NO.28 菜の花
春早い田園に 一番に咲く黄色い花に は思わず微笑んだ。
黄色い小さな花を 精一杯咲かせて 春の訪れを 知らせている。
春とはいえ まだ寒い朝には 霜も降りるだろうし 下手をすれば
名残雪さえ降ることもあるだろうに
それでも 毎年 春の早い時期に その姿を認める花。
この街には 午後早い時間に着いたので
久しぶりに 悟空とは 共に散歩に出たのだ。
散歩には うってつけのいいお天気と 暖かな風に 2人は微笑み合う。
「 この花って畑に咲いているけれど 食べれるのか?」
その素直な疑問に は 悟空を愛しげに見る。
「この菜の花の種は 非常に油分を多く含んでいるんですよ。
だから 種を取って 油を絞るんです。
花が咲く前には 葉や茎や花になる芯さえも 柔らかくて 湯がけば食べられますよ。
ほうれん草とは違って あくが無いので さっぱりとしていて おいしいです。」
可愛い黄色い花を見ながら は悟空にそう教えた。
「でも 花が咲けば 食べれねぇんだろ?」
な〜んだという顔をして 悟空はつまらなさそうに言った。
「でも 大事な種を取るためには 花を咲かせなくては 種をつけませんよ。」
は 子供に諭すように 話した。
「う〜ん。」
食に異常に関心のある悟空には 花を咲かせると事よりも
食べられると言うことが重要のようだ。
自分の要求に 真っすぐな心を 愛しいと感じながらも は言葉を続けた。
「世の中には 一見すると 無駄だと思えるようなこともありますが、
それは 無駄ではなく のちに必要だからこそ 存在するのです。
目の前の事を考えれば 確かに菜の花が
食べられなくなる事は 無駄に思えるでしょう。
でも 油をとったり 来年の種を採ると言う事を考えれば 花を咲かせることは
必要な行為です。」
とかく 思ったとおりに 行動しがちな悟空を 少しでも危険な目に合わせないためにも
は 諭すように教えた。
「うん、そうだよな。
今年だけじゃねぇんだよな、来年も再来年もあるんだよな。
俺 今のことだけを考えてたよ。」
明るい声で そういった悟空は ニッコリ笑ってを見た。
「だからネ、悟空。
私達のこの西への旅も きっと必要なことなんだと思うのよ。
観世音が やろうと思えば 瞬時にして 吠登城にみんなを飛ばすことも出来るはずなの。
でも あえてそれをしないで 無駄とも思えるような 長い行程を科しているのも
後で きっとこの旅で得た事が 必要になるんだと思うの。
この先に 何があるのかは 私にも分からないけれど・・・・・。」
西に傾き始めた太陽が オレンジ色に世界を染め始めたのを見ながら
は その春の夕暮れを眺めた。
その美しい横顔に見とれた後 悟空も視線を 夕日に向けた。
「俺 難しい事は わかんねぇけどさ。
と三蔵と・・・・それから 八戒や悟浄と一緒に このまま旅が出来るんなら、
西がずっと遠くてもいいって そう思うよ。」
お互いに視線を合わせないままで 2人は微笑んだ。
「、そろそろ帰ろうぜ。
三蔵のハリセン すげ〜痛ぇんだから。
怒られるといやだからさ。」
今頃 苛々して 煙草を吸っている 不機嫌そうな顔を思い出しながら 悟空が促す。
「そうね、帰りましょうか。」
来た道を 宿に向かってたどることにする。
が 悟空にそっと手を差し出すと うれしそうな顔をして
悟空も手をつないできた。
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