NO.4 マルボロ
煙草が切れたと言った 三蔵に頼まれて は宿の近くの煙草屋まで使いに出た。
店先で 並べられているその種類の多さに驚く。
これだけの種類の煙草が 存在するからには 全てに味が違うのだろうか?と
疑いたくなるのも無理はない。
にしてみた所で 三蔵と悟浄の煙草の銘柄が違っていることや
紫煙の匂いが違うことなんかは 判別できる。
だが 色とりどりと言っても過言ではないほどの この種類の全てが
そうして 判別できるほど違いがあるのだろうかと うなってしまった。
興味深げに 見入っているに 店先の親父が気が付いて 話しかけた。
「娘さん、何を差し上げましょうかね。」
「マルボロを1カートン 下さい。」
愛しい三蔵が吸っているのだ 銘柄だけは ちゃんと覚えている。
「ごめんよ、どのマルボロかね?
その銘柄は 人気があってねぇ、11種もあるんだよ。
パッケージの色と箱の感じと ソフトかメンソールとかが わかれば
特定できるんだがねぇ。
どうかね?」
「そんなにあるんですか?
え〜っと、パッケージは 赤を使ってます。
それから 堅い箱ではなく クシャっと握りつぶしていたような覚えがあります。」
の言葉に 親父は顎に手を当てて 推理しているようだ。
「じゃあ これだな。」と の目の前には 三蔵の愛煙しているものが 差し出された。
「えぇ これだと思います。」とが笑顔になったのを 親父はうれしそうに見た。
「たぶん大丈夫だろうが 一応 他の赤い箱も見ておいてもらおうか。」
そう言って 数個を取り出すと の前に並べた。
「どうだい?」
「はい ご亭主が出してくださったものが あたりですね。」
の言葉に 親父は ニヤリと笑った。
「娘さん、その煙草を吸っている人は 娘さんのいい人かい?」
親父に言葉に は頬を染めた。
「ごめんよ、マルボロには 色々とサイドストーリーがあるんだが
その中で 私が気に入っているのが 1つあるもんでねぇ。
それを吸う人が 娘さんのいい人なら 教えてあげようか?」
親父の話に興味を持ったは お願いしますと 頼んでみた。
「Marlboroという名前は 『Mens Always Remember Love Because Of Romance Only』の
略だという説があるんだよ。
訳すと『男は いつも 恋を思い出す、男には 恋愛が大切だから・・・』というんだけどね。
どうだね?」と 親父は に教えてくれた。
親父の話しに は楽しく聞き入ってから 宿に帰った。
「ただいま帰りました。」
が 煙草屋の使いから 部屋に帰ると 不機嫌そうな三蔵が出迎えた。
「遅い!何処まで行ってやがった。
悟空が あんまり煩く言うんで 捜しに出そうとしてたんだぞ。」
煙草も切れている上に 傍で悟空が騒げば 三蔵の機嫌も悪くなって当たり前である。
は すぐに煙草を三蔵に渡すと 謝った。
悟空は が何事もなく 帰ってきた時点で 大人しくなってはいたが、
それから 休むために部屋に入るまでは の傍で ずっと付いていた。
そんな悟空を 三蔵は睨んではいたが 何も言わずに したいようにさせていた。
それは 母親においていかれないように 見張っている 子供のようで
八戒も悟浄もからかうこともできない情景だった。
は2人の部屋で 煙草をくわえて火をつけた三蔵を見ながら 先ほどの話を思い出していた。
「『Mens Always Remember Love Because Of Romance Only』か・・・・・、
それは 女にも同じでしょうね。」
そんな独り言を聞いて 三蔵は 片眉を上げた。
「今のもう一度 言ってみろ。」
「今日 煙草屋のおじさんが 教えてくれたんですよ。
マルボロには いくつかのサイドストーリーがあって
その1つが『Mens Always Remember Love Because Of Romance Only』
という言葉の頭文字を集めたのが
マルボロの名前の由来だというのが あるそうです。
でも それは 男ばかりではないと思うんですよ、女も恋を思い出します。」
の言葉に 三蔵は 煙草を灰皿に押し付けて もみ消すと、
立ち上がって 傍まで来て の身体を抱きかかえた。
「昔の恋を思い出しているのか?」
「いいえ、違います。
私が大切なのは 今ですから しいて言うなら
『 Because Of Romance Only』のところです。
それに 最近思うのです。
金蝉とは 恋をしていたということを・・・・、
三蔵 貴方とは愛という想いを分ち合っていると思っています。」
後から 抱えている三蔵の手に は自分の手を添えて そう言った。
「俺もそう思っている。」
三蔵のぬくもりに抱かれながら は 今を大切にしようと思った。
思い出ばかりを生きていた 三蔵と出会う前の自分はもういないのだからと・・・・・・・・。
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