NO.65 冬の雀





心臓に 負担がかかるので お玉(伊藤 玉)は 

冬は屋外に出ることが少ない。

は そんな彼女のために 庭にバードフィーダーを 作った。

都会のわりには 色々な鳥がやってきては 水を飲み 水浴びをし 

餌を啄ばみしてゆく。

リビングから見える その小さな楽園は 心を暖かくしてくれる。







「やっぱり 雀が多いですよね。

まあ 一般的な留鳥だし 見慣れてはいますけど 冬だからでしょうか

沢山食べて 太っているから まん丸で 可愛いですね。」

一緒に窓辺に立っている お玉にが話し掛けた。

、あれは 太ってまん丸になっているわけじゃないんだよ。 

俳句の季語にもなっている 冬雀というんだ。

他にも 寒雀とかふくら雀とも言うんだけどね。

羽毛や胸毛に 空気を含ませて 暖をとる姿なのさ。

夏は 食べられるから 本当に太った雀がいるだろうが、

野生の鳥に都会の冬は辛いだろうよ。

夏に巣立ちした 小雀は この時期を集団で過ごすことで 

飢えや寒さをしのぐと言われているんだ。

それでも 小雀たち全員が 冬を乗り切れるとは限らない。」

お玉は その雀たちから 目を離さずにに教えた。







「そうなんですか・・・・・知らなかったなぁ。

巣立ちした小雀が そうして冬を過ごしているなんて 自然は厳しいのですね。

私もそうなっていたかもしれないと思うと 

すこしでも何かしなければいけない気になります。」

の言葉に お玉は 視線を室内へ戻した。

「それはどういうことだい?」

「まだ お話していませんでしたが 高校を卒業するに当たって 私は就職先も

住む所も決まっていなかったんです。

ご存知のように 孤児ですから 全寮制の高校を出たところで 

帰る当てもありません。

就職先も出来れば住み込みか 寮つきのところを捜したんですが 

ダメでした。こんな時代ですから・・・・・。」

はあのころを思い出していた。







「どうやって 八戒さんと?」

「はい、アルバイト先の紅茶専門店の常連さんでした。

そこのお嬢さんと 行く当てのない話をしていたら

『僕が雇ってあげましょうか?』と 言って下さったんです。

最初は お断りしようと思ったんですが、オーナーとお嬢さんの薦めもあって

住み込みの家政婦として 雇ってもらったんですよ。」

そこで はお玉を見て 微笑んだ。

「ふーん、そういうことだったのかい。

心細い思いをしてきたんだねぇ、可哀想に。

でも これからは 私もいるし 八戒さんだっているんだろうから 大丈夫さね。」

そんな育ちをしてきたのに ここまで 素直で優しいのは 

の人徳だろうと お玉は思った。




その夜。

風呂に入ったが いなくなった居間で 八戒とお玉はTVを見ていた。

「八戒さん 今日 から 2人の馴れ初めを聞かせてもろうたよ。」

「そうですか。

僕は今でも を雇ってくれなかった企業や人たちに 感謝しています。

そうでなければ 僕たちは あのまま 引き離されてしまったでしょうから。」

少し遠くをみつめるように 八戒はそう言った。

「八戒さんが を雇わなかったら 私とも出会わなかったんだろうねぇ。

でも 形は違うかもしれないが 何処かで 出会ったとも思いたいねぇ。」

「えぇ、そうですね。」

2人は と出会えた偶然を 必然だと思いたいのだった。








「庭に 雀が来ててね。

あの子 冬雀を知らなかったんだよ。

まだまだ 教えなけりゃならないことが沢山あるようだ。」

お玉は うれしそうに八戒に話す。

「冬雀ですか・・・・1羽じゃ寒いでしょうが、

何匹かで寄せ合っていれば この寒い風もやり過ごせるでしょう。」

庭のバードフィーダーを見て 八戒が答える。

「私らも を真ん中に この冬は暖かい想いをしてるじゃないか。」

「本当に・・・・・

この冬は のおかげで 暖かいです。」

そう言って 八戒は笑みを深くした。







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