night of a party 3





会場近くにあるスタッフの控え室に着くと、既に担当の編集さんと出版社の人とか
賞の関係者が龍介が来るのを待っていた。
龍介の出現に会議室のようなそこは、一瞬静かになった後どよめきが上がった。
担当さんが駆け寄ってきて、龍介にリボンで出来た大きな花を付けてくれた。
私と鷹介は、連れて行かれてしまった龍介の後ろ姿を見ながら部屋の隅で立っていた。
関係者なのだろう1人の壮年の男性が、私達の近くに寄ってきた。
名刺を差し出されて受け取ろうとすると、横から鷹介の手がさっとそれをさらって行った。
「え〜っと、深山龍介君の関係者かな?」
その人は、鷹介と私を見てそう尋ねた。
「そうです見れば分るでしょう、私は龍介の弟で鷹介といいます。
此方は、俺たちの大事な人で向井さんです。」
鷹介は、いつもの軽妙洒脱な顔ではなく、
それこそ龍介の機嫌の悪い時のような顔で答えた。
普段の鷹介からは信じられないような空気がある。
「大事な人ってどういう?」
その人の興味は自分にあるのだと分りすぎるほど分る視線に、少し鷹介の身体に近寄る。
「幼馴染です。」
対社会的にその関係を問われた時、龍介と鷹介は私を今のように
『大事な人』『家族に等しい女性』『幼馴染』と、紹介する事が多い。
私は無難に『幼馴染』という便利な言葉を使う事が多かった。
「そう、この世界に興味があったら悪いようにはしないよ。
連絡をくれれば力になるからね。」
そう言ってもう1枚名刺を取り出すとさっと私に握らせて、その場を離れた。



、嫌だったら受け取らなくていいんだからな。
俺が傍に居てに嫌な思いさせたと龍介が知ったら、何されるかわかんねぇぞ・・・マジで。
あいつは普段静かで動かない分、爆発させた時の破壊力はすざましいモノがあるからな。
もし、これが逆だったら俺も同じだと思うし・・・・。
とにかく、傍を離れんなよ。」
そう言って私を見下ろした鷹介の目はとても優しい色をたたえていた。
「うん、そうする。」
言われなくてもさっきの人のあからさまに舐めるような視線で見られた事で、
すっかり狙われた雛のような気持ちになっていたから、そう返事をした。
若い男性のそれとは明らかに違う目的のはっきりしたいやらしさとでも言うのだろうか、
背中に悪寒を覚えるようなそんな視線だった。



龍介が担当さんと離れてこちらに戻ってきた。
鷹介の陰に隠れるようにして立っている私を見て目を細める。
「どうした?
鷹介、に何かあったのか?」
いつもとそれほど何が違う訳でもないのに、龍介には分ってしまう。
この人の洞察力は本当に凄い。
何も隠し事なんか出来ないと思ってしまう。
鷹介は、先ほどのことをかいつまんで説明した。
一瞬で今までの龍介がまとう空気が冷たくなったのを感じる。
そして、立つ位置を変えて控え室の中に居る人たちから私を隠すようにした。



私の背は160センチほどだ。
まあ高くもないが低くもない。
対して龍介と鷹介は185センチくらいはある。
5センチヒールのミュールをはいているくらいでは、2人に並ばれると隠れてしまう。
おまけに2人ともリーガルの革靴をはいているから2〜3センチは高い。
つまりヒール効果はほとんどないのだ。
、嫌だったら部屋に居てもいいんだ。
パーティーに出て欲しいというのは僕のわがままなんだから。
今夜はそばにいられなくても視界の中に居て欲しいだけなんだから。
もちろん、鷹介が傍に居ると思うし僕が何も言わなくてもを守るとは思うけど、
無理しなくてもいいんだ。」
うまく隠してはいるけれど、龍介は緊張している。
こんな事言い出すなんて、子供の頃からめったにないことだ。
彼はそれだけ甘えるのが下手で、3人の中ではいつも一番我慢をしていると思っている。
それを押してまで何かを求める時には、答えてあげたい。
そう思った。



