
僕と鷹介で支えてやりたい。
これからもそうしてを2人して愛していく。
その証として・・・・。






(C)Copyright toko. All rights reserved.