NO.02 階段
祭祀の終わった後には 気だるい疲労感が付きまとうものだ。
それは 何度やってみても 変わることがないと 藤王は思う。
それほど 肉体には負担をかけてはいないのに 緊張のせいだろうか
関節が痛んだり 筋肉痛がおこったりする。
悟浄や悟空との剣技の鍛錬でも そんな事はあまりないことだし、
神籍に入って 病気や怪我などからは ある程度遠ざかった身なのに
わずかに半日ほどの祭祀でそれがおこるのは いかがなものかと 苦笑する。
慶東国の景王陽子とまでは 行かないまでも もそれなりに軽装で過ごす。
政務のない休日には 男物の袍衫を 着込んでいることも珍しくない。
今のように 祭祀となれば 王としても正装である大裘を着込んでいるので、
それだけで 疲れも倍増と言う所だった。
大裘の時には髪形や飾りを女官によって手が加えられるのだが
頭に冠をのせなければならないのも きっと疲れる原因なのだとは思う。
今日は 外に出かけたわけではなく 内宮 西宮の太廟に礼拝しただけなので
後にぞろぞろと官吏を従えながら 戻る所だ。
礼拝が終わった時点で 冢宰の八戒から 散会が言い渡されたのだが、
側近以外は 内朝まで戻るために 結局 みんなで同じ廊屋を歩くことになる。
自王を追い越して 先に行く者などがいれば 冢宰や台輔がどんな顔をするのか
官吏の者はよく知っているので 大裘を着て ゆっくりとしか歩けない 自王の後ろを
その美しい姿を目に 微笑ながら 着いて行くのである。
ようやく 官吏とたちの分かれ道に来た。
「みんなもお疲れだったね。
ゆっくりと休んで また明日の朝議で会おう。」とが言葉を掛けると、
跪礼を取って 臣がそれに答えた。
例の事件以来 太師以外の三蔵・八戒・悟浄・悟空の4人は
の私室がある正殿内に それぞれの私室を頂いている。
叫び声をあげれば それが届く距離にある房室。
正直言えば 三蔵は仁重殿 悟浄と悟空は内朝に 八戒は三公府の冢宰府に
房室があったほうが 楽だし 都合が良い。
それでも 多少の不便を押してでも の傍にいる事を 男達は望んでいた。
そんなわけで 他の官吏と別れても 5人は共に歩いていた。
果香山と言う山に広がっている 桃源宮には 階段が多い。
呪が施してあるので 見た目の段数はひどいものだが、
実際には たいして登ったり降りたりすることなく済ませるようにしてある。
だが 始めの何段かと 終わりの何段かには
足を落とさなければならないのも 確かだ。
先頭を歩いていた が 登りきった階段の最後で 大裘の裾を踏み込み
あわてて 着いた後ろ足も裾にからまって 前ではなくて 後に倒れてきた。
落ちそうになって 「きゃぁ〜。」と可愛い嬌声が上がる。
その声に 後に従っていた4人が 反応しないわけがない。
の身体を支えるために 差し出されたのは 8本の男の腕。
誰のもとに落ちても 心配がないことくらいは お互いが知っている。
それでも 愛しい大切な主上の身体を支える栄誉に
自分が浴したいという気持ちも本当のところだ。
を抱きとめ 腕の中で「ありがとう。」を言ってもらえたのは 誰?
------------------------------------------------