鷹介を見上げれば、分っているとでも言うように軽く頷いてくれた。
「龍ちゃん、私だったら大丈夫だから心配しないで。
ちゃんと鷹ちゃんが守ってくれるよ。
さっきだってそうだったもん。
あんな人ばっかりじゃないと思うし、私もここで龍ちゃんの格好良い所見ていたいから、
部屋にいろなんて言わないでね。」
目の前にあった龍介の手をとると、「ありがとう。」と笑顔になった。
担当さんが呼びに来て、龍介はそこで関係者と一緒に移動する事になって離れた。
私と鷹介は、その他の人たちと会場へとぞろぞろと歩いた。



立食パーティーの形を取った授賞式は、前の方のひな壇の方に人が集まっている。
TVカメラや取材の人たちは、場所取りに懸命だ。
会場の後ろの方が、龍介からよく見えるだろうと前の方へは行かなかった。
会場の照明が少しだけ落とされて、司会進行の人が式を進めていく。
いよいよ、受賞者の紹介となり龍介が壇上に上がってマイクの前に立った。
今夜の龍介は、黒のスーツにスカイブルーのシャツ、
ピンクのネクタイとポケットチーフと言ういでたちだ。
鷹介は、レンガ色のシャツに同じ色のネクタイとチーフで、スーツは同じだ。
中学に入った頃から、双子でもお揃いなんて嫌だからと着ないくせに、
2人はこんな時ばかり色違いを使ったお揃いを着込む。
しかも あのネクタイとチーフの色は私のドレスに合わせてあり、
どちらが傍に立ってもコーディネイトされているように見える。



龍介は、マイクが低いので高く直してもらってから、
記念の賞状と懐中時計が入った箱を手に、受賞の挨拶をする。
「まず、この受賞の喜びの気持ちを両親と双子の弟鷹介と、
幼馴染であるに捧げたいと思います。
私がここまで来れたのは、この4人の人のおかげです。
感謝しています、ありがとう。
そして、選んで頂いたことを光栄に思います。
ありがとうございました。」
軽く頭を下げて早々にひな壇を降りると、TV取材の人に取り囲まれている。
それも10分ほどで終わり、後は担当さんと共に関係者や他の作家さんの間を
挨拶に回っている。
そんな龍介を鷹介と2人で見るのはとても誇らしかった。
期待の大型新人、しかもルックス良し、学歴良しとくれば出版社も力が入るだろう。
時々こちらを見る龍介と視線が合って、微笑む。
鷹介が居ても何人かの男性に声をかけられた。
先ほどのような人は居なかったけど、世の中物好きが多いと思う。
龍介と鷹介は、幼馴染という事で顔だって見慣れているからその範囲以内で『可愛い。』と、
言ってくれるけれどそれはお世辞も含めての事だ。
2人にそのことを言うと、『俺達は嘘は言っていない。』と怒られる。



最初、眉目秀麗、知勇兼備な2人が私を選んでいると言う事実は、信じられなかった。
2人とも断ろうとして傷つけた事もある。
だから、時々不安になるけれど、その度に龍介と鷹介に愛されて、
2人の愛を心にも身体にも注ぎ込まれる。
それと同じように私が2人を好きな事もちゃんと伝わっていればいい。
2人を平等に愛している。
もともと 母体の中で1つの命だった2人なのだから、2人で1人なのだという
龍介のこじ付けももう随分馴染んでしまった。
そう言われなければ、2人とも好きだという自分を異常だと思ったかもしれない。
子供の頃には平気だったのに、1対1と言う概念が一般的だと知ると
自分が抱いている想いがそれにあてはまらなくて怖くなった。
2人に手をとられなければ、今頃どうしていただろう?
鷹介にエスコートしてもらい、龍介の姿を遠巻きに見つめながらそんな事を考えていた。



