NO.48 熱帯魚





その小さな世界には 全て必要なものはあるのか?と 

問えるものなら問うて見たいとガラスの水槽を泳ぐ魚を見ていた。

大小の差はあれど こうしたガラスの中でしか見たことはないが、

海の中では こんなに隙だらけの泳ぎはしていないだろう、

もし していたならば 弱肉強食の世界では

こうして成魚にはなりえなかっただろうから・・・・。

その目立つ色を纏った体と 無駄に見える美しいヒレは 

あの水底の世界では無駄なように三蔵には思えてならない。

そう まるで 自分の外見のように無駄なモノだと思える。




もっと 強い鱗や早く泳げる機能、毒を持った牙や棘等の方が 

生きていくためには必要なのではないか、そう思えてならない。

自分にもっと体力、知力、精神力の強さが必要なように・・・・。

そう 強くなるためになら 顔の醜悪や目立つ髪色 そして珍しい眼色など

平凡でも少しもかまわないとさえ思う。

それなのに 人は自分を見て『綺麗』だとか『男にしておくのは・・』

などと 勝手なことを言う。

少しも自分の本質を 見ようとはしない。

お前たちもそうなのかと、優雅にヒレを泳がすものたちを見る。

その外見にはない 何か別の意味があるかもしれない・・・と、

そんなことが浮かんだ。





「三蔵、どうしたの?」

水槽にじっと見入る俺を 不審に思ったのか 後のベッドの中からが声をかけた。

「あぁ、何でもない。」

そう返事をして 水中の花たちから目を放す。

振り返って見たの姿が、今まで見ていた熱帯魚たちに重なった。

俺に愛されるだけなら ここまで美しい顔をし 柔らかく甘い身体を持つ必要は無い。

なぜなら その容姿のせいで 他の害虫どもさえも惹き付けずには置かないのだから、

いっそ無駄にすら思える。

ベッドの端に腰をかけて その不安に俺を見つめる瞳を見ながら 

艶やかな髪を撫でてやった。




が 嬉しそうに俺に擦り寄ってきて 長い髪がシーツの上で波打った。

それがまるで 熱帯魚が優雅にヒレを動かすように見えた。

先ほど浮かんだ疑問に答えを与えられたような気がして もっと泳がせて見たくなる。

海から見れば 本当に小さい水槽で 満足しているのか尋ねられない代わりに、

自由を捨てて この腕の中で嬉しそうな笑顔で大人しくしている女に尋ねてみる。

、俺の腕の中は 窮屈か?」

いきなりの俺の質問に は訳が分からないという顔でこっちを見る。

俺はその視線を受けて あごでそこに揺らめいている水槽を指し示す。

は それを見て 納得がいったように 微笑んだ。





「狭くて 不自由だから 不幸とは限らないし 窮屈に感じるとは言えないと思うけど、

そういう三蔵は どうなの?

女なら選り取り見取りの貴方だけれど、私に縛られて 窮屈で不幸?」

俺の質問の意図を悟って 逆に尋ね返してくる。

になら 悪くねぇ。」

ここで俺が答えなければ からの答えは望めないことは 充分に知っている。

の話術はあの食えない笑顔の野郎と いい勝負なのだから、

不本意だが 答えておくのが得策だろうと判断した。

案の定、フフッと笑顔が見えた。

「私もよ、三蔵になら 悪くないわ。

この腕の中で 貴方は私を出来る限り自由に泳がしてくれるもの。

ただ、あの子達の気持ちは 私には分からないわ。

不幸かもしれないし 安全で幸せかもしれない。

全ては 受け取る側の問題でしょう?

・・・・・・・あの子達が幸せだといいわね。」

そう望んでいるような口調で ポツリと付け足した。




「あぁ、そうだな。」

俺の腕の中から 水槽に目をやるの瞳は 

それを通り越してもっと遠い所を見ているような気がした。

あの熱帯魚を通して 広い海原にでも思いを馳せているのだろうか・・・・、

口では この場所にいることが幸せだと言いながら 

どこかでこの腕から逃れたいと望んでいるんじゃないのかと、

不安が顔を覗かせる。

たとえ がそれを望んでも 俺にはお前を放すつもりがないんだと、

は俺の女だと どうしたら伝えることが出来るだろうか。

言葉では言い表せない思いを 汲み取って欲しくて 抱いた腕に力を入れた。





ガラスの中に閉じ込められないを せめてシーツの海に沈めることで

何処にも逃げられないように 俺の愛をその身体に刻み込む。

俺の与える快楽に お前はその髪や腕を優雅に動かして 

俺の眼下で泳いでみせる。




その熱帯魚のような動きが 俺をより虜にするとも知らずに・・・・・・
 

 




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