NO.7 毀れた弓





常世の国の大学では 必須科目に 弓がある。

だから 官吏になっている大学卒業者は 全員が允許(いんきょ)を

弓でも取らなければならないことになる。

他にも乗馬もある。

勉学だけできても 官吏にはなれないのだ。





猪 八戒。

桃末国の冢宰にして 6官の長たる彼も また 大学で 弓を扱った一人だ。

剣は 大司馬の悟浄や大僕の悟空には 及ばないが それでも 武人としても

遜色がないほどには 扱うことができる。

だが 一番得意なのは 弓だと自分でも思ったいた。

時々 政務の暇を見ては 射場に赴き 鍛錬もしている。

冢宰となった今は それほど 剣も弓も必要ではないが、藤王は 女王だ。

どうしても 男性の王から比べれば 狙われやすい。

傍に仕える者 皆で守らなければならない 唯一無二の大切な女性。

大僕の悟空についで の傍にいる時間が長い 八戒は

己の役目についても 厳しく考えていた。









その日も 八戒は 射場で 弓の稽古をしていた。

後で八戒を見ていた 兵士達が 何かざわめいているのを感じて 振り返れば

そこには 微笑んで 兵たちの間から が手を振っていた。

急いで 姿勢をただし 跪礼を取る。

「主上、このような所に いかがされましたか?」

「いや なんでもないよ。

お師匠様の講義も終わったので 悟浄に剣の稽古をつけてもらおうと思ってきたんだけど、

みんなの相手で疲れたと言われて 断られただけだから、

禁軍の将軍の1人が 八戒が弓の稽古に来てるって 教えてくれたから 見に来た。

それよりも 八戒の弓 綺麗な型だね。

私は 剣はやるけれど 弓は持ったことなくて・・・・・・。」

興味があるのか 瞳をキラキラさせて そう言うに 八戒は 思わず 苦笑してしまう。








「私でよろしければ ご教授いたしますが、いかがですか?」

八戒は 手を差し出して を誘った。

「えっ、いいの?

八戒 忙しいんでしょう?」

「剣もそうですが、弓もまた 心を鍛える武道として たけていると思います。

それに 弓を引くと 落ち着きますし、己を見つめることにも つながりますよ。

私では 役不足でしょうが 知っております事は 出来る限り お教えします。」

八戒の優しい眼差しに はうれしそうに笑うと 頷いた。

「では お願いいたします。」

は そう言って 一歩前に進み出た。























ある日。

冢宰府を訪れたは 八戒の部屋の壁に 毀れた弓を見つける。

それまでもきっとそこにあったのだろうが、

今までは関心がなかったせいか 気に止めなかったのだろう。

その弓が 毀れているにもかかわらず 八戒が大切にしているようだったので

は 気になって聞いてみた。

「ねぇ 八戒、あの毀れた弓には 何かいわれがあるの?

大切に飾ってあるようだけれど・・・。」

その弓を指差して は尋ねた。

「あぁ、あれは 私の師匠のモノです。

自分が大切に使う武器や道具の毀れたものは、

愛しい人のお守りになると言うジンクスがありまして、

それで 大学への選挙に合格した折に 頂いたものです。」

八戒が その弓を 師からの心としてもっているのが解ると、もうれしくなった。








「素敵なお話だね。

自分の大切に使っていた道具が 愛しい者のお守りとなるなんて。」

「主上には そのような品はござませんか?」

八戒の問いに は首を横に振った。

「そうですか・・・・・、では 私が 今 愛用しております弓が 毀れましたら、

主上に 献上させていただきましょう。

でも 良い品ですから 中々毀れないと思います。

私も大切に使っておりますし いつになるかは お約束できませんが、

それでもよろしいでしょうか?」

八戒は にそう提案してみた。

はうれしそうに笑うと 頷いた。







「八戒に 愛しいと思われるなんて 凄くうれしい。

ありがとう、待っているね。」

「では 私は あの弓を 大切に愛しんで 使いましょう。

主上の手に渡った時に 何よりも守る力が 強くなるように・・・。」

そう言って 桃末国主従は にこやかに微笑んだ。








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