NO.77 欠けた左手
常世の国で 国のすべての権力は王に集中している。
司法・立法・行政のほかに 禁軍と首都州師軍を合わせた「王師」の持ち主でもある。
だからこそ 王一人の手に国の行く末が握られていると言われるのだ。
神籍に入って神となり 不老不死を手に入れたと言っても
出来ることは人間並みということに 変わりはない。
そこで 必要となるのが優秀な官吏であり 強く厳しい将軍になる。
の場合 王に登極した時には既に 冢宰の八戒・大司馬(夏官長)の悟浄・太師の光明・
大僕の悟空・宰輔の三蔵が を支えるべく任に就いていてくれたので、
なれないながらも王としての仕事を始めることができた。
悟空と悟浄は その安全と剣技をもってを支えてくれている。
ほかの3人はいまだ政務に不慣れなを補佐するべく 交代で執務室に詰めていた。
天啓をもって王を選定し 共に践祚(せんそ)を終わった麒麟は、自国の宰輔になる。
宰輔とは王を補佐し 首都州の州侯の任に就くものだ。
その地位は非常に高く 王の家族以外では唯一『公』の爵位を与えられている。
三蔵もまた同様に 自国桃の宰輔であり 首都州紅州の州侯としての政務があるのだ。
午前中は王のや八戒と共に 朝議に出て国の議題について官吏らと話し合う。
午後は広徳殿にて 紅州の州侯としての政務をこなして一日を過ごす。
だが 三蔵は自分のが済むと必ずの執務室に訪れる。
忙しさでは に負けていない三蔵なのだが、自分を頼るを愛しいとも思い
つい王の執務室に足を運んでしまう。
たいていそこには 八戒か光明が奏上の意味を詳しく説明し 正しい判断が下せるように
に助言を与えている姿がある。
2人は三蔵が姿を見せると 執務室を辞して自分たちの仕事へと戻っていくのだった。
3人にそれぞれ指導をしてもらいつつ は
性格や自分への対応の違いについて 回想してみた。
光明太師は前例を挙げて の判断を助けてくれる。
桃末国の話のときもあるし 他国の前例を取り上げることもある。
その結末も含めて話を聞けば 自然と選ぶ答えが導き出されるといった指導の仕方だ。
まるで 少学の老師について 政務という講義を受けているような
錯覚にとらわれることさえある。
やはり光明太師は自分の師なのだと は思う。
八戒は1つのことについて が疑問を口に上らせると、関連する全てのことについて
説明をしてくれる。
それは 手取り足取りと言ってもいいほどに 細かく丁寧だ。
またそれが 的確で的を得ている。
最後の判断については 王としてにゆだねているが 正しい判断にたどり着けるように
助言してくれることも忘れない。
だからと言って 八戒がを軽く見ているわけではないことは 十分に分かっている。
以前にのことを『大衆を指導し 心服させる事の出来る素質や指導力がある。』と
言ってくれたことがあるが、『そのうち 僕がご助言申し上げることはなくなりそうで
寂しいですから、さらに勉強させていただいているのですよ。
何時までも 主上に頼りにされる冢宰でいたいですからね。』と
に追いつかせない努力を惜しまない人物でもある。
その2人との差が大きいのが 台輔の三蔵だ。
傍に座って 他の奏上を読みながらが仕事をするのを見守っていてくれる。
ただ 三蔵の場合 本当に見守っているだけなのだ。
分からないことは尋ねれば教えてくれるし 答えてはくれるが、
が下した判断について 良いとも悪いとも三蔵は言わない。
「三蔵はどう思う?」と 尋ねれば
「人に尋ねなきゃ 良いか悪いかもわからねぇのか?
が下した決断に 俺は従うから心配するな。」と 機嫌が悪そうに返事をするだけだ。
もっと どうしたら良いのか 桃末国の王としてどのようにしたらいいのかを言って欲しい。
三蔵の意見を聞かせて欲しい・・・・と は思う。
『台輔は主上のことには 他の誰よりも関心を払い 誰よりも甘い。』と 女官は言うが、
それは 王と麒麟を特別だと思いたい 女官たちの願望がそう見せているのではないかと
は思っている。
気晴らしに出た園林の四阿に 八戒と三蔵の2人の姿を見つけたは
三蔵の後ろから声をかけようと近寄っていった。
2人の話が聞こえるほどに近寄ったころ、三蔵の話に自分の名前が出たことで
はそこから動けなくなってしまった。
「だいたい お師匠様も八戒も には甘すぎる。
もう少し自分で判断させねぇと 何時までも奏上ひとつまともに読めねぇじゃねぇか。」
機嫌の悪そうな声で 三蔵がそう吐き捨てるようにいうのが聞こえた。
顔は見えないが 三蔵がどんな表情をしているのか には想像できた。
「台輔 主上は十分に努力しておいでですよ。
私どもが見張っていないと 主上のことです以前のように倒れるまで 仕事をされたり
勉強されたりするのではないでしょうか。
それに 僕も太師も主上を甘やかしてなどおりませんよ。
必要なことをお教えしているだけです。
何もご存じないのですから 説明が必要なのですよ。
それに私共は主上に高度なことを求めておりますので 厳しくしております。
一番に主上に甘いのは 台輔じゃありませんか。」
三蔵の言葉に心外ですねと笑みをこぼしながら 八戒は答えた。
「いや、俺は・・・・」
「おや?
そんなこと無いとおっしゃるつもりですか?
では思い出させて差し上げましょうか。
ご自分がお休みになる前には 台輔は必ず主上の無事なご様子を確認されに
主上の房室の前まで行かれておりますよね。
主上のお食事に主上がお好きな果物を必ずお付けするように 女官に指示されましたし、
主上がお使いになっておられる香は 誰も使わないようにと主上だけに限定されました。
それから 麒麟である台輔が主上に厳しくすることで
他の者たちが余計に主上にやさしく接すると
計算の上で、わざと主上に誤解をさせておいでです。
まだまだございますよ・・・後は・・・」
「もういい。」八戒の言葉を 三蔵がさえぎって止めた。
「では この桃源宮で台輔が一番主上に甘いとお認めになるのですね?」
「・・・・・・・。」
「台輔、沈黙は肯定と受け止めますが よろしいのですね?」
八戒の確認するような問いかけに 三蔵はしぶしぶ頷いた。
「だそうでございますよ、主上。
よろしゅうございましたね。
台輔はこの桃源宮で 一番主上に甘い男性だと自らお認めになりましたよ。」
八戒の言葉にあわてて振り返った三蔵は そこにの姿を認めて頭を抱えた。
「元来 左利きは器用だと申しますが、台輔の場合は心の左手を無くされているのですよ。
主上が ご心配するようなことはございませんよ。」
そう言って 2人を四阿に残し八戒は殿に戻って行った。
頭を抱えたままの三蔵の傍で がうれしそうに笑っていた・・・・と
その後のことを八戒に報告した悟空だった。
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「kiss×3」おきあん様 サイトとの相互リンク記念に キリ番77777番を贈呈させて頂き
リクを頂いたものです。
また、交換ドリとして「頂き物」に「伝えたい気持ち」をUPさせていただいております。
おきあん様 リクと相互リンク そして 素敵なドリをありがとうございました。
