Careful of a flash 1 龍介は、今度の小説の取材旅行に香港へと出かけている。 取材のための旅行とか見学とかは大切らしい。 日程が折り合えば、俺とも同行することもある。 なかなか3人で旅行というのが難しいこともあるから 便乗旅行は楽なのだ。 でも大学も忙しいし、ゲームソフトやプログラムを売るために 友人たちと立ち上げた会社の社長業も忙しい。 も今回は〆切を抱えた作品があるとかで、 龍介1人での旅行となった。 1人といってもそれは3人のうちでの話で、 実際には担当さんや出版社の人と数人での旅行だ。 龍介が留守の間は、俺が1人でを守らなければならない。 俺達はそういう約束をしている。 を2人で愛すると誓っているのだから。 明日には龍介が帰ってくるという日。 が写真週刊誌なるモノを手にして、部屋に駆け込んできた。 「どうしたの? 可愛い顔が台無しだよ。」 いつものように軽く微笑んでウィンクを飛ばした。 他の女の子へ向ける笑顔より3割り増しで甘く笑う。 ちなみにこの3割り増しというのは、俺の悪友たちが下した評価だ。 俺と龍介は、同じくらい真剣に深くを愛している。 だから、浮気など絶対にしない。 そうでなければ、2人分の愛情を受け止めるという変則的な恋愛に 身を投じてくれたへの背信行為になるからだ。 だが、女性の避け方は俺と龍介では180度反対だ。 俺は、どの子にもそれなりに相手をして話をしたりはするが、 友達以上には絶対にならないし、軽口は叩くものの 期待させるような態度や言葉は使わない。 大学に入ってからは、龍介やとも離れてしまったけれど、 だからと言って今までとなんら変わったことなど無い。 それに対して龍介は、まったく女性を寄せ付けない。 母親以外で唯一許しているのが、と言うことになる。 なんと言っても同じ顔なのだから、もてないということは無いだろうが、 クールと言うにはあまりにも冷たい態度を取っている。 それが逆に人気の原因だということを本人は知らない。 が手に持っている写真週刊誌は、それこそ駅の売店になら 山積みにされている品物だ。 どちらかと言えば、女性的な内容ではない。 今週は何かスクープがあったかな? 丸めて持っているその手元に見える見出しを見た。 『イケメン作家と新人女優の恋』 な〜んて陳腐な見出しなんだ。 作家でイケメンな奴なんていたっけ? ・・・・あぁ、いたな1人だけ。 つまりそれでが駆け込んできたというわけだ。 俺は1つ息を吐き出すと、に向かって手を差し出した。 「見せてごらん。 どんな写真が載ってるの?」 俺の手には握りこんでいた雑誌を恐る恐る乗せた。 もうそこを探す必要の無いくらいに、跡の付いている頁が自然に開くと、 不鮮明な白黒写真ながらもカップルの写真が載っていた。 男は売り出し中の作家 深山龍介。 女はこれまた新人としては頭角を表しつつあるタレントの女の子。 歳はえーっと、20歳って書いてあるか。 ふーん、なかなか可愛いジャン。 ほどではないにしろ、まあ男うけしそうな子ではあるな。 写真の内容を書いてある細かい文字を追うと、 どうやら龍介はこの女の子と食事をしたらしい。 しかも2人っきりで夜のホテルのレストラン。 この後、2人が寄り添ってエレベーターに消えたとか何とか・・・・。 思わせぶりな書き方。 売るための常套文句だ。 だけど こういうのに乗せられる奴なんているのかねぇ〜。 ページを閉じて顔を上げると、もう モロに乗せられた人が此処に1人。 本人がどういった状況だったかを説明すればそれで終わりなんだろうし、 龍介がこんな子と仕事以外で会うはずが無い。 そんな心配するだけ無駄だ。 薄々それは分っているのだろうが、そうも出来ないんだろうなぁ。 俺も気をつけないと。 俺と龍介との付き合い方って、世間じゃ規格外だろうから受け入れてもらえない。 それでもは、自分が悪く言われるのを承知で3人で付き合うことを 受け入れてくれたのだ。 つまり、には2人のうちどちらかを失ったとしても片方が残る。 愛情を感じなければ、別れることを厭わないんじゃないのか? それに 悪女とか二股などという非難の言葉を浴びなくても済む。 此方から言えば浮気でも命取りになる。 本当のところはどう思っているかは知らないけれど・・・。 「鷹介、龍介は此処に書いてあるように、この人と付き合っているのかな? 