NO.56 踏切





景吾のラケットのガットの張替えに付き合って 2人で歩いて下校した。

カバンや部活の道具なんかは 車で持って帰ってもらい 

ラケットバック以外は手ぶらの景吾と

いつも持っている サイドバックだけを持った

普通に付き合っている高校生のカップルならば 手をつないでの下校なんて

珍しくも何ともないことなのだろうが、そんなこともままならない2人には

初めての事だったりする。







校門前で 車を先に帰らせてから 景吾はと手をつないで歩いている。

は ずっと黙ったままだ。

「おい、どうかしたのか?」

沈黙に耐え切れず 景吾は思わず 話しかけた。

「ううん、なんでもないよ。

こうして 2人で歩いて下校するの初めてでしょ?

なんだか 凄くうれしくて それに こういう時 何話せばいいのかわからなくて・・・・。」

の頬が少し赤いな・・・・、

くそっ・・・めちゃ可愛い・・・・・ここが外じゃなけりゃ キスの一つもできるのに。)

景吾は そんな事を思いつつ 愛しそうにを見た。

その視線に気が付いて も景吾を見上げる。

愛しいと思い合う視線が 2人の間で絡んで 甘い甘い空気を作っている。








「おいおい、あれが 鬼とも言われる 帝王跡部の顔かよ。

ちょ〜だせぇな。」と 宍戸が 思わずぐちった。

「それより さん きれいですね。

跡部先輩じゃなくても あんな人を彼女にもてたら

誰でもああいう顔するんじゃないですか?」

鳳には 景吾よりものほうに関心があるように言った。

「そやかて 3年も片思いしとったんやで?

本気の恋を知ったからには 跡部でも ああなるんわ 仕方ないんちゃうか?

まあ 相手も ちゃんやったら 不足もないんやろうけどな。」

忍足は 景吾の3年を傍らで見てきたので 無理もないと弁護した。

他の何人もが 頷いて同意する。

それにしたって・・・・・跡部が 彼女にベタ惚れなのは 明らかだ。








いい男といい女のカップルは それだけでひと目を引くと言うのに

手をつなぎながら 2人の世界を作っているのだ。

しかも 男は冷徹で 尊大で 俺様で 勝つためには鬼にでもなり 帝王と呼ばれている

跡部景吾なのだから たまたま 後から歩く事になった 

氷帝学園高等部 男テニのレギュラーだって

いつもと違いすぎるその姿に 愚痴の一つがでても 仕方がないところである。

そんな複数の視線に 景吾が気が付かないわけはない。

あからさまに 不機嫌そうな顔をする景吾を 同様に後のみんなに気付いたは 

くすくすと笑った。

「笑うなよ!そんな奴は 置いていくぞ。」

に笑われたのが 面白くなくて 景吾はつないでいた手を離して

足早に歩くと 先に踏切を渡ってしまった。







そこへ 運悪く 警報機がなり 遮断機が降りた。

踏切を前に 置いてきぼりを食った は1人ぽつんと立っていた。

後ろを歩いていた 男テニレギュラーが の横に並んできた。

忍足をはじめとしたみんなは が跡部に置いて行かれたことに 驚く。

ちゃん、どないしたん?

跡部に酷いことでも言われたんか?」

さん、大丈夫ですか?」

それぞれが 心配して に声を掛ける。

それに 少し俯いたまま 首を振る

今の今まで これでもかというほど 甘い2人だったのに どうしたのか気になる。

あの跡部のことだ・・・・・女を一人置いていってとしても別に驚きもしないが、

その相手が だとなれば 話は別問題だ。

あんな奴やめて 俺の事を・・・・・と みんながそう思った。







ようやく電車が 通り過ぎて 遮断機があがる。

レギュラー陣に 何かを言われているを見て 

景吾があわてての傍に駆け寄ってきた。

「てめぇら に 何言いやがった。

俺の女に 手を出してただで済むと思うなよ。」

の肩を片腕で抱えて 景吾がレギュラーにすごんだ。

「なに言うんや跡部、それは こっちの台詞や。

跡部が ちゃん 置いて行ったんやろ?

うちらが来た時には ちゃん置いて行かれて 1人やったんやで。」

忍足の言葉に 景吾はを見た。

?」

「ううん、ただ あまりにもタイミングよく 遮断機が降りたものだから 

ちょっと悲しくなっただけ。

景吾が 本気で置いて行きたかったわけじゃないのは 分かってる。」

は 薄く笑って答えた。

景吾は肩を抱いていた腕を解いて の手を掴んだ。







すぐに 後ろを振り返ると 成り行きを見守っていたレギュラー陣へと視線を向けた。

「着いてくんなよ。」

ひと言捨て台詞をはくと を優しく引っ張って 歩き出す。

2人が 踏み切りを渡り終えて 自分たちから遠ざかったのを確認すると、

そこにたたずんだままの氷帝学園高等部 男子テニス部 レギュラー陣たちは、

ようやく 深呼吸を許された。

「なんだよ、跡部もやっぱり惚れた女には弱い ただの男じゃねぇか。

チョ〜ダサくなったな。」

「そんなことありませんよ。

跡部先輩が 優しくするのは さん1人だけなんですから、

男として ダサいと考えるのは 間違ってるんじゃないですか。」

「そやな 女1人大切に出来ん男が 

何においても 頂点を極められるとは おもわへんな。

本気な相手やからこそ 仲間でも傍に置かんわ 当たり前や。

いい女を 彼女にしとるんや 虫除けは当然ちゃう?」

それぞれに 感想を口にしながら 2人の後姿を見送る。






その視線の先に 手をつないだまま 歩き去る 景吾とが見えた。




 


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