NO.78 鬼ごっこ





先ほどまで立っていた地面とは違う感触。

「砂に足を取られること無く 足を進められるのは 楽でいいですね。

一人という所に 文句を言いたい所ですけれど・・・・・。」と 独り言をつぶやく。

刺客の罠だろうと言うことは 分かっている。

幻術か 何かのたぐいだろうということも。

こんなことが 今まで無かったわけではないし、

1人になったところで 不安になるわけでもない。

旅の仲間それぞれ全員が 強くて 一筋縄ではいかない面々なのだから

何とかなるだろうという 漠然とした安心感はあるのだ。

だが こうして一人一人にした敵の目的は何かと考えると、

八戒は 1人の女性が 心配になる。







「とにかく の傍に行かないといけませんね。

お姫様を助けるのは 勇者と相場が決まっています。

僧侶や遊び人、戦士のお役目は 他にあるんですから 先を越されて

RPG(role playing game)のストーリーが変わらないようにしないと・・・・。

しかし どこをどう捜せば良いんでしょうね。」

そう言いながら 単眼鏡の枠をついと指で押し上げて 回りを見渡す。

ふと 一点に何か違和感を感じた八戒は 何もないのなら 

そこへ向かうしかないと判断をして歩く方向を定めた。 






最初に感じた違和感は それに近づくにしたがって 強いものへと変わって行った。

違和感と言うよりも それは段々と 嫌悪感に感じ始める。

近づきたくないと思うのは どういうことだろう?

他には なんとも思わないのに そこにだけ近づく事を躊躇してしまう。

罠の中だと分かっているからか 余計にそのことが気になる。

「仕掛けた人が そこへと近づいて欲しくないと言うことなんでしょうね。

だとすれば この先に誰かがいるか 出口があるか 仕掛けたご本人がいるか

そのどれかでしょうね。

とにかく 何処かに行かなければならないのなら 気になるところへ行きますか。」

そんな推理を立てて 前に進む。






これ以上は 近づきたくないと言う想いが 限界に来た頃、

その向こうに 人影らしいものが 座っているのを発見した。

「そこにいるのは誰です?」

人影の大きさからいって 悟浄と三蔵でない事はなんとなく分かる。

たぶん 悟空かだろう。

であって欲しいと願いつつ 八戒は その人影に声をかけた。

「はっかい・・・・・八戒なの?」

うずくまった人影の声に 八戒は 笑みを浮かべた。

でしたか・・・・・

何処か怪我してませんか?」

「ううん、大丈夫だよ。

八戒は どう?」

その返答に 八戒はの無事を知って 胸をなでおろした。






だが「、今そちらへ行きますね。」と声をかけた途端、八戒の身体に痛みが走った。

「八戒?」の声が 少し遠くになったように感じる。

「何でもありませんよ、大丈夫です。

ところで、貴女は 僕が近づいても 何処かが痛いとか

気持ち悪いとか なんとも無いですか?」

八戒は 自分が感じている事を も感じているのではないかと思い 尋ねてみた。

「どうして? 何も感じないよ。

だけど 八戒1人って事は 私だけが迷子って訳じゃないんだね。

てっきりみんなに迷惑を掛けていると思って 三蔵の言いつけどおりに 

動かずに待ってたけど・・・八戒が一緒なら 三蔵に怒られなくて済むかな。」

の答えに 八戒は 自分の状況を推理する。





(僕は のいるこの場所を感じるのに 一番最初 違和感として捕らえましたよね。

近づいて姿が見える頃になると 嫌悪感さえ感じました。

だと確認するために 声をかけたときには なんとも無かったのに

『そちらへ行きますね。』と言った途端に 痛みが走ったのに 待っているだけのには

痛みも 違和感も 嫌悪感さえ感じていません。

・・・・・・つまり そういうことですか。)

自分の考えがまとまると 八戒は この罠のカラクリを知って 笑みを浮かべた。






、こんな時に何なんですけど『反対語遊び』をしませんか?」

そんな八戒の突然の誘いに はいぶかしげに尋ねた。

「えっ、今から?」

「はい。」

(たぶんこれで 大丈夫なはずなんですよね、僕の推理が正しければ・・・・)

八戒は にルールを説明した。

「えっとですね、自分が思っていることと 反対の気持ちを話してください。

心で『好き』と思っているなら『嫌い』と反対の言葉を言うんです。

この異空間を出るまで それを続けて欲しいんです。

いいですか?」

八戒は にっこり笑って 一歩前に出てみた。

自分の身体に何も感じないことに 安堵すると、

「後で 三蔵達にも仲間に入れてあげないといけませんね。」とつぶやいた。






「では始めましょうか。

、ここに来てから三蔵達に会いましたか?」

そんな事は知っているのに・・・と言う顔のを 目だけで促して八戒は答えを待った。

「はい、会いました。」

のその答えが終わると 八戒は3人の人の気配を感じ始めた。

(やっぱり ビンゴですね。

素直なの答えを誘導した方が いいでしょうね。

僕が言うと 後で三蔵に撃たれちゃいそうですから・・・・)