鷹介は何か気付いたり聞いたりしてる?」 立ったままで俺を見下ろしていたに手を差し出す。 が手を載せた。 優しく包んで痛く無いように引き寄せる。 横抱きに膝に乗せて腕の中に。 の使うコロンの香りが鼻腔をくすぐる。 「なに、は龍介を疑っているの?」 覗き込むように尋ねてやれば、腕の中で首を横に振った。 「信じてやってくれよ。 まあ、龍介もいい男だから、無理もないことだけどさ。 けど 俺よりもあいつはガード固いよ。 だからこそ これはきっと龍も知らないんじゃないかと思うんだ。 だって こんな売名行為のような記事に龍が『うん。』と言うわけ無いよ。」 決して声高でないけれど、確信を持っているように話しをした。 同じ男として、いい女が据え膳でいれば思わずということも無いわけではないだろう。 普通は手を出すと思う。 実際に俺がその場にいたらどうするのか? そう自分に置き換えてみたら、どんな相手であろうと絶対に手を出さないだろうと 考えた上で、には大丈夫だと説明した。 他の誰であろうと、の代わりにこの胸の大事なものを触らせたくは無いのだから。 それは、龍介も同じだろうと思う。 の気持ちを失うくらいなら、目の前の女など抱かなくてもいい。 そう思うはずだ。 まだ不安そうにしているものの俺の言葉に少しは落ち着いたのか、 は静かになった。 その柔らかい頬を俺の胸に寄せて身体を預けてくれている。 「なあ、本当に龍介が写真の女がいいって言っても、 には俺がいるから心配しなくてもいいよ。 龍介の分まで俺が愛してあげるし、守ってあげるからな。」 上目遣いに見上げたの額に唇を寄せると、 「ありがと、鷹ちゃん。」と、がわずかに微笑んだ。 顎を片手ですくって顔を上に向かせると、桜色の唇に自分のものをそっと重ねる。 「。」 その一言で、の唇がわずかに開く。 その隙間にやさしく自分のものを差し入れる。 まだ閉じている歯に当たると、綺麗に並んだ歯列をくすぐるように舌先でなめてやる。 傷ついているだろうの心を解きほぐすように。 内側の扉ともいえる白く硬い扉が上下に開いて俺の舌を招き入れる。 その中には、普段外からは見えないの官能が眠っている。 応えてくるの舌や唾液には、媚薬でも発生させる何かがあるんじゃないかとさえ 思うくらいに周りが見えなくなる。 が俺の世界のすべてになる。 (どうするかな?) ふと双子の相方である龍介の顔を思い浮かべた。 このままを抱いてしまいたいと思っている。 でも 約束したわけでもないのに、いつもを愛するときは 俺と龍介は一緒で同時だ。 俺の知る限りでだが・・・。 も片方とだけ関係を持とうとする意思はなさそうだ。 3人で愛し合うという関係を崩しそうなことは自然と避けているのだろうか? まあ それはそれで構わないのだが、今の状況から行くと にはたとえ龍介が離れても俺が残っているんだと安心させるために、 抱いてやった方がいいような気がする。 少しでも安心させてやりたい。 そう思った。 だから 今までそんなことはしたことが無いけれど、 それは俺とで龍介を裏切ることになるのかもしれないけれど、 それでも を抱きたいと思った。 俺がを愛している証として。 龍介、お前が悪いんだ。 龍介にらしからぬ感情を持った。 アイツは、冷静で思慮深くて頭が良い。 だから いつも悪いことをしようとする俺のブレーキ役だった。 ここへ来てそのブレーキが効かないのは、龍介側の欠陥によるものだ。 俺のせいじゃない。 龍介を裏切るという良心の呵責がなくなったことで、 俺はを抱きしめている手に力を入れた。 俺は覚悟を決めたことで、の腰に回していた手を動かし始めた。 の背中を縦に移動させ、背筋をやさしくなでさする。 キスはそのまま続行している。 「、愛しているよ。」 唇が離れた隙に、愛の言葉も囁く。 「鷹介、私も。」 龍介抜きで俺だけに語られる愛の言葉に、嬉しさがこみ上げた。 独占できるものなら、独占したいさ。 自分の思いを肯定してやる。 そうしなければ、この場を乗り切ることなんて出来ない。 背中を撫でていた手を、のブラウスの下へと滑り込まそうとした。 バタン。 部屋のドアが勢いよく開いて、俺とはその音に驚いて ドアの方を2人して見た。 そこには、がさっき持っていたのと同じ写真誌を手にして、 息を切らせて立っている龍介がいた。 |