NO.34 手を繋ぐ
「どこへ行きましょうか?」と 尋ねてくれた八戒に
は「八戒さんと一緒なら どこへでも。」と微笑んで答えた。
そして 促されるままに荷造りをして 飛行機に乗りホテルの専用バスに乗り込んで
こうして着いた先は 南国のリゾートホテルだった。
今回は ベッドルームは2部屋ではなかったが、
リビングと寝室の2部屋続きのスィートだった。
ボーイが荷物を置いて立ち去ると 八戒はすぐにの身体に手を回して抱き寄せた。
「観光もできますし、海で泳いでもいいですよ。
海がいやならプールもあります。
このホテルはこの岬全てが敷地で プライベートビーチは広くて綺麗だそうですし、
テニスコートもクルージングのための船もありますが、
岬を一周する遊歩道が整備されているそうです。
もうすぐ日没ですし、今日のところは散歩にでも出ませんか?」
額に軽いキスをして 八戒はそう提案した。
みんなの好意で 結婚式は規模は小さいながらも記念に残るものを挙げ、
は本当に幸せだった。
だから 俗に言う新婚旅行などは望んでいなかった。
確かに憧れはあったが 贅沢は言えないと思っていた。
八戒には職業柄〆切と言うものも在るし 扶養家族となったには
生活の全てを八戒に頼っていることに 少なからず後ろめたい想いがあったからだった。
八戒がどんなにを愛してくれていても 今まで一人で生きてきたには
慣れるのに時間がかかる問題だった。
お玉と養子縁組をしたことで 既に八戒よりもお金には困らなくなっていると言うのに
そんなところがらしいと八戒は 少し困ったように笑う。
婚約前の家出が八戒には ことさら こたえたと言うことなのだろう、
には お金の話は厳禁だと 2人は協定を結んでいるようだった。
だから今回の旅行も 全て八戒が決めてしまった。
そんな気遣いがにも伝わってきたので 誘ってくれた八戒に任せて
黙ってここまで着いてきただった。
と八戒は 連れ立ってホテルのプライベートビーチから 遊歩道への小道をたどる。
さすがに海辺だけあって 風に潮の香りが含まれている。
シーズンにはまだ少し早いと言うこともあって それ程の人影は見当たらない。
傾いている西陽を受けて 八戒が少しまぶしそうに目を細めた。
「、さあ行きましょう。」
そう言って差し出してくれた手に は笑顔で自分の手をゆだねた。
繋いだことの嬉しさから お互いが顔を見合わせて相手の笑顔を見つめあう。
の頬が 少し染まったことに 八戒の笑みが深くなる。
「、ピンクのアイシングをかけた様な顔で 僕を誘わないで下さい。
我慢できなくなりそうです。」
八戒がそう言うと は恥ずかしさからあわてて自分の手を引こうとした。
「駄目です。
恥ずかしがる必要はもうどこにも無いでしょう?
僕たち 法律上でも夫婦になったんですから・・・・ね、。
が 僕から逃げられないように・・・・・っと。」
八戒はそれまでただ繋いでいた手を 指を絡める繋ぎ方に変えると を促して歩き出した。
岬の突端までの道を 2人はゆっくりと歩く。
展望台のようになっているところまで着くと 目の前には夕日を受けてオレンジ色に染まる
美しい海が広がっていた。
「きれい。」
目の前のパノラマに立ち止まってしまったを 八戒は傍のベンチに座らせた。
絡めあった手はそのまま繋いであった。
「、僕は時々怖くなるんです。」この場に似つかわしくない言葉を吐いた八戒を、
驚いたようには見上げた。
「何がですか?」
八戒は夕日に染まる海に視線を合わせたまま の方を見ないで絡めた指に力を入れた。
「今 僕はこうしてを僕に繋いでいます。
これから どんな可能性があるか分からない貴女を 僕に繋いでしまいましたが、
早すぎたのではないか、後でが後悔するのではないかと・・・・・・
それを思うと 少し怖いです。」
ようやく八戒はを見て 自嘲気味な笑みを上らせた。
「そんなこと・・・・」
「『繋ぐ』と言う言葉には 意味が色々あって、
確かにこうして『手を繋ぐ』とか 『離れているものを結びつける』と言う意味が
一番使われてはいますが、他にも『結びとめて離れないようにする』とか
『拘禁する、自由をうばう』と言う意味も含んでいるんですよ。
結婚と言うと良い方ばかり考えがちですが、
今までとは違って僕に拘束されることになります。
恋人のときと違って それは法律上でも有効なんです。
僕にとっては 紐を鎖にしたようで安心なのですが、にはきついかも知れません。」
そんな言葉を言いながら 八戒は繋いだ手にもう一方の手も添えた。
「でも 八戒さん、私が八戒さんに繋がれた様に 八戒さんだって私に繋がれたんですよ。
もっと綺麗で 頭も良くて スタイルもいい女性だっていくらでも選べたかもしれないのに、
八戒さんの言葉を借りれば 私に繋がれて 自由を奪われてしまったんです。
後から後悔するのは 八戒さんかもしれないですよ。」
は自分の手を包んでくれている八戒に手を もう片方の手で優しく撫でた。
八戒の手がそのの手を捕らえて 2人は両手をそれぞれに繋いだ。
「僕が後悔するわけないじゃないですか。」
繋いだ手に力を込めて 八戒は少し怒気が入った声でに言った。
「じゃ 私も後悔するわけないです。
私が 八戒さんの元から離れたくて 何処かへ行きたいのなら
この状態は『繋がれている』と感じるかもしれません。
でも 私自身が 八戒さんの所にとどまりたくて
そして私自身も八戒さんを繋いでいるのですから、
『繋がれている』なんて思いませんよ。
私たち こうしてお互いに引き寄せ合っているんじゃないんですか?
逃げないし お互いを想い合う関係は『束縛や自由を奪う』と言うものではないでしょ?」
は 微笑みながら八戒に言った。
の言葉に 八戒の顔にも笑みがひろがった。
「そうですね、の言うとおりです。
夫婦はお互いを想い合う愛情で 繋がっているものですからね。
こうして握り合っている手は 逃がさない為に捕まえているんじゃありませんね。」
そう言って八戒はの額に 優しいキスを送った。
「私は八戒さんから 離れたくないために 繋いでいるんです。
誰よりも傍にいて 一緒に歩いて行くために・・・・だから 置いて行かないで下さい。」
「えぇ、もちろんですよ。
何処までも一緒です。
僕もを放しませんし 離れないためにこうして繋いでいますから。」
八戒の言葉には 微笑んで視線を合わせるために見上げた。
八戒は手を繋いだまま立ち上がり も促してベンチから立たせた。
「 愛しています。
私 猪八戒は 健やかな時も 病める時も 互いに敬い 死が2人を別つ時まで
愛しい妻 を愛し続けることを誓います。
、汝も誓いますか?」
翡翠色の瞳が 真摯な色をたたえて を見つめる。
「はい、誓います。」
八戒の瞳を見つめては八戒だけに誓った。
そのまま 瞼を閉じて八戒を待つ。
その桜色の唇に 再び誓いの口付けがなされた。
この手を繋いで
何処までも 貴方と一緒に・・・・・
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「98765番 キリリク」で遠野香桜様でした。
リクは「八戒ドリ」「百題からNO.34 手を繋ぐ」で
「今一緒にいることが何よりの幸せで、
これからもずっと一緒にいたい」という設定でした。
香桜様 申告とリクありがとうございました。
また UP日(7/15)はお誕生日との事
おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
