NO.52 真昼の月





今日は 天気が良い上に 昨夜の雨で洗った空は 何処までも澄んでいた。

西に向かうジープのナビシートで タイヤから伝わる振動に身を任せていた三蔵は

ふと見上げたその青空に 薄く 白く 雲の欠片かと見まごう 月を見つけた。







長いともいえないが 短いともいえなかった を仲間に5人で続けていた旅路を 

思い返してみると、幾度となく あの月を仲立ちにして思い出される出来事が 

三蔵の脳裏に浮かぶ。

昼間は 移動に時間をとられているためか それほど 思い出すような事は少ない。

だが 宿で 野宿で 5人で 時には2人で その時々で事情は変わるものの

あの月の下での思い出は多い。





初めて 自分の感情に気付いて 出て行ったを追いかけた夜道。 


湖のほとりで 銀色にさざめく水面を照らす月を眺めながら の歌声に耳を傾けた夜。


妖怪から取り戻したの身体を 抱きかかえてジープで宿へ帰る道。


『三蔵のぬくもりを いただけませんか?』と言って 初めて情を交わした あの夜。







走馬灯のように その時々のが 思い出される。







そういえば 自分の事を 月のようだと言ったのは 誰だったろう。

三蔵は 自分の記憶の中を探してみた。

この髪色と紫水晶の瞳のコントラストの印象からか三蔵は今までに何度か自分を「月」に

例えられたことがあるのを 思い出す。

その度に外見を捕らえただけのその言葉を 馬鹿馬鹿しいと思いながら聞き流してきた。

だが 何時の頃からか 師匠である光明三蔵を太陽だと 光だとすれば 

それに照らされてのみ輝くことが出来る「月」は 

自分に相応しいかもしれないと そう考えるようにもなった。






ただ1人 孤独に 中天に浮かぶ月。

太陽に照らされた部分だけを 光らせる月。






それもいいかもしれないと・・・・・。







だが を愛するようになった自分は もうあの月と同じではない。

月には 共に生きるものはいない。

月には 帰る場所がない。

月には 待つ者がいない。

そして 月には 愛する者がいない。



心に抱いた女の名前を 魂で呼んでみる。

切なく溢れるこの想いは 月が持ちたくとも 持てないものだろう。

そう思って 三蔵は もう一度 月を見上げた。







願わくば・・・・・・・・・

そう・・・・・願わくば 夜空に浮かぶ 満月を と2人で見ながら

の酌で 酒が飲みたいと 三蔵は思う。

こんな ふさわしく無い場所で ふさわしくない青空の月を 1人見上げるよりは

「貴方のような・・・・」と 例えられて それが面白くは無くとも

が言うのであれば それを肴にしてもいい。







2人で 月を見る事が出来るのならば・・・・・・。  








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