NO.75 ひとでなしの恋





「あんたみたいな ひとでなしに 幸せな恋なんかできっこないわ。

私があの女の目を覚まさせてあげるわよ!

せいぜい 彼女に罵られて バカにされて 泣かれて 捨てられればいいのよ!

跡部が 私を捨てたように あのとかいう女に 振られればいいんだわ。」

そう言い捨てると その女は 走り去った。

「・・ちっ。」と舌打ちをして 俺もその場から立ち去るために歩き出した。

たしかに今の女は 以前に付き合ったことがあるな・・・と 景吾は思い出してた。







と・・・・だけと付き合うことにした 高校3年生の春から 景吾のまわりには

以外の女の影はなくなった。

だが 景吾がそれまで 付き合ったことがある女の子の数は 

両手両足を使っても余るほどで初夏を迎えようとしているのに 

いまだに 後始末が続いている。

それでも と付き合うまでは 皆が黙っていたし 罵られることもなかった。

人間 みんなと同じなら あきらめられることも 

誰か1人が 特別になると我慢が利かないらしい。

がちゃんと景吾の彼女になってから 特にこの手の事をよく言われる景吾なのである。

「言われてもしょうがねぇな。」

景吾は ぽつんと漏らした。








「そう思うのなら 私と幸せな恋をしてね。」

柱の影から 不意に愛しい女が 顔を出した。

「今の聞いてたのか?」

「ん、偶然だったけどね。

ねぇ 景吾、今のように言われて 私に振られたらどうするの?

前のような付き合いをする景吾に戻る?」

何を思ってか はそう景吾に質問してきた。

「いや 俺 の事あきらめるつもりねぇし、何度でも申し込むつもりだ。

それに たとえ 1人になっても もう遊びじゃ 女は抱かねぇ。

本気の恋って言うのがどんなのか 今は知っているからな。」

少し辛そうに 言うと の気持ちを確かめるように 手を差し出した。







その手に導かれるように 景吾の胸にが寄り添うと 景吾の両手がの腰に回された。

「今の女 に 何か言ってくるかもしれねぇ。

内容は 誇張してあるだろうが 事実だ。

まだ 刺されないだけマシなのかも知れねぇな。」

のブロンズに金糸の入った長い髪を ひと房 手に取りながら

少し遠い目をして 景吾はつぶやいた。

「景吾が 3年の間 私を見てきたように 私だって 景吾のこと見てきたんだもの、

女の子達が どう思うかは 分かるよ。

彼女の言葉を借りれば 本当にひとでなしだったと思う。

その容姿と頭脳 テニスの才能がなければ 今頃 本当に刺されていたかもしれないし

私も無事では済まないでしょうね。」

景吾の腕の中で は そう呟くように言った。








「手は回してあるが 何か 嫌がらせとかされてないか?」

「ん、大丈夫。

景吾ばかりじゃなくて 男テニレギュラーのみんなも 気に掛けてくれてるし、

私のことが憎くても 氷帝学園高等部 男テニを敵に回そうとする人はいないから・・・・。

ただ もし 景吾が以前の景吾を 酷い男だと思うならば 

彼女たちの想いを 先ほどのように受け止めてあげなければ ならないでしょうね。」

の言葉に 景吾は渋い顔をする。

「仕方がねぇだろうな。」

ため息と共に 吐かれた言葉に は思わず微笑んだ。








「だが それも 悪くねぇな。」

そう言いながら 軽く抱いていたの身体を 逃さないかのように抱きこんだ。

「どうして?」

「そのひとでなしな俺でも 恋焦がれた女と相愛になれたんだ。

少し位のペナルティーが 科せられる位で が俺の事を好きでいてくれるんなら、 

たとえ 相手にアドバンテージを握られてでも 払う価値がある。

いや この状態を守るために 進んで払うって事さ。」

そう言うと の頬にキスを1つ落として 腕に力を入れた。  

「景吾、ありがとう。」

自分の胸元で そうつぶやく愛しい女に 景吾の口元に笑みが浮かんだ。






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