NO.79 INSOMNIA(不眠症)
真夜中。
は 突然に ガバッと布団を跳ね除けて身を起こした。
自分のいる状況を 暗闇の中で 確認する。
そこは 既に見慣れた宿の自分の部屋。
それを 確認すると 押し込めていた荒い息を 整える。
何の夢を見て 起きたのかは 自分で思い出す必要がないほどに 何
度も見た夢だ。
それでも 自分の見た夢が 本当になりそうな気がして
すぐに布団に戻ることができない。
夢だと 確認するために 少し起きていることにする。
そうしたって 三蔵たちの無事が確認できるわけでもないのを
知っているのも また 本当のところだ。
仕方なく ベッドを降りて 窓辺に立つ。
カーテンを開けて 窓越しに 外を見る。
今夜は 月が出ていて 闇が支配してはいるが 窓からの情景は
月明かりに 薄く青い光が照らしている。
今夜は何処で眠っているだろう?
何処かの街や村にたどり着けただろうか?
それとも 野宿だろうか?
野宿ならば この月に照らされているかもしれないし 見上げているかもしれない。
今までの旅の情景から 覚えている限りで 4人の男の様子を想像する。
焚き火を囲んで 夕食を食べ 片づけが終われば ジープの上で眠る。
夜中に妖怪に襲われたことも何度かあったけれど いつもみんなは平気な顔をして
相手をしていたっけ・・・・・・。
悟浄は「夜這いは 綺麗な女に限るのに・・・。」と 不満そうな顔をして。
悟空は「もう少しで 大きい肉まんが食べれるところだったのに・・・・。」と
夢を邪魔されて悔しい想いを 八つ当たりするように。
八戒は「人を訪問するのには 非常識な時間ですよ。」と 皮肉まじりに微笑んで。
三蔵は こめかみに怒りを浮かばせながら 黙って 愛銃に手にかける。
決して 負けるとは思わないけれど 怪我をしていなければいいと は思う。
が後の気配に 気が付いた。
「様、そろそろベッドにお戻り下さい。
そんな 薄着でおられては お風邪をひいてしまいます。
三蔵様が お帰りになられたときに 様が 病にかかっておられては
傍に控える私は命が幾つあってもたりません。」
リムジンの声は の頬に笑みをのぼらせた。
「そうね。」と 同意の返事を返すものの はベッドに向かおうとしない。
「様 なんでしたら 私が ひと飛びしてご無事を確認しに参りましょうか?
食料や煙草をお持ちすれば 三蔵様もお怒りにはならないでしょう。」
そう言うリムジンの言葉に は静かに首を振った。
「リム ありがたい申し出だけれど それはダメよ。
私は 三蔵を信じてここで待つと言ったのだもの。
余計な事はしたくないわ。」
リムジンは頷いて 大人しく下がった。
「リム、恋焦がれる人を 眠れないほど心配するって ある意味幸せなことよね。
それは 相手が生きているって事でしょう。
もし このまま 三蔵たちが帰ってこなくても 私は信じて待つ事を 三蔵に許された
ただ1人の女なのだもの。
何も許してはくれなかった 金蝉よりも 三蔵は優しいということかしら・・・・。」
東の空が ほの白く明るくなってくるのを 認めた後
三蔵たちの向かった 西のまだ闇に包まれている空を向いたの顔には
静かな微笑が浮かんでいた。
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