そう思うが 自分の感じた違和感はどうしてだったのだろうと思い に尋ねる。

「ここへ来て 一番最初に思い出したのは僕でしたか?」

確信的な思いからそう質問すると 頬を桜色に染めながら

「八戒じゃありません。」と 小さめな声が返ってきた。






他の3人が現れていないことから 自分だけが望まれたのだと八戒は知る。

のその想いが 八戒には違和感として伝わって来たのだ。

「三蔵と悟浄と悟空にも 会いたいですか?」

の思いさえ確認してしまえば 後は揃ってここを出ることだけを

考えなければならない。

「会いたくありません。」

その答えに 今まで気配だけだった3人が足音が聞こえるほど近づいて来たのが分かる。

「3人の姿を見て 無事を確認したいですか?」

「したくありません。」

の答えの後に「あぁ〜、八戒とがいる。」と言う元気な悟空の声が聞こえた。

「傍に来てもらいたいですか?」

「来て欲しくありません。」

すでに の声が充分に聞こえるほどに傍に来ていた三蔵が、

「なんだと?」と 不機嫌全開でを睨んだ。






「三蔵、実はこの幻術をかけた敵は 反対言葉が大好きなようですよ。

ですから三蔵達がここに来れたのも が僕の質問に拒否の答えをしてくれたからなんです。

僕なら 嘘でも許してもらえないでしょうが だったらかまわないでしょう?」

罪の無い者の口からこぼれ出る拒否の言葉に 三蔵が何も言えないだろうという事を

見越しての発言に「勝手にしろ。」と 三蔵なりの許可が下りる。

その言葉を聞いて 八戒はに向かって微笑むと

、もう少し僕の質問に対して 思っている事の反対を返してください。」と

既に遊びではなくなって ここから出るための手段と敵を倒すための応答をすることになった。

もそれを察して 黙って頷いた。
 

 




「この結界をはった妖怪は どこにいるか知りたいですか?」

「知りたくありません。」

は突然に 妖怪の存在をそこに居るものとして感じた。

その方向をは黙ったまま見つめた 4人もそちらを見ては見たが

そこには 闇だけが広がり 何も見えなかった。

「妖怪の姿を見たいですか?」

「見たくありません。」今度は4人にも妖怪がはっきりと見えた。

こちらがそこに居る事を気付いてないと思っている。

それにチラッとだけ視線を送って確認すると、

三蔵の左手にある銀の愛銃が火を吹いて 

その妖怪が血で染まって倒れたのが見えた。

だが5人を飲み込んだ闇は いまだそのベールを閉じたままだ。

 ここから出たいですか?」八戒は最後になるだろう質問をする。

「出たくありません。」その言葉に 5人の周りは幻術に陥る前の

乾いた砂地の大地に戻っていた。

少し離れた所に 胸から血を流して1人の妖怪が倒れている。







「俺達 戻れたって事か?」

狐につままれた様な顔をして悟空が言うと

「まっ そういう事なんじぁねぇの。」と悟浄が返した。

が素直に ちゃんと想いと反対の事を言ってくれたので 助かりました。

ひねくれた人では こうは簡単には行かなかったと思いますよ。」

八戒が に微笑ながら「お手柄でしたね。」と褒めてくれた。

「ひねくれてないと言うのなら 俺でも良かったかもよ。」

煙草をくわえて 悟浄が冗談を飛ばす。

「お前にだけは『会いたくない。』とは言われたかねぇな。」

三蔵も煙草に火をつけながら 悟浄を睨んで言った。

「まあまあ みんなが無事だったんですから いいじゃないですか。

さあ ジープを呼んで変身してもらいましょう。」

八戒は を促してそこを離れる。






少しだけ 後ろの三蔵たちと距離が出来た。

 反対語遊びは 面白かったですか?

僕は こういう言葉遊びは 結構好きですね。」

「八戒が意地悪な質問をしなければ 楽しいかもしれない。」

は つい本気で答えてしまった。

「僕の質問は意地悪でしたか?

答えの裏を読むのが また面白いんですよ。」

八戒の笑みに は困ったような顔をする。

そんなの様子に「素直で可愛いですね。」と 楽しそうに八戒は微笑む。

2人を見つけてジープが飛んでくると その場で変身してくれた。




八戒はを リアシートに抱き上げながら その耳元に

「鬼ごっこで鬼になると 嫌いな人を鬼にするために 

一番にその子を思い出して追いかける子と 

好きな人を思い出して 追いかける子と いるそうですよ。

はどちらの想いで 一番最初に僕を思い出してくれたのでしょうね?」と 

そっと甘く囁いた。  
 







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「Another Moon.r」沙季 様へ 
『サイト公開半年』おめでとうございます。
記念交換という事で 駄夢ですが献上させていただきます。
夢題「鬼ごっこ」に添っているのかどうか 甚だ疑問のドリになりました。
鬼になると 誰を追いかけるかで まず悩みました。
そして その人を選んだ理由で 後から悩みました。


「Another Moon.r」 様サイト公開半年に献上

「黎明の月」管理人 龍宮宝珠