NO.42 メモリーカード





入浴後にタオルで身体を拭きながら 

備え付けの鏡に 映った自分の身体を見る。

その胸元に もう消えそうになった紅い跡を認めると 

はそれにそっと指をはわせた。

三蔵がをここに置いて 西へと旅立つ前夜に残してくれた 愛の跡。

いつもは これほど長く残るような跡をつけない三蔵が

あの夜だけは 薄い肌を食い破るかと思うほどに 跡を残すことに

強く執着していた。







うっ血の跡は 時間がたてば 少しづつ治癒してゆき 元の肌の白さに戻る。

そんな事は 三蔵だって だって 知っている。

この愛の跡が 消えてしまう頃になっても たぶん2人は まだ再会を果たすことが

出来ないだろうということも 分かっていた。

それでも 三蔵は の肌に 想いを強く残したがったし

は 痛いくらいのその行為を 三蔵だからこそ許した。

俯いても 見えるか見えない場所だから どうしても鏡の中にそれを探すことになる。

もう 他の場所に付いていた 他の紅い名残は 消えてしまい、

何とか分かるのは 鎖骨の少し下のそれひとつだけになった。






もっと 強く、長く、はっきりと 消えないほどに 何かを残して欲しかった。

見えない思いや 記憶にだけ残る姿や言葉ではない何か・・・・。

いつでも 

どこでも 

何度でも 

思い出したいだけ 思い出せる

三蔵が自分を愛していることを 三蔵に負担にならずに思い出すことが出来る

何かが欲しいと は思った。

「あまりに贅沢ですね。

三蔵の想いを託されたモノも あるというのに・・・・・。」

は鏡の前に置いておいた 

アメジストのピアスと 金細工のバングルの2つを いつものように 自分の身に着け

それに愛しそうに 指をはわせる。






それでも・・・・・

やっぱり何か そういうものがあればいいと は思う。

それは 無いものねだりをする子供の様な気持ちかもしれない。




だから・・・・



せめて夢の中で 会えるといいとは思う。


せめて夢の中で 三蔵に愛されたいと は願う。


せめて夢の中で 三蔵にも この想いが伝わればいいと は祈る。


記憶にある 三蔵の全てを思い出して 包まれたい。







そう思いながら 瞼を閉じて 深い闇へと落ちた。







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