授賞式は2時間くらいで終わった。
新人である龍介が他の作家から誘われるような事はない。
1作限りの1発屋だということもあり得るからだろう。
この業界じゃそんな事も珍しくないんだと、龍介は言っていた。
コンスタントに作品を発表して、それがベストセラーにならなければ「有名作家」とか
「ベストセラー作家」などという肩書きはつかないからだ。
特に、次回作は大事なんだと担当さんがくどい位に龍介に念を押しているのを
聞いた事がある。
今回はデビュー作で有名な新人賞なのだから、注目されて当然だ。
出版社も力を入れて宣伝してくれる。
次回作からは、程々と言う事になるらしい。
でも 私は心配していない。
龍介の今までを見て来たことも大きいだろう。
龍介は勝てない勝負はしない性質だ。
勝てないと思うときには、勝つことが出来るまでその要因を引き上げる努力をする人だ。



先ほどの事があるせいか「控え室には来なくていいから、
ロビーのラウンジででも待ってて。」と、そう言われて鷹介と2人でコーヒーを飲みながら
龍介を待った。
エレベーターの方へ向いて座っていた鷹介の目が
急に面白いモノを見つけたと言う表情になった。
「どうしたの?」
そう尋ねると、黙って指し示す。
それに従って後方を見ると、今降りて着たエレベーターに乗って来たと
思われるカップルが居た。
その男性の方は龍介だった。
2人は私達に気づいていない。
「龍介は大学も違うし普段から以外の女を寄せ付けないから、見ることはないだろうけど
あいつの女の振り方は俺より冷たいぜ。
面白いから見ておくといい。」
鷹介の言葉に頷いて、龍介と一緒の女性を見る。
凄く綺麗な人だ。
女性の方が迫っている事は、此処からでもはっきりと分る。
腕を絡ませて龍介の肘あたりにその豊かな胸を押し付けている。



眼鏡をかけている龍介の眼が冷たく光ったように見えた。
その人から腕を無理やり引き戻すと、何事かを話している。
それにカッとなった女性が手を振り上げた。
平手打ちをしようとしたようだ。
その手首を難なく捕まえて、空いている手で眼鏡のブリッジを押し上げて
ニヤリと龍介が笑った。
冷たい笑みだと思った。普段私に対しての優しい笑みと比べての事だけど・・・。
女性は、龍介の手を振り解いて怒ったままホテルから出て行った。
龍介はそれを見送って、やれやれとでも言うように溜息を吐くとようやく此方を向いて、
私と鷹介を探すように視線を彷徨わせた。
鷹介がその視線に答えるように軽く手を上げる。
私も控えめに手を振った。
見つけてくれて目が合った途端に龍介の顔にのぼる笑みは、いつもの優しい笑顔だった。
「龍は、だけにあんな顔をするよ。
俺もああなんだろうなぁ。」と、鷹介が照れたように笑う。
龍介の顔を見て、自分もそうかと思ったら恥しくなったのだろう。



龍介に促されて、その場を離れた私達はエレベーターで今夜の部屋へと帰ることにした。
乗った箱には私達だけだった。
レストランやパーティー会場のためのエレベーターではなく、
宿泊者専用なので、空いているのだろう。
鷹介は肩に、龍介は腰にそれぞれが手を回していて、広い箱の中で私達は密着していた。
2人がこんな態度をとるときは、これから何が始まるのか
私は充分知っている。
ポーンと音が鳴って、目的の階に着いた。
操作盤に近い龍介が「close」ボタンを押したまま2人が何の合図もなくそっと顔を寄せてきて、
両の頬にそれぞれがキスを落とした。
それに微笑んだ私にようやく龍介がドアを開けて廊下に出る。
腰と肩に回された手と手をつなぎなおして、歩き出した。





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